長内 宏之先生 ガイドラインを踏まえた心房細動アブレーション周術期抗凝固療法

サイトへ公開: 2021年01月29日 (金)

心房細動カテーテルアブレーション周術期における抗凝固療法とダビガトランの位置づけ

長内 宏之 先生

長内 宏之 先生

公立陶生病院 循環器内科 主任部長 
2023年7月28日に愛知県にて実施

当院における心房細動カテーテルアブレーション治療

当院ではカテーテルアブレーション治療(以下、アブレーション)を年間350件以上施行しており、そのうち心房細動に対するアブレーションは全体の約70%を占めています。これまでアブレーションは、抗不整脈薬などの薬物治療が無効あるいは副作用で継続できない場合に良い適応とされていましたが、改訂された「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)」(以下、ガイドライン)1)では、症候性再発性発作性心房細動に対する第一選択治療としてアブレーションを施行することがクラスⅡa、レベルBで推奨されました(図1)。また、持続性および長期持続性心房細動に対しても、症候性の再発例であればアブレーションを第一選択とすることに妥当性があると明記されました。当院では、特に発作性の患者さんは治療成功率も高いことから、積極的にアブレーションを勧めており、今回の改訂はわれわれアブレーションを施行する医師にとっても心強く感じています。また、当院ではアブレーションの適応の判断にあたり、年齢制限は設けておらず、患者さんの健康状態や症状の程度を考慮し、基準に合致する場合には、たとえ90歳を超える高齢の患者さんであってもアブレーションを施行することもあります。

図1

ダビガトランの開発経緯

ダビガトランは、ベーリンガーインゲルハイム社が開発した直接トロンビン阻害剤であり、胃内 pHの影響を受けないように適切なバイオアベイラビリティ※1の確保を目指したカプセル製剤です。そのための工夫として、ダビガトランカプセルには、添加物である酒石酸コアに原薬をコーティングしたペレットが含まれています(図2)。
※1 投与された薬物(製剤)が、どれだけ全身循環血中に到達し作用するかの指標

図2

ダビガトランカプセルを服用後、胃液内でカプセルの崩壊が始まり、ペレットのダビガトランと酒石酸コアが溶解します。その際に、酒石酸コアが局所的に酸性の微小環境をつくるように働くことで、ダビガトランの溶解度が最大化し、吸収が高まるように設計されています(図3)。こうした製剤学的工夫によって、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の併用などによる胃液のpH上昇時においてもダビガトランは適切なバイオアベイラビリティの確保が目指せるよう設計されており1,2,3、高齢になるとPPIを服用していなくても胃内のpHが上昇するケースも少なくないため、ダビガトランは高齢の患者さんにおいても適切なバイオアベイラビリティが期待できると考えられます。

図3

アブレーション周術期に注意が必要な合併症と適切な抗凝固療法の重要性

アブレーション周術期には脳梗塞、左房食道瘻、心タンポナーデなど、様々な合併症に注意する必要があります(図4)。合併症のなかでも頻度が比較的多い心タンポナーデに関しては、コンタクトフォースを用いて手技を丁寧に行うことでリスクを最小限に抑えることができると思います。また、脳梗塞は、頻度は低いものの、発症すると後遺症が残る可能性が高いことから、適切な抗凝固療法による脳梗塞予防が重要です。

図4

前述のガイドラインには、心房細動アブレーション周術期の抗凝固療法として、「ワルファリンもしくはダビガトランによる抗凝固療法が行われている患者では、休薬なしで心房細動アブレーションを施行することが推奨される(クラスI、レベルA)」と記載されています(図5)。ガイドラインにはRE-CIRCUIT試験4)、ABRIDGE-J試験5)が引用されており、アブレーション周術期のプラザキサ継続投与、短期休薬(1~2回)を伴うプラザキサ投与により、いずれも有効性が示されました。

図5

アブレーション治療における今後の展望

抗凝固療法中の心房細動患者さんによっては、検査/手術などのために、抗凝固療法を短期的に中断せざるを得ないケースが出てくることも考えられます。私は、予期せぬ事態に備え、適応がある場合には心房細動アブレーションを行い、脳梗塞の発症リスクを減らしておくことのメリットは大きいと考えています。近年、アブレーション施行目的で当院を紹介受診する患者さんは増えていますが、今後は紹介元の先生方にもアブレーション周術期の血栓塞栓症や出血性合併症を防ぐためにも、ガイドラインに沿った適切な抗凝固療法が普及されることを期待しています。 

文献

  1. 社内資料: 心房細動および整形外科手術施行患者の母集団薬物動態解析 (2011年1月21日承認, CTD 2.7.2.2)
  2. Stangier J, et al. Clin Pharmacokinet 2008; 47: 47-59.
  3. Liesenfeld KH, et al. J Thromb Haemost 2011; 9: 2168-2175.
  4. Calkins H, et al. N Engl J Med 2017; 376: 1627-1636.
  5. Nogami A, et al. JAMA Netw Open 2019; 2: e191994.

4),5)はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施しました

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