メディカルアフェアーズの担当者に聞く、プラザキサ®の軌跡

サイトへ公開: 2023年07月28日 (金)

「非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中および全身性塞栓症の発症抑制」を適応とした直接トロンビン阻害剤であるプラザキサ®は、発売から10年以上の歴史を有する薬剤です。
本コンテンツでは、日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社(以下、NBI)の社員で、長年プラザキサ®に携わり、プラザキサ®について深い知識を有するメディカルアフェアーズ(MA)の深谷 拓さんから、MAの仕事内容やプラザキサ®が今まで描いてきた軌跡、MAの立場からの患者さんへの思いなどを伺いました。

2023年3月 東京にてインタビュー

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Topics

  • MAの仕事は、臨床現場で必要な臨床エビデンスを創出し、新薬を育てること。
  • プラザキサ®を安定的に体内へ吸収させる製剤学的工夫は、添加物の酒石酸。
  • プラザキサ®が発売されてから10年以上、患者さんに適切に使用いただくために、医療従事者へいち早く、かつ正確に臨床エビデンスを届けるミッションに挑んできた。
  • 患者さんのために、これからも臨床エビデンスの創出を続ける。
  • 薬剤師の方々へのメッセージ

MAの仕事は、臨床現場で必要な臨床エビデンスを創出し、新薬を育てること。

医薬品は、新薬が開発され発売されるのがゴールではなく、その後、新薬に関するさまざまな情報が収集され、その薬剤がより安全で効果があり、治療の可能性が広がるように育てていくことが大切です。
MAの重要な役割の1つとして、新薬の発売後に、承認時に行われた臨床試験(治験)よりも幅広い患者集団である実臨床で使用された際の薬剤の影響の可能性に関する情報などを集めて、適正使用につなげることが挙げられます。そのため、MAの業務内容は、製造販売後調査(PMS)や新たな臨床研究などの計画、論文作成、学会発表、アンメット・メディカル・ニーズに関する情報収集、臨床エビデンスやサイエンスに特化した情報の発信など多岐にわたります。
昨今、規制やコンプライアンスなどが厳しくなる中、倫理面にも配慮しながら、より論理的に正しい科学的データを構築することは容易ではありませんが、論文作成や学会発表などによって、自身の仕事が形になったときに大きなやりがいを感じます。また、患者さんからご意見を伺う機会は少ない職種ですが、医師とのディスカッションを通じて、患者さんが困っていることを把握し、それを解決するために必要なデータを構築できるように工夫することもやりがいにつながっています。

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プラザキサ®を安定的に体内へ吸収させる製剤学的工夫は、添加物の酒石酸。

プラザキサ®は、2011年に上市した「非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中および全身性塞栓症の発症抑制」を適応とした直接トロンビン阻害剤であり、胃内pHの影響を受けないように適切なバイオアベイラビリティ※1の確保を目指した製剤学的工夫が施されたカプセル剤です。プラザキサ®カプセルには、添加物である酒石酸コアに原薬(ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩)をコーティングしたペレットが含まれています(図1)。
※1投与された薬物(製剤)が、どれだけ全身循環血中に到達し作用するかの指標

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ダビガトランエテキシラートの溶解度は酸性側で最も高く、pHが上昇するほど低下します。プラザキサ®カプセルを服用後、胃液内でカプセルの崩壊が始まり、ペレットのダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩と酒石酸コアが溶解します。その際に、酒石酸コアが局所的に酸性の微小環境をつくるように働くことで、ダビガトランエテキシラートの溶解度が最大化し、吸収が高まるように設計されています(図2)。こうした製剤学的工夫によって、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の併用などによる胃液のpH上昇時においてもプラザキサ®は適切なバイオアベイラビリティの確保を目指した設計がされています。

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高齢になるとPPIを服用していなくても胃液のpHが上昇するケースも少なくないため、プラザキサ®は高齢の患者さんにおいても適切なバイオアベイラビリティが期待できると考えられます。


プラザキサ®が発売されてから10年以上、患者さんに適切に使用いただくために、医療従事者へいち早く、かつ正確に臨床エビデンスを届けるミッションに挑んできた。

プラザキサ®が発売されてから10年以上が経過し、本剤を取り巻く環境にはさまざまな変化がありました(図3)。

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特に印象に残っているのは、2016年にプラザキサ®の特異的中和剤であるプリズバインド®が発売されたことです。一般的に抗凝固薬を服用中の患者さんでは、転倒や交通事故などによって受傷された際、出血のコントロールが難しいという状況がありました。プリズバインド®が発売されたことで、プラザキサ®を服用中の患者さんが出血事象や出血リスクのある手技が必要となった場合、適切な出血のコントロールが期待できるようになりました。一方で、抗凝固薬を服用している患者さんでも虚血事象である脳梗塞が起こるリスクはどうしても残ります。脳梗塞発症時には静注血栓溶解(rt-PA)療法などが施行されますが、抗凝固薬を服用している患者さんの場合は、抗凝固薬に対する中和剤の種類によりこのrt-PA療法が行えない場合があります。このアンメット・メディカル・ニーズがある中、プリズバインド®は発売され、脳梗塞急性期の治療に携わる医師から、プラザキサ®服用中の脳梗塞患者さんに対するrt-PA療法について多くのご意見をいただき、大きな反響がありました。その後、2019年に発表された「静注血栓溶解(rt-PA)療法 適正治療指針 第三版1)」では、プラザキサ®の最終服用から4時間以内に脳梗塞を起こされた患者さんに対してプリズバインド®投与後にrt-PA療法を考慮しても良いことが記載されました。

