林 英守 先生 ガイドラインを踏まえた心房細動アブレーション周術期抗凝固療法

サイトへ公開: 2021年01月29日 (金)

心房細動カテーテルアブレーション周術期の抗凝固療法として、 複数のエビデンスと中和剤のあるプラザキサは有用な選択肢

林 英守 先生

林 英守 先生

順天堂大学大学院医学研究科 循環器内科学 准教授
2023年7月26日 東京にて開催

当院における心房細動カテーテルアブレーション(以下、アブレーション)治療

当院でアブレーション治療を施行する心房細動患者さんは他の医療機関からの紹介例が多く、全体の約8割を占めています。紹介例の半数は当院の関連施設、残りの半数は地域のクリニックなどの先生方からの紹介です。最近は、脳梗塞の二次予防としてアブレーションを施行するケースが増えており、脳神経内科の先生方からの相談も増えています。また、当院では年齢による制限は設けておらず、健康状態などに問題がなければ、80歳代の高齢の患者さんにアブレーションを施行することもあります。患者さんがアブレーションに期待することは、症状の改善、抗凝固薬の中止など様々です。そのため、アブレーションの施行に際しては、治療の成功率、合併症などについて十分に説明し、患者さんごとに治療ゴールを設定しています。

ダビガトランの開発経緯

ダビガトランは、ベーリンガーインゲルハイム社が開発した直接トロンビン阻害剤であり、胃内 pHの影響を受けないように適切なバイオアベイラビリティ※1の確保を目指したカプセル製剤です。そのための工夫として、ダビガトランカプセルには、添加物である酒石酸コアに原薬をコーティングしたペレットが含まれています(図1)。
※1投与された薬物(製剤)が、どれだけ全身循環血中に到達し作用するかの指標

図1

ダビガトランカプセルを服用後、胃液内でカプセルの崩壊が始まり、ペレットのダビガトランと酒石酸コアが溶解します。その際に、酒石酸コアが局所的に酸性の微小環境をつくるように働くことで、ダビガトランの溶解度が最大化し、吸収が高まるように設計されています(図2)。こうした製剤学的工夫によって、プロトンポンプ阻害薬の併用などによる胃液のpH上昇時においてもダビガトランは適切なバイオアベイラビリティの確保が目指せるよう設計されております1,2,3。高齢になるとPPIを服用していなくても、胃内のpHが上昇するケースも少なくないため、ダビガトランは高齢の患者さんにおいても、適切なバイオアベイラビリティが期待できると考えられます。

図2

患者さんの立場からみて注意すべきアブレーション周術期の合併症と適切な抗凝固療法の重要性

アブレーション周術期の出血性合併症としては心タンポナーデが重要ですが、臨床上問題になりやすいのは穿刺部の合併症です。術後に血腫が形成されてしまうと、疼痛や腫脹に悩まされる患者さんは多く、再度アブレーションが必要になった場合に施行を躊躇してしまうこともあるため、こうした患者さん目線の合併症対策も全体の治療成功率を高める上で必要だと考えています。また、脳梗塞は重篤な合併症の1つであり、その予防には、周術期の適切な抗凝固療法が重要です(図3)。

図3

アブレーション周術期における抗凝固療法のエビデンスは蓄積されつつあり、近年、アブレーション周術期のワルファリン継続投与とDOAC(直接作用型経口抗凝固薬)継続投与の比較に関する臨床試験の結果が続々と報告されています。
そのなかで、プラザキサ継続投与の有効性を検討したRE-CIRCUIT試験では、ワルファリン継続投与に比べて、プラザキサ継続投与で出血リスクが減少し、血栓塞栓症リスクは同程度であることが示されました(図4)。

図4

このような結果を受けて、2019年3月に発表された「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)」では、心房細動アブレーション周術期の抗凝固療法として、「ワルファリンもしくはダビガトランによる抗凝固療法が行われている患者では、休薬なしで心房細動アブレーションを施行することが推奨される(クラスI、レベルA)」と記載されています(図5)。私は、アブレーション周術期の出血性合併症や血栓塞栓症を防ぐためにも、ガイドラインに沿った適切な抗凝固療法を行うことは大切だと思います。

今後も地域における講演会や研究会などを通じて、クリニックなどの先生方にも、適切な抗凝固療法が広く普及していくことを期待しています。

図5

文献

  1. 社内資料: 心房細動および整形外科手術施行患者の母集団薬物動態解析 (2011年1月21日承認, CTD 2.7.2.2)
  2. Stangier J, et al. Clin Pharmacokinet 2008; 47: 47-59.
  3. Liesenfeld KH, et al. J Thromb Haemost 2011; 9: 2168-2175.
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