心房細動アブレーション周術期における薬剤師の役割

サイトへ公開: 2023年06月29日 (木)
松元 一隆 先生

医療法人 渡辺医学会 桜橋渡辺病院 薬剤科 科長
松元 一隆 先生
2023年2月 大阪にてインタビュー

心房細動に対するカテーテルアブレーション治療(以下、アブレーション)の症例数は、技術およびデバイスの進歩に伴い飛躍的に増加しています。一方で、アブレーションは出血性合併症や血栓塞栓症のリスクがあるため、アブレーション周術期における適切な抗凝固療法の実施は非常に重要です。このような背景の中、近年、薬学的管理を担う薬剤師の役割に対して期待が高まっています。本インタビューでは、多くのアブレーション施行症例を有する桜橋渡辺病院の薬剤科 松元 一隆 先生に、アブレーション周術期における薬剤師の役割や薬学的管理、多職種による連携の在り方、今後の展望についてお話を伺いました。

Contents

●桜橋渡辺病院におけるアブレーション周術期の取り組み

Q1:桜橋渡辺病院におけるアブレーション周術期の流れ(入院~退院)について教えてください。

Q2:アブレーション周術期における薬剤師の業務について教えてください。

Q3:アブレーション周術期における抗凝固療法の管理のポイントについてお聞かせください。

●他の医療従事者や患者さんとのコミュニケーションのポイント

Q1:かかりつけ薬局の薬剤師とのコミュニケーションのポイントをお聞かせください。

Q2:医師とのコミュニケーションのポイントについてお聞かせください。

Q3:疑義照会などの業務に対する薬剤科スタッフの育成において心がけていることをお聞かせください。

Q4:患者さんとのコミュニケーションのポイントをお聞かせください。

●アブレーション周術期における薬剤師の意義と今後の展望

Q1:アブレーション周術期における薬剤師の介入の現状について、先生のお考えをお聞かせください。

Q2:アブレーション周術期に薬剤師が介入することで得られるメリットを教えてください。

Q3:薬剤師の立場から、今後より適切なアブレーション治療が普及するために必要な取り組みについて、先生のお考えをお聞かせください。

桜橋渡辺病院におけるアブレーション周術期の取り組み

Q1:桜橋渡辺病院におけるアブレーション周術期の流れ(入院~退院)について教えてください。

当院は循環器疾患専門病院のため、薬剤師がアブレーション周術期に携わる機会は数多くあり、過去にアブレーション施行中に心タンポナーデを発現した患者さんを実際に経験したことがあります。その患者さんは、直接作用型経口抗凝固薬であるプラザキサ®(ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩製剤)を服用していましたが、心タンポナーデ発現時に服用中の抗凝固薬の種類をすぐに確認できなかったことで、スタッフ間の連携がうまく取れず、プラザキサ®の中和剤であるプリズバインド®の投与が遅れたことがありました。患者さんは大事には至りませんでしたが、こうした経験を機に患者さんがより安全にアブレーションを受けられるように医師と連携して改善策を検討しました。その経験から、万一、出血性合併症が発現した場合に速やかな対応ができるように、「心房細動アブレーション入院時薬剤クリニカルパス(以下、入院時クリニカルパス)」を作成しました。なお、高度の腎障害を伴うなどの理由から慎重に抗凝固療法を行わなければならない患者さんにも、適切なアブレーションを受けていただけるように対応しています。
入院時クリニカルパスを用いた当院におけるアブレーション周術期の流れは、下記になります(図1)。

桜橋渡辺病院におけるアブレーション周術期の流れ(入院~退院)について教えてください

まず、アブレーション施行前の最終外来受診時に、医師が患者さんの服用している抗凝固薬の種類を考慮しながら、入院時クリニカルパスの導入可否を判断します。そして、入院日(アブレーション施行前日)に薬剤師による面談を行ってから、患者さんに適した抗凝固薬を投与します。その際に、「2021年日本循環器学会(JCS)/日本不整脈心電学会(JHRS)ガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈非薬物治療1」にアブレーション周術期の抗凝固療法として、「ワルファリンもしくはダビガトランによる抗凝固療法が行われている患者では、休薬なしでAFアブレーションを施行する(推奨クラスI、エビデンスレベルA)」と記載されていることを考慮して、プラザキサ®110mg×2回/日を服用いただくケースがあります。その場合は、入院日(アブレーション施行前日)から退院日までプラザキサ®110mg×2回/日の投与を継続しています。退院日翌日以降は、医師が患者さんとかかりつけ医の意見を尊重しながら、入院中に投与した抗凝固薬の継続または他剤への変更を判断します。

