原田先生 スペシャルインタビュー 不整脈非薬物治療ガイドラインをふまえて

サイトへ公開: 2023年08月30日 (水)

原田 将英 先生 
藤田医科大学医学部 循環器内科 准教授 
2023年7月12日 名古屋にて開催 

カテーテルアブレーション(以下、アブレーション)による早期洞調律維持の重要性

心房細動に対する治療介入が遅れると、心房リモデリングが進行し、心房細動に関連した合併症のリスクが上昇します。心房リモデリングが進行すると、リズムコントロールが困難になり心房細動の治療成績が下がるため、早期から洞調律の維持を目指すことが重要です。EAST-AFNET4試験では、早期から洞調律を維持することによって患者さんの予後の改善が認められています(図1)。

アブレーション治療には2つの目的があると私は考えています。1つはQOLの改善、もう1つは予後の改善です。症候性心房細動の場合、たとえ高齢の患者さんであったとしても、症状をコントロールしQOLを改善するためにアブレーションを考慮してもよいと考えています。一方、無症候性心房細動の場合、患者さんの年齢が若ければ、予後の改善を期待して積極的にアブレーションを考慮してもよいと考えています。かかりつけ医の先生方が心房細動を発見された場合は、症状の有無に関わらずアブレーションという治療選択肢があることを患者さんに伝えていただくとともに、早めに専門医に御相談いただき、アブレーションの適応について評価することが望ましいと考えています。

カテーテルアブレーション(以下、アブレーション)による早期洞調律維持の重要性

ダビガトランの開発経緯

ダビガトランは、べーリンガーインゲルハイム社が開発した直接トロンビン阻害剤です。胃内のpHによってバイオアベイラビリティ※1が影響を受けないようカプセル製剤として工夫がなされています。ダビガトランカプセルには、添加物である酒石酸コアに原薬をコーティングしたペレットが含まれています(図2)。

ダビガトランの開発経緯

※1 投与された薬物(製剤)が、どれだけ全身循環血中に到達し作用するかの指標

ダビガトランカプセルを服用すると、胃液内でカプセルの崩壊が始まり、ペレットのダビガトランと酒石酸コアが溶解します。その際に、酒石酸コアによって局所的な酸性の環境が作られ、ダビガトランの溶解度が最大となり、吸収が高まるよう設計されています(図3)。このような製剤の工夫によって、プロトンポンプ阻害剤(PPI)の併用など胃液のpHが上昇する場合においてもダビガトランのバイオアベイラビリティが保たれます1,2,3。PPIの併用がなくても加齢に伴い胃内のpHが上昇している場合もあり、高齢の患者さんにおいても適切なバイオアベイラビリティが期待できます。

ダビガトランの開発経緯

心房細動アブレーション周術期におけるダビガトランの位置づけ

アブレーションは侵襲手技であり、周術期の合併症に注意が必要です。アブレーションを安全に行うためには、適切な抗凝固療法が重要です。周術期におけるダビガトラン継続投与の安全性および有効性を検討したRE-CIRCUIT試験(図4)では、ワルファリン継続投与群と比較してダビガトラン継続投与群で有意に出血リスクが減少し、血栓塞栓症のリスクは同等であることが示されました。

心房細動アブレーション周術期におけるダビガトランの位置づけ

このような結果を受け、不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)では、ワルファリンもしくはダビガトランによる抗凝固療法が行われている患者さんにおいて、休薬なしでアブレーションを行うことがClass I、Level Aで推奨されています(図5)。さらに、ダビガトランには特異的中和剤であるイダルシズマブが使えるという利点があり、周術期に重篤な出血性合併症が起こってしまった場合でも迅速に抗凝固作用の中和が可能です。以上のことから、アブレーション周術期に用いる抗凝固薬としてダビガトランは理にかなった選択肢のひとつと考えます。

心房細動アブレーション周術期におけるダビガトランの位置づけ

心房細動アブレーションの今後の展望

カテーテルアブレーションは心房細動の患者さんにとって効果的な治療方法で、症状やQOLが劇的に改善する患者さんも珍しくありません。一方、アブレーションを安全に行うためには適切な抗凝固療法が欠かせません。個々の患者さんにおいて出血性ならびに血栓塞栓性合併症のリスクを評価し、薬剤の特徴やエビデンスを踏まえて、最適な抗凝固薬を選択する必要があります。今後も、抗凝固薬に関するエビデンスが蓄積され、患者さんにとってよりよい治療が普及していくことを期待しています。

文献

  1. 社内資料: 心房細動および整形外科手術施行患者の母集団薬物動態解析 (2011年1月21日承認, CTD 2.7.2.2)
  2. Stangier J, et al. Clin Pharmacokinet 2008; 47: 47-59.
  3. Liesenfeld KH, et al. J Thromb Haemost 2011; 9: 2168-2175.
ページトップ