スペシャルインタービュー 心房細動アブレーション周術期抗凝固療法

サイトへ公開: 2021年01月29日 (金)

心房細動カテーテルアブレーション周術期に用いる抗凝固薬として、 ガイドラインでの推奨と中和剤を有するプラザキサを検討

福田 怜子 先生(左)中原 志朗 先生(右)

(2019年7月26日 横浜にて実施)

福田 怜子 先生(左)

獨協医科大学埼玉医療センター 循環器内科 助教

中原 志朗 先生(右)

獨協医科大学埼玉医療センター 循環器内科 准教授

当院における心房細動カテーテルアブレーション治療

当院では年間420〜430件のカテーテルアブレーション治療(以下、アブレーション)を施行しており、そのうちの約8割は心房細動に対するアブレーションです。高齢化社会の進展に伴い、心房細動患者さんの平均年齢も年々上昇していますが、当院ではアブレーションの適応の判断にあたり、年齢による制限は設けていません。症状があり、フレイルなどの問題がない場合は、80歳台の患者さんにもアブレーションを施行しています。心房細動患者さんは、「脳梗塞などのイベントが、いつ自分の身に起こるか分からない」といった漠然とした不安を抱えている方が増えていると感じます。心房細動は薬剤の服用のみで根治することが難しいため、アブレーションの施行はそうした患者さんの不安解消につなげられるのではないかと考えています。
このたび改訂された「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)」(以下、ガイドライン)では、症候性発作性心房細動の場合、第一選択としてアブレーションを施行することがクラスⅡaで推奨され、持続性および長期持続性心房細動に対しても、症候性で再発を繰り返す場合は第一選択としてのアブレーションが妥当とされました1)。アブレーションの効果を十分に得るためには早期に施行することが望ましく、抗不整脈薬の使用を経ずにアブレーションを選択できるようになったことで、よりよい治療成績を得ることにつながると考えています。

アブレーション周術期における脳梗塞などの合併症を防ぐためにも適切な抗凝固療法の実施は重要

アブレーション周術期の主な合併症として、脳梗塞、心タンポナーデ、穿刺部出血などが挙げられますが、われわれが特に注意しているのは、後遺症が残る可能性の高い脳梗塞です。脳梗塞への対策として、当院ではアブレーション施行前に経食道心エコー検査や、3D-CT検査などで心内血栓の有無を確認しています。また、血栓形成を防ぐために、術前には抗凝固療法を適切に行う必要があります。ガイドラインには、心房細動アブレーション周術期の抗凝固療法として、「ワルファリンもしくはダビガトランによる抗凝固療法が行われている患者では、休薬なしで心房細動アブレーションを施行することが推奨される(クラスI、レベルA)」と記載されています1)。アブレーション周術期の血栓塞栓症や出血性合併症を防ぐためにも、ガイドラインに則った抗凝固療法を行うことは重要だと考えています。

当院におけるアブレーション周術期の抗凝固療法プロトコールと今後の展望

これまで、当院では出血リスクを考慮してアブレーション施行前日に抗凝固薬を休薬し、ヘパリン置換を行っていました。しかし、ガイドラインにおけるプラザキサの推奨や万一の際に対処可能な中和剤の存在を踏まえ、アブレーション施行予定の心房細動患者さんでプラザキサ以外の抗凝固薬が投与されている場合は、アブレーション施行前の外来時に、プリズバインドという中和剤が存在することを患者さんに伝え、了承いただいた上でプラザキサへ変更しています。アブレーション施行当日については、午前症例の場合は朝の内服を休薬、午後症例の場合は朝も内服いただいた上で、アブレーションを施行しています(図)。プラザキサの場合、アブレーション周術期における継続投与、短期休薬の有効性を検証したRE-CIRCUIT試験2)やABRIDGE-J試験3)といった複数のRCTが存在するため、エビデンスをもとに継続投与または短期休薬を選択できる点もメリットです。今後、より多くの患者さんに適切な治療を受けていただくために、多くの先生方に新しいガイドラインの内容をご理解いただき、アブレーションをより安全に施行できる環境づくりをしていくことも、アブレーション施行施設に求められる役割であると考えます。

当院におけるアブレーション周術期の抗凝固療法プロトコールと今後の展望

文献

1)日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン:不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版).
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2018_kurita_nogami.pdf (2019年10月閲覧)
2)Calkins H, et al. N Engl J Med 2017; 376: 1627-1636.
3)Nogami A, et al. JAMA Netw Open 2019; 2: e191994.

2)、3)はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施しました。

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