人生100年時代、先を見据えた抗凝固療法

サイトへ公開: 2021年03月15日 (月)
人生100年時代、先を見据えた抗凝固療法01

本コンテンツでは、非弁膜症性心房細動患者における抗凝固療法について、「先を見据えた抗凝固療法」をテーマとして医療法人 光川会 福岡脳神経外科病院 副院長 / 脳血管内科部長の矢坂正弘先生にご解説いただきます。抗凝固療法の経過中に起こりうる様々な課題に対する考え方や、プラザキサのエビデンスについてもご紹介いただきます。

イントロダクション~抗凝固療法の重要性

本邦の平均寿命は、2018年の時点で男性81.25歳、女性87.32歳まで延伸しており1)、人生100年時代といわれます。一方、日常生活に制限のある期間の平均は2016年の時点で男性8.84年、女性12.34年と報告されており2)、平均寿命と健康寿命との間には10年程の差があります。その原因は何でしょうか。
内閣府の「令和元年版高齢社会白書」では、65歳以上の要介護者などの介護が必要となった原因の15.1%を「脳血管疾患(脳卒中)」が占めており3)、脳卒中の初発・再発予防は重要な課題であると考えられます。
脳卒中の多くを占める脳梗塞の中でも、心原性脳塞栓症は重症4)であるだけでなく、再発も多いことが報告されており5)、起こさせないこと、再発させないことが重要です。心原性脳塞栓症の原因としては非弁膜症性心房細動が特に重要であり6)、リスクに応じて抗凝固療法を行うことが必要です。

抗凝固療法を開始後、侵襲的処置(アブレーション、PCI等)を受ける可能性、出血(内因性・外因性)する可能性、または脳梗塞を発症する可能性も0ではありません。そのため、抗凝固療法を開始する際、将来発生するリスクを加味し、先を見据えた方針を立てることが重要ではないでしょうか。

イントロダクション~抗凝固療法の重要性01

2020年3月に発行された日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン『2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン』では、心房細動における抗凝固療法の推奨が図示されています。非弁膜症性心房細動でCHADS2スコア1点以上の症例では、DOACが「推奨」、ワルファリンが「考慮可」と記されており、「DOACを使用可能な心房細動患者の脳梗塞予防を新規に開始する際には、ワルファリンよりもDOACを用いる」がクラスⅠ・エビデンスレベルAで推奨されています。

イントロダクション~抗凝固療法の重要性02

プラザキサのエビデンス~RE-LY試験の概要

ここで、DOACに関する推奨の根拠のひとつとして取り上げられている、プラザキサの国際共同試験(検証試験) RE-LY試験をご紹介します。

プラザキサのエビデンス~RE-LY試験の概要01

RE-LY試験では、脳卒中リスクを有する非弁膜症性心房細動患者の脳卒中/全身性塞栓症の発症抑制について、プラザキサ2用量の有効性と安全性をワルファリンと比較しました。

プラザキサのエビデンス~RE-LY試験の概要04

RE-LY試験:プラザキサの脳卒中/全身性塞栓症の発症率

その結果、主要評価項目である脳卒中/全身性塞栓症の発症率は、ワルファリン群で1.72%/年であったのに対し、プラザキサ150mg×2回/日群で1.12%/年、プラザキサ110mg×2回/日群で1.54%/年であり、プラザキサの両群ともにワルファリン群に対する非劣性が、プラザキサ150 mg×2回/日群では優越性が検証されました。プラザキサ110mg×2回/分では優越性は検証されませんでした。
また、アジア人集団での発症率は、ワルファリン群で3.06%/年であったのに対し、プラザキサ150mg×2回/日群で1.39%/年、プラザキサ110mg×2回/日群で2.50%/年と同様の傾向を認めました。

RE-LY試験:プラザキサの有効性01

出血性脳卒中の発症率は、ワルファリン群で0.38%/年、プラザキサ150mg×2回/日群は0.10%/年、プラザキサ110mg×2回/日群で0.12%/年と、プラザキサ両群ともに有意な低下を認めました。また、アジア人集団の解析でも同様の傾向が見られました。抗凝固療法中に最も起こしたくない合併症のひとつである出血性脳卒中の発症率が、プラザキサは人種によらず低いことが確認されています。

RE-LY試験:プラザキサの有効性02

RE-LY試験:プラザキサの大出血・消化管出血の発現率

こちらは、RE-LY試験のアジア集団における大出血・消化管出血の発現率です。アジア集団での大出血の発現率は、ワルファリン群で3.82%/年でした。プラザキサ150mg×2回/日群では2.17%/年、プラザキサ110mg×2回/日群では2.22%/年であり、いずれの用量も43%の有意なリスク減少が認められました。消化管出血の発現率は、ワルファリン群で1.41%/年でした。プラザキサ150mg×2回/日群では0.96%/年、プラザキサ110mg×2回/日群では1.15%/年でした。

RE-LY試験:プラザキサの安全性01

本試験の全体集団における有害事象は、プラザキサ150mg×2回/日群で1,332例(22.0%)、プラザキサ110mg×2回/日群1,243例(20.8%)、ワルファリン群949例(15.8%)で認められました。
主な有害事象の内訳はご覧のとおりです。
報告された重篤な有害事象は、うっ血性心不全(プラザキサ150mg×2回/日群:58例、プラザキサ110mg×2回/日群:84例、ワルファリン群:73例)、肺炎(71例、74例、62例)、心房細動(55例、64例、74例)、心不全(62例、51例、65例)、貧血(47例、34例、33例)などでした。
投与中止に至った有害事象は、貧血(61例、43例、39例)、胃腸出血(54例、39例、37例)、呼吸困難(43例、37例、33例)、消化不良(57例、57例、2例)、悪心(42例、41例、20例)などでした。
死亡に至った有害事象は、肺炎(9例、9例、7例)、敗血症(7例、6例、8例)、心不全(6例、6例、9例)、うっ血性心不全(7例、7例、5例)、悪性肺新生物(4例、7例、7例)などでした。