Q2:アブレーション周術期における薬剤師の業務について教えてください。

当院では、薬剤科の薬剤師が順番にアブレーション周術期における治療に関する説明などの業務を担当しています。主な業務は下記の通りです(図2)。

アブレーション周術期における薬剤師の業務について教えてください

アブレーション施行前の業務については、まず入院日の午前中に持参薬の内容や服薬アドヒアランスの確認に加えて、血液検査の結果や体重なども確認し、薬剤師の立場から適切な抗凝固療法について判断します。抗凝固薬投与前に行う薬剤師による初回面談時には、特にアブレーション周術期における抗凝固療法の意義について患者さんに十分にご理解いただき、抗凝固薬を変更する場合は、その理由と飲み方などについて説明します。例えば、プラザキサ®カプセルは、食直前や食事中にコップ1杯の水であごを引いて服用すると飲みやすくなるので、服用のコツについてもお伝えするようにしています。このほか、調剤薬局(かかりつけ薬局)からのアブレーション周術期における抗凝固薬の継続投与に関する疑義照会などにも対応しています。
アブレーション施行後の業務に関しては、2020年度診療報酬改定で「退院時薬剤情報連携加算2」が新設されたことを踏まえて、退院日にかかりつけ薬局の薬剤師に対し、処方薬の変更内容、服薬状況や患者さんの嗜好などの情報を文書で提供しています。 

Q3:アブレーション周術期における抗凝固療法の管理のポイントについてお聞かせください。

アブレーション周術期における抗凝固療法を適切に行うために、下記の点に留意しています(図3)。

アブレーション周術期における抗凝固療法の管理のポイントについてお聞かせください

まず院内における入院時クリニカルパスの認知を徹底し、アブレーション施行中に万一、出血性合併症が発現しても速やかに中和剤の投与対応が行えるようにしています。また、入院前に服用していた抗凝固薬を入院日の朝も服用してから来院される患者さんも見受けられるため、他の抗凝固薬に変更する場合は変更タイミングを徹底しています。特に、薬剤師による初回面談の際に、入院日の朝に抗凝固薬を服用していないことを確認し、抗凝固薬の重複投与の防止に努めています。さらに、アブレーション周術期における抗凝固薬の継続投与について十分に説明することも大切です。患者さんにとってアブレーションは「手術」というイメージが強く、施行前日や施行当日に抗凝固薬を服用することに不安を感じる患者さんは少なくありません。そのため、アブレーション周術期に抗凝固療法を行う意義やその有用性、中和剤の存在などについて説明し、患者さんが安心してアブレーションを受けられるように努めています。また、入院時に抗凝固薬を変更する場合は、変更前の抗凝固薬の用法用量とは異なるケースがあることから、各薬剤の服薬タイミングや飲み方などの服薬指導を十分に行います。

他の医療従事者や患者さんとのコミュニケーションのポイント

Q1:かかりつけ薬局の薬剤師とのコミュニケーションのポイントをお聞かせください。

アブレーション周術期における抗凝固療法を適切に行うためにも、かかりつけ薬局の薬剤師と病院薬剤師による「薬薬連携」は重要です。しかし、患者さんにかかりつけ薬局について尋ねてもわからない場合もあります。その場合は、お薬手帳を確認することで、患者さんが主に利用している薬局の特定につながり、情報提供や疑義照会などの薬薬連携が行いやすくなります。
薬薬連携における情報伝達において、お薬手帳のほかに「施設間情報連絡書3」も有用なツールです。お薬手帳は紙面が比較的小さいことから、伝達する情報が多い場合は、施設間情報連絡書を用いてかかりつけ薬局の薬剤師に情報提供を行い、退院後のフォローを依頼します。
このほか、月に1回は門前薬局の薬剤師の方々とミーティングを行い、困っていることや気になっていることなどを共有し、薬薬連携の強化に努めています。

かかりつけ薬局の薬剤師とのコミュニケーションのポイントをお聞かせください

Q2:医師とのコミュニケーションのポイントについてお聞かせください。

医師とコミュニケーションを取る際は、なるべく直接会って話すことを心がけています。当院は薬局のそばに医局があるため、医師への疑義照会を行う場合は、可能な限り電話ではなく直接会って話すように薬剤科スタッフに勧めており、新人の場合は慣れるまで私も同行しています。医師と直接話す機会を重ねていくうちに、薬剤師から医師に確認・質問するだけという一方向の関係が、医師からも質問・相談されるという双方向の関係となり、薬物治療の質を高めているという自信につながると思います。また、多忙な医師との双方向のコミュニケーションにおいては、薬剤師としての自身の意見を事前に整理して、簡潔にわかりやすく伝えられるように準備しておくことも大切だと思います。

医師とのコミュニケーションのポイントについてお聞かせください

Q3:疑義照会などの業務に対する薬剤科スタッフの育成において心がけていることをお聞かせください。

薬剤師はさまざまな業務を担っており、自身でスケジュールを調整しながら、各業務を進める必要があります。新人やスケジュール調整が苦手なスタッフに対しては、すべてを指示するわけではありませんが、「この業務から行ったほうがいいよ」などの少しだけ具体的な内容の声がけを行っています。また、簡単な業務であっても単なる作業と捉えないように、1つ1つの業務の意義について説明するように心がけています。

