渡邊 敦之 先生 アブレーション周術期の抗凝固療法における薬剤選択について

サイトへ公開: 2021年01月28日 (木)

心房細動カテーテルアブレーション周術期の抗凝固療法において中和剤の存在は付加価値になる

渡邊 敦之 先生

渡邊 敦之 先生

岡山大学病院
循環器内科 講師

開催日:2018/7/12
開催場所:東京

当院でカテーテルアブレーション治療を施行する心房細動患者さんの特徴

当院でカテーテルアブレーション治療(以下、アブレーション)を施行する心房細動患者さんの平均年齢は70歳程度であり、大学病院ということもあり、持続性心房細動で心不全および器質的心疾患(心筋症、心筋梗塞など)を合併するハイリスク症例が他施設から紹介されるケースも多いことが特徴です。
アブレーション周術期に注意すべき合併症としては、心タンポナーデや穿刺部血腫などの出血性合併症、脳梗塞が挙げられます。当院では出血性合併症の発現を予防するため、手技を丁寧に行うことに加え、午前症例の場合はアブレーション施行当日朝の抗凝固薬を休薬するといった工夫をしています。一方、脳梗塞の発症を予防するため、術中は活性化凝固時間(ACT)を300秒以上に維持するようにヘパリンコントロールしています。

中和剤の登場以降、アブレーション周術期の抗凝固療法としてプラザキサを選択

アブレーションは心房細動に対する代表的な非薬物治療となりましたが、出血性合併症および血栓塞栓症のリスクがある手技であることを忘れてはなりません。特に、心タンポナーデなどの重篤な出血性合併症も一定の頻度で発現することが報告されており、緊急時の対処法を考慮しておくことが重要です。プラザキサの特異的中和剤プリズバインドに関しては、出血時はもちろんのこと塞栓発症時のrt-PA投与前の中和剤として使用することが可能です。
また、2017年3月にアブレーション周術期におけるプラザキサ継続投与の安全性と有効性を検討したRE-CIRCUIT試験が発表され、ワルファリン継続投与群に比べてプラザキサ継続投与群で出血リスクが有意に減少し、血栓リスクは同程度であることが示されました。さらに、国内からはアブレーション周術期におけるプラザキサ短期休薬(1~2回休薬)とワルファリン継続の安全性と有効性を検討したABRIDGE-J試験も実施されており、これらのエビデンスは、アブレーション周術期にプラザキサを継続するか休薬するかを決定する際の有用な判断材料になり得ると考えられます。こうしたプラザキサのエビデンスとともにプリズバインドという特異的中和剤の特徴から、2016年11月より当院では、アブレーション施行前にプラザキサ以外の抗凝固薬が投与されている患者さんにおいても、中和剤があることを説明し、患者さんに納得いただいた上でプラザキサに変更しています(図)。

アブレーション周術期における抗凝固療法の今後の展望

これまでに報告された臨床試験結果から、今後、直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)の禁忌例を除いては、アブレーション周術期の抗凝固療法としてDOACがスタンダードになっていくことが予想されます。プラザキサはこれまでに報告されたエビデンスに加え、特異的中和剤も有することからアブレーション周術期抗凝固療法の選択肢として合理的ですが、より安全に活用するために当院ではクレアチニンクリアランス40mL/min以上の患者さんを対象としています。また、アブレーション周術期における心タンポナーデなどの出血性合併症を発現した際は致死的になることもあるため、医師および患者さんが安心して治療に臨める体制づくりをしていくことが、この治療をさらに普及させていく上で重要であると思います。

アブレーション周術期における抗凝固療法の今後の展望
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