井上 耕一 先生 アブレーション周術期の抗凝固療法における薬剤選択について

サイトへ公開: 2021年01月28日 (木)

RE-CIRCUIT試験により実証された周術期におけるプラザキサ投与の有効性

井上 耕一 先生

井上 耕一 先生

国立病院機構大阪医療センター
循環器内科 不整脈センター長
(インタビュー当時:特定医療法人渡辺医学会 桜橋渡辺病院心臓・血管センター 内科部長)

開催日:2018/3/25
開催場所:大阪

当院における心房細動カテーテルアブレーション周術期の抗凝固療法

当院において、カテーテルアブレーション治療(以下、アブレーション)を施行する心房細動患者さんは、60歳台前半と心房細動患者さんの中でも若年で、CHADS2スコアが1点前後と低く、腎機能が比較的良好な患者さんが多い傾向にあります。持続性心房細動に対しては、できる限り早期にアブレーションを施行するようにしています。一方、発作性心房細動では、症状や抗不整脈薬の効果などを総合的に判断して施行の適否を決定しています。なお、発作性心房細動に対するアブレーションは、肺静脈の形態がバルーンに合わない症例、心房粗動や心房頻拍合併例では高周波を用い、それ以外ではバルーンを用いることが多くなっています。
アブレーション周術期は、穿刺部出血や心タンポナーデなどの出血性合併症、血栓塞栓症、食道関連合併症に注意が必要です。穿刺部出血予防としては、静脈穿刺(パンクチャー)スキルの向上や適切な縫合による止血が大切なポイントになると思います。また、心タンポナーデに対してはコンタクトフォース付きのカテーテルを用いることや、画像検査による出血確認を適切な頻度で行うことが重要だと考えています。そして、患者さんの状態によっても異なりますが、当院では血栓塞栓症を予防するため、抗凝固薬をアブレーション施行前日まで必ず投与し、施行当日朝1回のみ休薬するようにしています。例えば、プラザキサの場合は、アブレーション施行当日朝1回のみ休薬し、術後は施行当日夜から投与を再開しています。また、術中は穿刺後できる限り早期からヘパリンの投与を開始するようにしています。

RE-CIRCUIT試験とJ-CARAFの解析で一貫したエビデンスが示された

われわれは、日本不整脈心電学会の主導で行われているアブレーションに関する全国的な登録調査、J-CARAF(The Japanese Catheter Ablation Registry of Atrial Fibrillation)のデータを用いた解析により、周術期の直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)投与はワルファリン投与と比べ、心タンポナーデを含む合併症リスクを減少させること、さらにプラザキサ投与が周術期の心タンポナーデのリスクを減少させることを報告しています。そうした中、アブレーション周術期におけるプラザキサ継続投与の有効性をワルファリン継続投与と比較検討したRE-CIRCUIT試験により、ワルファリン継続投与に対してプラザキサ継続投与で国際血栓止血学会(ISTH)基準による大出血の発現率が有意に低下し、血栓イベントは同程度に抑制されることが示されました(図)。このように、アブレーション周術期におけるプラザキサ投与の有効性について、大規模臨床試験であるRE-CIRCUIT試験と、実臨床のレジストリーであるJ-CARAFの解析に一貫性があることは注目に値します。

アブレーション周術期の抗凝固療法としてプラザキサは良好な選択肢になり得る

RE-CIRCUIT試験により、アブレーション周術期におけるプラザキサ投与の有効性が示されたことに加え、特異的中和剤プリズバインドを有することから、アブレーション周術期の抗凝固療法としてプラザキサを選択することは理にかなっています。
さらに、RE-CIRCUIT試験に続きABRIDGE-J試験において、アブレーション周術期に短期休薬(1~2回)したプラザキサ投与の有効性が示されたことにより、個々の患者さんの出血リスクと血栓リスクを考慮して継続か休薬かをエビデンスを基に選択できる点もプラザキサの強みと言えます。私は、アブレーション施行予定で抗凝固薬未投与の心房細動患者さんに抗凝固薬を新規導入する際は、プラザキサを選択するようにしています。

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