不整脈非薬物治療ガイドライン ~スペシャルインタビュー~ :髙橋 尚彦先生

サイトへ公開: 2021年01月29日 (金)

心房細動カテーテルアブレーション周術期は、ガイドラインに則った適切な抗凝固療法を行うことが、安全な治療を提供することにつながる

髙橋 尚彦 先生

髙橋 尚彦 先生

大分大学医学部
循環器内科・臨床検査診断学講座 教授

開催日:2019/3/30
開催場所:横浜

当院における心房細動カテーテルアブレーション治療

当院でカテーテルアブレーション治療(以下、アブレーション)を施行する心房細動患者さんは、60~70歳代で高血圧を合併している方が多く、CHADS2スコア1点(高血圧のみ)の方が大部分を占めています。アブレーションの主な目的は、症候性の心房細動の治療ですが、近年、脳梗塞の二次予防を目的としてアブレーションを施行するケースも散見されます。また、以前はアブレーションのリスクを懸念して、高齢の患者さんに対してはアブレーションを積極的に行っていませんでした。しかし、デバイスや治療技術の向上などによって安全性が高まったことから、現在は年齢制限を設けずに、患者さんの健康状態や合併症の発現リスクなどを総合的に評価し、アブレーションによって得られるベネフィットがリスクを上回ると判断した場合は、アブレーションを施行しています。
アブレーション周術期に注意が必要な合併症として、心タンポナーデ、脳梗塞、左房食道瘻、横隔神経麻痺などがあげられます。最も頻度が高く、注意が必要な心タンポナーデに対しては、アブレーション施行中に心腔内エコーを用いて穿刺部位を丁寧に確認しながら心房中隔穿刺を行うことで、リスクを最小限にすることが可能です。また、当院では術中の脳梗塞の発症を防ぐために、活性化凝固時間(ACT)を300秒以上に維持するようにヘパリンコントロールを行っています。なお、アブレーション施行前の血栓の有無を確認するために、リスクに応じて経食道心エコー検査を行っています。

ガイドラインにおいてアブレーション周術期の抗凝固療法として推奨されたプラザキサの有用性

アブレーション周術期における重篤な合併症の1つである血栓塞栓症リスクを軽減させるためには、適切な抗凝固療法が必要不可欠です。アブレーション周術期におけるプラザキサ継続投与の有効性を検討したRE-CIRCUIT試験では、ワルファリン継続投与に比べて、プラザキサ継続投与で出血リスクが減少し、血栓塞栓症リスクは同程度であることが示されました1)。また、プラザキサには特異的中和剤であるプリズバインドがあるため、万一、出血性合併症が発現した場合も、プラザキサの抗凝固作用を速やかに中和することが可能です。このようなエビデンスや中和剤の存在を踏まえて、8年ぶりに改訂された「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)」では、心房細動アブレーション周術期の抗凝固療法として、「ワルファリンもしくはダビガトランによる抗凝固療法が行われている患者では、休薬なしで心房細動アブレーションを施行することが推奨される(クラスI、レベルA)」と記載されています2)。さらに、日本で行われたABRIDGE-J試験では、アブレーション周術期に短期休薬(1〜2回)したプラザキサ投与の有効性も示されています3)。アブレーション周術期の血栓塞栓症や出血性合併症を防ぐためにも、ガイドラインに則った抗凝固療法を行うことは重要だと考えています。

当院におけるアブレーション周術期の抗凝固療法プロトコール

最後に、当院におけるアブレーション周術期の抗凝固療法のプロトコールをご紹介します。当院では、午前にアブレーションを施行する場合、アブレーション施行当日朝の抗凝固薬は休薬し、アブレーションを施行しています。一方、午後にアブレーションを施行する心房細動患者さんで、プラザキサ以外の抗凝固薬が投与されている場合は、アブレーション施行前日(入院日)からプラザキサに変更しています。そして、アブレーション施行当日朝もプラザキサを服用いただき、アブレーションを行っています(図)。なお、アブレーション施行翌日以降は、「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)」に従って、少なくとも3ヵ月間は抗凝固療法を継続し、その後は患者さんの状態によって、抗凝固療法の継続期間を決定しています。今後、アブレーション周術期における適切な抗凝固療法がより普及していくことを期待しています。

当院におけるアブレーション周術期の抗凝固療法プロトコール

文献

1)Calkins H, et al. N Engl J Med 2017; 376: 1627-1636.
2)日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン:不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版).
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2018_kurita_nogami.pdf (2019年5月閲覧)
3)Nogami A, et al. JAMA Netw Open 2019; 2: e191994.

1)、3)はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施しました。

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