Effisayil™ 1登録患者の急性症状の臨床的特徴とスペビゴ®の効果

サイトへ公開: 2023年12月20日 (水)
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監修: 
萩野 哲平 先生 
日本医科大学 千葉北総病院 皮膚科 助教

1. GPPの急性症状とは

膿疱性乾癬(Generalized Pustular Psoriasis[GPP])は、急激な発熱、倦怠感、浮腫といった全身症状とともに全身の皮膚が潮紅し、無菌性膿疱が多発する全身性炎症疾患です。GPPの急性症状に対し、適切な治療がなされなかった場合、敗血症、腎不全、呼吸不全などの合併症につながり、生命を脅かす危険があります。  
一方で、急性症状の発現の頻度、期間、臨床的特徴など、GPPの急性症状の臨床経過を特徴づけるデータは、現在のところ限られています。そのため、急性症状の臨床的特徴や自然経過、現在の治療オプションに対する反応について、より深く理解することは患者ケアの改善につながる可能性があります。  
ここでは中等度から重度の急性症状*1が認められるGPP患者を対象に、ヒト化抗ヒトIL-36受容体モノクローナル抗体製剤スぺビゴ®の有効性と安全性を検討したEffisayilTM 1試験の登録患者が登録以前に経験した過去の急性症状について、関連する情報から急性症状の臨床的特徴1)を解説するとともに、同試験の結果を紹介します。 

*1 EffisayilTM 1試験における中等度から重度のGPP急性症状の定義:  
・ GPPGA合計スコア3(中等度)以上、および /・ 新たな膿疱の存在(膿疱の新規形成または増悪)、および /・ GPPGA膿疱サブスコア2(軽度)以上、および /・ 体表面積(BSA)の5%以上に及ぶ紅斑に膿疱を有する  
[参考]GPPGA(膿疱性乾癬に対する医師による全般的評価[Generalized Pustular Psoriasis Physician Global Assessment])では、すべての病変に対して各構成要素を評価し、各構成要素の重症度は5段階尺度で評価されます(図1)。GPPGA合計スコアは、すべてのGPP病変の膿疱、紅斑、鱗屑/痂皮を0(消失)~4(重度)で評価し、各構成要素のスコア(サブスコア)の平均値[(膿疱サブスコア+紅斑サブスコア+鱗屑/痂皮サブスコア)÷3]から算出します。

2. GPPフレア*2の頻度、期間、転帰

EffisayilTM 1試験に登録された53名のGPP患者がEffisayilTM 1試験に登録される以前に経験した82件のフレアについて情報を収集した結果、患者は1年に平均3.4回のフレアを経験していました。フレアは痛み、全身症状を伴い、19.4~21.4%の患者でストレス、19.4~21.4%の患者で感染症、7.1~20.0%の患者で治療中止が誘因となっていることがわかりました。  
収集された82件のフレアは、典型的なフレア37件、重度のフレア31件、長期化するフレア14件の3つのカテゴリーに分類され、より詳細な分析が行われました。典型的、重度、長期化するフレアについての標準的な定義はなく、治験責任医師の解釈に基づいて各カテゴリーへ分類されました。  
典型的なフレア、重度のフレア、長期化するフレアそれぞれにおいて、83.8%、90.3%、92.9%はフレアに対して治療を受けており、全身療法による治療を受けていた患者は70.3%、71.0%、64.3%でした。また、フレアの解消に3週間以上かかっていた割合は57.1%、71.0%、85.7%(図2)、入院に至った患者の割合は、35.1%、74.2%、64.3%であり、3~4週の入院期間を要した割合は、10.8%、25.8%、35.7%となりました。また、2週間以内に膿疱が消失した割合は、典型的なフレアが56.7%であったのに対し、重度のフレア、長期化するフレアではそれぞれ21.4%、9.1%で、対象の過半数において膿疱消失を認めるのに要した期間は重度のフレアが4週間(67.8%)、長期化するフレアが8週間(72.8%)となりました(図3)。  
多くの患者は治療に3週間以上かかるフレアを年に平均3.4回起こしており、入院や入院期間における疾病負荷が重いことが明らかとなりました。さらに今回の結果は、現在GPPに用いられている治療ではフレアの解消に時間がかかることを示唆しており、速やかに症状を抑えることが可能な治療法や治療薬が必要であると考えられます。 

*2 今回の試験では急性症状をフレアとしてデータを収集した。なお、GPPによる皮膚症状または全身症状があり、かつ症状の増悪、継続が認められるものをフレアというが、本試験においては担当医師の経験に基づき判定された。 

