GPP診療における医師・患者間のコミュニケーションの実態

サイトへ公開: 2023年07月28日 (金)

鶴田 紀子 先生(北九州市立八幡病院 皮膚科主任部長)

監修:
鶴田 紀子 先生(北九州市立八幡病院 皮膚科主任部長)

1.はじめに

膿疱性乾癬(GPP)は、急激な発熱、倦怠感、浮腫といった全身症状とともに全身の皮膚が潮紅し、無菌性膿疱が多発する全身性炎症疾患です。そのため診療にあたっては皮膚症状だけでなく、全身症状の管理も重要となります1
近年、さまざまな疾患の診療において、患者・医師間の共同意思決定の手法であるShared decision making(SDM)が注目されています。SDMは、治療のメリットとリスクを話し合い、患者の価値観や背景を考慮したうえで治療方針を決定し、共同して最適な治療ゴールに向かっていくためのプロセスです2。そして、その実現のためには患者との良好なコミュニケーションが欠かせません。これまで、GPP診療におけるコミュニケーションの実態に関する調査報告はほとんどなされておらず、患者・医師双方の視点を理解することは、患者さんのアドヒアランス向上、ひいてはQOL向上につながると考えられます。
ここでは、そのような背景からGPP患者と皮膚科医を対象に実施されたWebアンケート調査の報告3)より、患者と医師のコミュニケーション(疾患・治療に関する説明)に関する項目について紹介します。

2.調査概要3

調査の対象は皮膚科医によりGPPと診断を受けた18歳以上の患者46例と、日本皮膚科学会承認の生物学的製剤使用認定施設で現在1名以上のGPP患者の診療にあたっている皮膚科医66人で、Webアンケート形式の質問票を用いて実施されました(表1)。
アンケートは、GPPの症状、疾患説明、日常生活、周囲の理解などに関して、患者向け51問、皮膚科医向け44問の構成で実施されました(図1)。

調査概要調査概要

3.コミュニケーション(疾患・治療に関する説明)に関する調査結果3)

1-1)疾患について、患者が受けた説明/皮膚科医が行う説明(図2)

患者が「説明を受けた」と回答した項目は、「薬剤や治療法がある」(61%)、「治療継続が望ましい」(48%)等が上位となりました。一方、医師が「説明している」と回答した項目は「治療によって改善が期待できる」(77%)、「治療継続が望ましい」(64%)等が多く、患者、医師ともに治療薬や治療方法に関する項目が上位となりました(図2)。
全体的に、医師が「説明している」と回答した割合に対して患者が「説明を受けた」と回答した割合が低い結果となりましたが、特に「治療によって改善が期待できる」、「国による医療費補助を受けることができる」、「再燃(再発)を繰り返すことがある」、「全身症状が出てしまうことがある」等の内容についてはその差が大きいことが示されました。一方で、「原因がわからない」「改善するが治らない」等の項目は、「説明している」と回答した医師の割合に対して、「説明を受けた」と回答した患者の割合が高い結果となりました。
以上の結果より、医師が思う以上に患者理解が不十分となっている可能性、および患者の印象に残りやすい項目、残りにくい項目が存在する可能性が示唆されました。

1-2)疾患説明における患者と皮膚科医の重視度の認識(図3)

1-2)疾患説明における患者と皮膚科医の重視度の認識(図3)

疾患説明における重視度の認識については、ほぼすべての項目において患者、医師ともに8割以上が重要であると回答しました。一方、「原因がわからない疾患」に関しては、患者、医師ともに重視度が低いことが示されました(図3)。患者、医師間で認識に最も乖離があった項目は「(治療で改善はするが)治らない疾患」で、患者91%、医師53%という結果でした。膿疱性乾癬が治らない疾患であることは、医師としては伝え方に悩む内容ではありますが、患者としては重要視している内容であることが明らかとなりました。

2)治療や治療の過程で、患者が受けた説明/皮膚科医が行う説明(図4)

2)治療や治療の過程で、患者が受けた説明/皮膚科医が行う説明(図4)

治療薬や治療方法に関する項目については、医師の91%が「説明している」と回答したのに対し、「説明を受けた」と回答した患者割合は67%でした。また、「治療の目標を共有した上での現状の説明」は、医師の53%が「説明している」と回答したのに対し、「説明を受けた」と回答した患者割合は35%でした(図4)。
このことから、疾患についての説明と同様に、治療に関しても患者理解が不十分となっている可能性があります。特に治療薬や治療方法に関する説明は伝える内容が多く、複雑に感じてしまう患者もいますので、理解度を確認しながら説明を行う必要があると考えられます。

4.おわりに

4.おわりに

本調査において、全体的に医師が「説明している」と回答した割合と、患者が「説明を受けた」と回答した割合には乖離があることが示されました。また、「原因がわからない」「改善するが治らない」等、患者の印象に残りやすい項目と、「治療によって改善が期待できる」「再燃(再発)を繰り返すことがある」等、印象に残りづらい項目があることがわかりました。
このことから、医師が思う以上に患者理解が不十分となっている可能性が考えられ、特に印象に残りづらいと考えられる今後の治療や経過についての説明は、繰り返し説明する、患者理解を適宜確認しつつ説明を進める等のコミュニケーション上の工夫が求められます。最適な治療ゴールに向かっていくためには、先生方の説明による患者の理解が欠かせません。本調査の内容が読者の先生方の日常診療の一助となりましたら幸いです。

References

  1. 日本皮膚科学会膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン作成委員会. 膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン2014年版. 日皮会誌. 2015; 125(12): 2211-57.
  2. Hoffmann TC, et al. JAMA. 2014; 312: 1295-6.
  3. Yagi N, Tada Y, et al. Future Rare Dis. 2023. Epub ahead of print. (本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。本論文の著者にベーリンガーインゲルハイム社の社員が含まれています)
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