疑義照会などの業務に対する薬剤科スタッフの育成において心がけていることをお聞かせください

Q4:患者さんとのコミュニケーションのポイントをお聞かせください。

患者さんが抗凝固薬の服用に関してどの程度理解しているかを確認する際には、一方的な会話にならないように、はじめに「どのようなお薬を服用していますか」などとオープンクエスチョンで尋ねるように心がけています。「わからない」と答えた患者さんには、患者さんの状況や反応を見ながら「抗凝固薬を服用していることを知っていますか」、「服用する理由を知っていますか」、「服用中に注意する必要のある症状を知っていますか」などとより具体的に尋ねていくことで、患者さんの理解度に合わせた説明を行うことが可能になると思います。また、抗凝固薬の服薬指導では、言葉で伝えるだけでなく、当院で作成したイラストを組み合わせたパンフレットや製薬会社(日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社)が作成した資材を用いて、患者さんの理解度に合わせて説明しています(図4)。抗凝固薬は、患者さん自身が効果を実感しにくいことも少なくないため、抗凝固療法の意義を理解していただくことで服薬アドヒアランスの向上につながると考えています。

患者さんとのコミュニケーションのポイントをお聞かせください

薬剤の変更に関しては、「病状が悪化しているのではないか」と不安になる患者さんも見受けられるため、患者さんの不安を払拭するためにも、薬剤の変更理由を丁寧に説明し、患者さんにきちんと理解していただくことが大切です。

アブレーション周術期における薬剤師の意義と今後の展望

Q1:アブレーション周術期における薬剤師の介入の現状について、先生のお考えをお聞かせください。

アブレーション周術期の抗凝固療法に関する患者さんの理解の促進、服薬アドヒアランスの向上、個々の患者さんに合った薬剤選択などにおいて薬剤師の介入は重要ですが、現時点では、薬剤師が主体的にアブレーション周術期に介入している施設はそれほど多くはないと感じています。

Q2:アブレーション周術期に薬剤師が介入することで得られるメリットを教えてください。

薬剤師が患者さんの持参薬を確認することで多剤服用の問題(ポリファーマシー)を防止したり、入院時に抗凝固薬を変更する場合は服用タイミングを確認し、服薬指導を行ったりすることで、アブレーション周術期における適切な薬剤管理や抗凝固療法が可能となり、より安全なアブレーションの施行につながると思います。
また、患者さんに対し、医師はアブレーション治療や合併症について、薬剤師は薬物治療について説明するといったタスクシェアリングによって、医師の業務負担が軽減すると思われます。説明時間が長くなると負担に感じる患者さんはいらっしゃると思いますが、こうしたタスクシェアリングによって1回あたりの説明時間が短縮されることで、患者さんの負担を軽減することも期待できると考えられます。

Q3:薬剤師の立場から、今後より適切なアブレーション治療が普及するために必要な取り組みについて、先生のお考えをお聞かせください。

当院にはさまざまな地域から患者さんが来院されるため、今後は門前薬局のみならず、より広い地域のかかりつけ薬剤師との情報共有を行い、薬薬連携を強化していきたいと考えています。また、服薬アドヒアランスの確認などは、かかりつけ医だけでなくかかりつけ薬剤師も担っていける部分だと思います。かかりつけ医とかかりつけ薬剤師のタスクシェアリングが促進されると、より良い医療連携の実現にもつながると思います。
近年、医療上の意思決定を行うプロセスとして、患者さんと医療従事者がお互いの情報を共有しながら行うShared Decision Making(SDM)が注目されています(図5456

薬剤師の立場から、今後より適切なアブレーション治療が普及するために必要な取り組みについて、先生のお考えをお聞かせください

当院で行った患者アンケートでは、薬剤師の介入によって、抗凝固療法に関して患者さんが重視する項目が変化することが多いです。薬剤師が患者さんの考えを医師にフィードバックすることで、SDMが促進され、服薬アドヒアランスの向上にもつながると考えられます。
このほか、術後疼痛管理チーム加算2や周術期薬剤管理加算2などが算定できるように診療体制を整えていくことも重要であり、現在、当院の薬剤科においても準備を進めています。

これからアブレーション周術期に携わる病院およびかかりつけ薬剤師の方々へのメッセージ

今回ご紹介した当院における薬剤師の取り組みをすべて実施する必要はなく、各施設において必要と思われることを少しずつ取り入れていただくのが望ましいと考えています。
不整脈診療について難しく考えがちな薬剤師も少なくないですが、薬剤師が貢献できる役割は患者さんの薬に対する思いや声を汲み取る部分だと思います。患者さんにとって、より適切な抗凝固療法について医師と相談しながら治療を進めていくことで、より良いアブレーション周術期の治療の一翼を担っていただけると思います。

引用:

  1. 日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン:2021年JCS/JHRSガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈非薬物治療.
    https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Kurita_Nogami.pdf (2023年5月閲覧)
  2. 厚生労働省. 診療報酬の算定方法の一部を改正する件(令和4年 厚生労働省告示第54号).
    https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000907834.pdf(2023年5月閲覧)
  3. 日本病院薬剤師会. 薬剤適正使用のための施設間情報連絡書.
    https://www.jshp.or.jp/activity/kiroku.html(2023年5月閲覧)
  4. Charles C, et al. Soc Sci Med 1997; 44: 681-692.
  5. Charles C, et al. Soc Sci Med 1999; 49: 651-661.
  6. Hoffmann TC, et al. JAMA 2014; 312: 1295-1296.
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