3. EffisayilTM 1試験で示されたスペビゴ®の有効性・安全性

3-1)試験デザイン

スペビゴ®の有効性が検証されたEffisayilTM 1試験は、急性症状を有するGPP患者を対象に行われた初めての二重盲検無作為化比較試験です2)3)。日本人患者2例を含む対象患者53例を、スペビゴ®群2に対しプラセボ群1の割合で割付け(図4)、900 mgを単回静脈内投与しました。両群ともGPPが悪化した場合は治験担当医師の選択によるエスケープ治療(標準治療)を実施可とし、エスケープ治療を受けておらず症状が持続する患者(GPPGA合計スコア2以上かつGPPGA膿疱サブスコア2以上)には、8日目にスペビゴ® 900 mgを非盲検下で救援投与しました。また、8日目以降、急性症状が再燃(臨床的奏効[GPPGA合計スコア0または1]達成後に、GPPGA合計スコア2以上かつGPPGA膿疱サブスコア2以上増加)した場合は、非盲検下でスペビゴ®救援投与を1回のみ実施可としました。  
主要評価項目は「1週時におけるGPPGA膿疱サブスコア0(肉眼的に膿疱が見えない)達成率」、重要な副次評価項目は「1週時におけるGPPGA合計スコア0/1(消失またはほぼ消失)達成率」です。なお、EffisayilTM 1試験を含むすべてのスペビゴ®の臨床試験で、GPPに特化した重症度評価指標として新たに作成されたGPPGA/GPPASI*3が用いられています(図1)。  

*3 GPPASI:汎発性膿疱性乾癬面積重症度指数。乾癬の重症度と面積の指標として確立されているPASI(Psoriasis Area and Severity Index)をGPP用に適合させたもの。GPPASI病変の状態を0~72でスコア化している。GPPASI 75は、GPPASIスコアがベースラインから75%以上改善したことを表す。

3-2)EffisayilTM 1試験の臨床成績

主要評価項目(1週時のGPPGA膿疱サブスコア0達成率:スペビゴ®群54.3%[19/35例]、プラセボ群5.6%[1/18例])、重要な副次評価項目(1週時のGPPGA合計スコア0/1達成率:スペビゴ®群42.9%[15/35例]、プラセボ群11.1%[2/18例])の検証結果から、スペビゴ®群において1週時における膿疱および皮膚症状の有意な改善が認められました(それぞれ片側p=0.0004、片側p=0.0118、いずれもSuissa-Shuster Z-pooled検定。図5)。  
副次評価項目である4週時のGPPASI 75達成率についても、スペビゴ®群45.7%(16/35例)、プラセボ群11.1%(2/18例)で、有意差が認められました(片側p=0.0081、Suissa-Shuster Z-pooled検定。図6)。

スペビゴ®群のGPPGA膿疱サブスコア0達成率は、8日目で61.8%、12週時で84.4%でした(図7)。

3-3)EffisayilTM 1試験の安全性

EffisayilTM 1試験では、1週時と12週時に安全性の評価を行っています。  
1週時までに、スペビゴ🄬群12例(34.3%)、プラセボ群6例(33.3%)に副作用が発現しました。主な副作用は、スペビゴ®群では膿疱性乾癬5例(14.3%)、末梢性浮腫2例(5.7%)、プラセボ群では膿疱性乾癬3例(16.7%)、末梢性浮腫1例(5.6%)でした。  
1週時までに発現した重篤な有害事象はスペビゴ®群で5例(14.3%)、プラセボ群で3例(16.7%)に発現しました。内訳は、スペビゴ®群が膿疱性乾癬4例(11.4%)、好酸球増加および全身症状を伴う薬物反応、尿路感染、薬剤性肝障害および関節炎が各1例(2.9%)、プラセボ群が膿疱性乾癬3例(16.7%)でした。  
投与中止に至った有害事象、死亡に至った有害事象は報告されませんでした(表1)。

4. おわりに~GPP治療に求められる治療選択とは?~

EffisayilTM 1試験登録患者において、7割は過去の重度の急性症状の解消に3週間以上かかり、膿疱の消失には重度の急性症状、長期化する急性症状では3~8週間かかっていることが示されました。実臨床でのGPP患者も急性症状が長く続くことに苦しんでいるのではないかと考えられます。一方で、EffisayilTM 1試験ではスペビゴ®投与により1週時点で54.3%の患者において膿疱の消失が認められています。  
長期に渡るGPPの急性症状は生命を脅かすだけでなく、患者のQOLを損なう要因の一つでもあります。今後、早期の改善が期待できる治療法が選択されることにより、GPP患者のQOLが改善していくことを期待しています。

References

  1. Choon SE, et al. Dermatology. 2023; 239(3): 345-354. 
    本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。著者にベーリンガーインゲルハイム社より講演料、コンサルタント料等を受領している者が含まれています。本論文の著者にベーリンガーインゲルハイム社の社員が含まれています。
  2. 社内資料:中等度から重度の急性期症状が認められる膿疱性乾癬(汎発型)(GPP)患者を対象とした国際共同第Ⅱ相二重盲検比較試験(Effisayil-1試験)(CTD 2.7.6.3.2)[承認時評価資料]
  3. Bachelez H, et al. N Engl J Med. 2021; 385(26): 2431-2440. 
    本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。本論文の著者にベーリンガーインゲルハイム社の社員が含まれています。 
     
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