RE-LY試験:プラザキサの安全性02RE-LY試験:プラザキサの安全性03

“ Think FAST” campaign
では、抗凝固療法の実施中には、どのようなことに注意する必要があるでしょうか。こちらは、Fushimi AF Registryにおける心房細動患者の年齢分布、および日本外傷診療研究機構の調査による転倒患者数の年齢分布です。ご覧のように、心房細動は60歳以上で増加が見られます。一方、転倒も60歳以上で60歳未満より増加する傾向が認められます。
抗凝固薬を服用中の非弁膜症性心房細動患者(NVAF)53,969例を対象に行われた本邦の研究では、転倒・骨折を原因とした大出血の発現または緊急手術が必要となる方は、100人年あたり0.489と報告されています5)。2050年には国内の心房細動患者は約103万人とする推定も報告されており6)、仮にNVAFで抗凝固療法中の患者を100万人とすると、年間約5,000人は転倒・骨折が原因で大出血が発現または緊急手術が必要となっている計算です。

RE-LY試験:プラザキサの安全性04

このような抗血栓薬服用患者の転倒による危険性を啓発するため、日本では現在“Think FAST” campaignが行われています。抗血栓薬服用中の患者では、頭を打った際、少しでも違和感を感じたら受診を要することや、迅速に画像診断を行うこと、中和剤があれば中和を検討することなどを、医療関係者の皆さんにぜひ知っていただきたいと考えています。

RE-LY試験:プラザキサの安全性05

出血への対応方法

心房細動患者における抗凝固療法中の活動性出血への対応については、『2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン』でご覧のようなフローチャートが示されています。DOAC、ワルファリンいずれの場合も、中等度から重度の出血では休薬に加えて中和も考慮します。また、軽度であっても脳や眼底など重要臓器の出血では、中等度から重度に準じての対応を考慮します。

出血への対応方法01

※ガイドライン発行時に未承認だった andexanet alfa(アンデキサネット アルファ)が 2022 年 3 月 28 日に承認されました。

プラザキサ投与中に出血が起こった場合、特異的中和剤プリズバインドが使用可能です。こちらはプラザキサの定常状態でプリズバインドを投与して血液凝固マーカーを測定した国内第Ⅰ相試験の結果です。ガイドラインでも、「投与後1分以内にダビガトランの抗凝固作用は迅速かつ完全に中和され、持続的に約24時間効果が持続する」と記載されており、「早急にダビガトランの効果を是正する必要がある場合のイダルシズマブ(プリズバインド®)の投与」が、クラスⅠ・エビデンスレベルBで推奨されています。

出血への対応方法02

また、抗凝固薬服用中に脳梗塞を発症した場合、中和剤の有無により、その後の対応が異なります。
日本脳卒中学会『静注血栓溶解(rt-PA)療法 適正治療指針 第三版』では、プラザキサ服用患者について、aPTTが前値の1.5倍(目安:40秒)、最終服用後4時間以内のケースでは静注血栓溶解療法(t-PA)の適応外としています。一方で、中和剤の存在を背景に、「特異的中和薬であるイダルシズマブ(プリズバインド®)を用いて後に静注血栓溶解療法を行うことを、考慮しても良い。しかしながら高く推奨するには臨床事例の蓄積を欠くため、機械的血栓回収療法を施行できる施設において同療法を優先的に行うことを、考慮しても良い」と記述されています。これは、イダルシズマブ(プリズバインド®)自身は凝固促進作用や抗凝固活性を示さず、血液凝固・線溶系に影響を与えないためです。

なお、『2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン』では「出血リスクの高い患者に対しては大規模臨床試験において大出血発生率が低いDOAC(アピキサバン、ダビガトラン110mg、1日2回、エドキサバン)を用いる」がクラスⅡa・エビデンスレベルAで推奨されています。

出血への対応方法03

まとめ

このように、プラザキサは、非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制のエビデンスが150mg×2回/日と110mg×2回/日いずれの用量でも示されており、また万一の出血時等にも対処可能な特異的中和剤プリズバインドが存在します。そのため、冒頭でご紹介したような抗凝固療法開始後に起こりうる侵襲的処置(アブレーション、PCI等)、出血(内因性、外因性)、脳梗塞の発症、用量調整の必要性といったさまざまな課題を考慮したとき、プラザキサは「先を見据えた」抗凝固療法として根拠をもって選択できる薬剤のひとつであると考えられます。

【引用】

1)厚生労働省. 平成30年簡易生命表の概況. https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life18/index.html (2020-07-14閲覧)
2)橋本修二. 健康寿命の全国推移の算定・評価に関する研究(都道府県と大都市の推移および、将来予測の試み)
(平成30年度分担研究報告書)
.http://toukei.umin.jp/kenkoujyumyou/#h28 (2020-07-14閲覧)
3)内閣府. 令和元年版高齢社会白書(全体版).
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2019/html/zenbun/index.html (2020-07-14閲覧)
4)Hata J et al. Circulation 2013; 128(11):1198–1205.

5)山口 修平, 小林 祥泰.脳卒中2014; 36(5): 378–384.
6)Caplan LR. Cerebrovasc Dis 2018; 45(3-4): 149–153.
5)Yasaka M, et al. Cardiol Ther 2020; 9(1): 189-199.
6)Inoue H, et al. Int J Cardiol. 2009; 137(2): 102-107.

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