心房細動カテーテルアブレーション周術期における抗凝固療法とダビガトランの位置づけ
![清水 渉 先生](/jp/sites/default/files/inline-images/PXA_071_1.png)
清水 渉 先生
日本医科大学大学院医学研究科 循環器内科学分野 教授
2023年7月26日 東京にて開催
ダビガトランの開発経緯
ダビガトランは、ベーリンガーインゲルハイム社が開発した直接トロンビン阻害剤であり、胃内 pHの影響を受けないように適切なバイオアベイラビリティ※1の確保を目指したカプセル製剤です。そのための工夫として、ダビガトランカプセルには、添加物である酒石酸コアに原薬をコーティングしたペレットが含まれています(図1)。
※1 投与された薬物(製剤)が、どれだけ全身循環血中に到達し作用するかの指標
![図1](/jp/sites/default/files/inline-images/PXA_071_%E7%94%BB%E5%83%8F12_1.png)
ダビガトランカプセルを服用後、胃液内でカプセルの崩壊が始まり、ペレットのダビガトランと酒石酸コアが溶解します。その際に、酒石酸コアが局所的に酸性の微小環境をつくるように働くことで、ダビガトランの溶解度が最大化し、吸収が高まるように設計されています(図2)。こうした製剤学的工夫によって、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の併用などによる胃液のpH上昇時においてもダビガトランは適切なバイオアベイラビリティの確保が目指せるよう設計されており1,2,3)、高齢になるとPPIを服用していなくても胃内のpHが上昇するケースも少なくないため、ダビガトランは高齢の患者さんにおいても適切なバイオアベイラビリティが期待できると考えられます。
![図2](/jp/sites/default/files/inline-images/PXA_071_%E7%94%BB%E5%83%8F13.png)
アブレーション周術期におけるダビガトランの位置づけ
心房細動に対するアブレーションは、出血や血栓塞栓症のリスクを伴うため、周術期に適切な抗凝固療法を行うことが求められます。現在、「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)」において、心房細動アブレーション周術期の抗凝固療法について、「ワルファリンもしくはダビガトランによる抗凝固療法が行われている患者では、休薬なしで心房細動アブレーションを施行することが推奨される(クラスⅠ、レベルA)」と記載されています(図3)。
この根拠として引用されているRE-CIRCUIT試験では、アブレーション周術期のワルファリン継続投与に比べて、プラザキサ継続投与で出血リスクが減少し、血栓塞栓症リスクは同程度であることが示されており4)、プラザキサはアブレーション周術期における抗凝固療法の選択肢の1つとして重要な薬剤であると考えています。
![図3](/jp/sites/default/files/inline-images/PXA_071_%E7%94%BB%E5%83%8F14.png)
文献
- 社内資料: 心房細動および整形外科手術施行患者の母集団薬物動態解析 (2011年1月21日承認, CTD 2.7.2.2)
- Stangier J, et al. Clin Pharmacokinet 2008; 47: 47-59.
- Liesenfeld KH, et al. J Thromb Haemost 2011; 9: 2168-2175.
- Calkins H, et al. N Engl J Med 2017; 376: 1627-1636.
ベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施しました。