また、2017~2018年は、RE-CIRCUIT試験※2、RE-VERSE AD試験※3、RE-DUAL PCI試験※4など新規性のある臨床エビデンスの結果が次々と発表され、専門家の先生方への適切な情報発信など、多忙を極めましたが、気力と根性、そして、何より社内外のチームワークによって乗り越えることができたと考えています。
プラザキサ®は、本剤発売後とプリズバインド®臨床導入後の2回のPMSを実施しており、2回目のPMS(J-Dabigatran Surveillance 2)は、プリズバインド®の発売による本剤の処方患者像に与えた影響を検討するために実施しました。その結果、プリズバインド®の臨床導入以降のプラザキサ®投与患者さんのアウトカムは1回目のPMS時の結果と同程度であり、日常診療において、先生方から適切に処方いただけていることがわかりました2)。私たちは、医療従事者に対して適正な情報を迅速かつ正確に届けることが最も大切だと考えており、心房細動に対する抗凝固療法を取り巻く環境の変化に合わせて臨床エビデンスを提供してきたことが、プラザキサ®の適正使用につながったと自負しています。

プラザキサ®の臨床エビデンスの軌跡を振り返って感じる本剤の強みとして、2009年に発表された日本人を含む第Ⅲ相国際共同試験であるRE-LY試験※5において、2つの用量(150mg×2回/日、110mg×2回/日)それぞれに独立した臨床エビデンスが示され、患者さんの年齢や腎機能などを考慮した使い分けができることが挙げられます。また、RE-CIRCUIT試験※2の結果より、「2021年日本循環器学会(JCS)/日本不整脈心電学会(JHRS)ガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈非薬物治療3)」に心房細動アブレーション周術期の抗凝固療法として推奨クラスI、エビデンスレベルAで記載されていることも注目すべき点だと考えられます。加えて、プリズバインド®に関しても医師主導研究を実施いただいているなど、さらなる臨床エビデンスの構築を継続していることもプラザキサ®の強みにつながると考えています。

※2 RE-CIRCUIT試験:アブレーション施行予定の非弁膜症性心房細動患者を対象に、アブレーション周術期における抗凝固療法としてワルファリン継続群に対するプラザキサ®継続群の安全性と有効性を検討した。
※3 RE-VERSE AD試験:プラザキサ®服用中の生命を脅かす出血または止血困難な出血を発現している患者もしくは、緊急を要する手術または侵襲的処置を必要とする患者を対象に、プリズバインド®による抗凝固作用の中和効果を検討した。
※4 RE-DUAL PCI試験:ステント留置を伴う経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けた非弁膜症性心房細動患者を対象に、ワルファリンを含む3剤併用抗血栓療法に対するプラザキサ®を含む2剤併用抗血栓療法の有効性と安全性を検討した。
※5 RE-LY試験:脳卒中リスクを有する非弁膜症性心房細動患者を対象に、ワルファリン群に対するプラザキサ®150mg×2回/日群、プラザキサ®110mg×2回/日群の有効性と安全性を検討した。 

患者さんのために、これからも臨床エビデンスの創出を続ける。

私は薬学部を卒業し、薬剤師の資格を有しておりますが、薬学部志望の動機となった「困っている患者さんの力になれるように、医療に貢献したい」という気持ちを現在も大切にしています。今後も医師や薬剤師の方々からアンメット・メディカル・ニーズを汲み取り、その解決を目指して邁進していきたいと思っています。また、プラザキサ®の適正使用の推進のために、医療従事者と患者さん双方の情報アクセスのルートなどの構築にも貢献していきたいと考えています。

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薬剤師の方々へのメッセージ

プラザキサ®などの抗凝固薬は、患者さんが脳卒中などの予防効果を直接実感しにくいことから、服薬アドヒアランスが維持しづらい患者さんも見受けられます。そのような中、薬剤師の方々は、医療機関を受診した患者さんが最後に接する医療従事者であることから、適切な医療を提供するための最後の砦だと考えております。そのため、薬剤師の方々から抗凝固薬を服用する意義や正しい服用方法などを患者さんにきちんとお伝えいただくことで、より適切な抗凝固療法が普及し、患者さんへ薬剤の福音を確実にお届けできるように、今後とも患者さんへのご指導をお願いできればと思っております。

引用:
1) 日本脳卒中学会 脳卒中医療向上・社会保険委員会/静注血栓溶解療法指針改訂部会. 脳卒中 2019; 41: 205-246.
2) Yamashita T, et al. J Cardiol 2022; 80: 255-260.
3) 日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン:2021年JCS/JHRSガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈非薬物治療.
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Kurita_Nogami.pdf (2023年6月閲覧)
2)はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施しました。
プラザキサ®に関する臨床試験について、より詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
・RE-LY試験:
https://pro.boehringer-ingelheim.com/jp/product/prazaxa/prazaxa-warfarin-comparison-atrial-fibrillation-re-ly
・RE-CIRCUIT試験:
https://pro.boehringer-ingelheim.com/jp/product/prazaxa/re-circuit-study
・J-Dabigatran Surveillance 2:
https://pro.boehringer-ingelheim.com/jp/product/prazaxa/anticoagulant-therapy-for-patients-and-their-families
・RE-VERSE AD study
https://pro.boehringer-ingelheim.com/jp /product/prazaxa/proactive-anticoagulant-therapy-6

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