日本の膿疱性乾癬(GPP)患者における疾病負荷の現状~皮膚科の治療状況~

サイトへ公開: 2023年09月28日 (木)

日本の膿疱性乾癬(GPP)患者における疾病負荷の現状-皮膚科の治療状況-

監修:
馬渕 智生 先生
東海大学医学部 専門診療学系 皮膚科学 教授

1. はじめに

膿疱性乾癬(GPP)は、急激な発熱、倦怠感、浮腫といった全身症状とともに全身の皮膚が潮紅し、無菌性膿疱が多発する疾患です。GPPは乾癬の一種に分類されていますが、最も一般的な乾癬の種類である尋常性乾癬と臨床像や遺伝的背景は異なることが明らかとなってきており1-4)、それぞれの疾患で疾病負荷も異なると考えられます。
GPPは各患者で症状や合併症に多様性があり、診療にあたる医師が患者とともに治療選択することが重要です5)。一方で、GPP患者の疾病負荷および治療に関するデータは限られており、GPPの疾病負荷について理解することは、患者と医療システムの両方の観点から重要です。
本稿では、異なるデータベースを用いて実施された疫学研究から、日本におけるGPP患者の皮膚科の治療状況についてご紹介します。

2. GPP患者の皮膚科の治療状況

2020年12月までに西日本乾癬レジストリ(WJPR)に登録されたGPP患者を対象に、患者背景や症状、治療法などを解析した疫学研究が実施されました。対象となったGPP患者の76.5%が生物学的製剤、37.3%がビタミンA誘導体による治療歴がありました。他の乾癬病型を併存しないGPP患者では、60.0%に生物学的製剤、40.0%にビタミンA誘導体による治療歴があり、各生物学的製剤の使用割合は、TNF阻害薬が46.7%、IL-17阻害薬が30.0%、IL-23阻害薬が20.0%でした(図16)。また、罹患期間が10年より長い群では、10年以下の群と比較して、生物学的製剤の使用割合が多く、これは多くのGPP患者が長い罹患期間のなかでGPPの悪化を経験したことを反映していると考えられています6)

日本医療データセンター(JMDC)データベース(図2、図3)

3. 尋常性乾癬患者や対照群と比較したGPP患者の皮膚科の治療状況

3-1. 日本医療データセンター(JMDC)データベース(図2、図3)

JMDCデータベースは主に健康保険組合のレセプトおよび検診データを蓄積したデータベースです。このデータベースの主体は労働年齢の集団であり、65歳以上の層(退職者)は少ないことが特徴です。
JMDCデータベースを用いた疫学研究では、尋常性乾癬患者や対照群と比較して、GPP患者は生物学的製剤以外の全身療法やIL-17阻害薬、IL-23阻害薬、TNF阻害薬による治療がおこなわれている傾向がみられました。また、GPP患者は、尋常性乾癬患者と比較して、全身療法を受けた割合が高い傾向にありました(図27)。これは、GPPでは症状をコントロールするために生物学的製剤などによる全身療法が必要となる場合が多いことを示唆していると考えられます。さらに、全身療法を受けたGPP患者では、尋常性乾癬患者と比べて、併用療法を受けた患者が多く、ステロイド外用薬のみの治療を受けた患者は少ない傾向がみられました(図37)。このことから、GPPは生物学的製剤、生物学的製剤以外の全身療法およびステロイド外用薬それぞれの各薬剤単独での治療のみでは症状のコントロールが難しい疾患であると考えられます。
以上でお示しした結果から、GPP患者は尋常性乾癬患者と比べて、治療に対する疾病負荷が大きいことが示唆されます。

Medical Data Vision(MDV)データベース(図4、図5)Medical Data Vision(MDV)データベース(図4、図5)

3-2. Medical Data Vision(MDV)データベース(図4、図5)

MDVデータベースは、全国の急性期病院を基盤としたレセプトデータベースで、診断群分類(DPC)対象病院受診歴がある患者が対象となります。
MDVデータベースを用いた疫学研究では、尋常性乾癬患者と比較して、GPP患者はステロイド外用薬、生物学的製剤以外の全身療法、生物学的製剤による治療を受けている割合が高い傾向がみられました(図48)。また、GPP患者は、尋常性乾癬患者と比較して、ステロイド外用薬と生物学的製剤以外の全身療法の併用、ステロイド外用薬および/または生物学的製剤以外の全身療法と生物学的製剤との併用による治療を受けている傾向がみられました(図58)。一方で、生物学的製剤の単独療法を受けているGPP患者の割合は低く、生物学的製剤のみによる症状のコントロールが難しい可能性が考えられます。
このことから、GPP患者は尋常性乾癬患者よりも疾病負荷が大きいことが示唆されます8)

おわりにおわりに

4. おわりに

尋常性乾癬は紅斑、浸潤・肥厚、鱗屑、落屑といった皮膚症状を中心とする疾患です。一方、GPPは、急激な発熱、倦怠感、浮腫といった全身症状と無菌性膿疱が多発する全身性の炎症疾患であり、適切な初期治療がなされなかった場合には、心不全や腎不全、敗血症などを引き起こし致死的になることもあります5)
本稿でお示しした国内の異なるデータベースで実施された疫学研究の結果から、GPP患者は生物学的製剤による治療歴を有する割合が高く、尋常性乾癬患者や対照群と比較して、複数の薬剤による併用療法を受けていた割合が高い傾向がみられました。本結果から、GPP患者は尋常性乾癬患者や対照群よりも疾病負荷が高いことが示唆されます7,8)
現在、本邦のGPPに対する治療では生物学的製剤をはじめ、様々な治療法が承認されています。各患者の病態に即した治療選択をご検討いただき、GPP患者の疾病負荷の軽減に努めていただければと思います。

References

  1. Fujita H, et al. J Dermatol. 2018; 45: 1235–70.
  2. Navarini AA, et al. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2017; 31: 1792–99.
  3. Johnston A, et al. J Allergy Clin Immunol. 2017; 140: 109–20.
  4. Twelves S, et al. J Allergy Clin Immunol. 2019; 143: 1021–26.
  5. 日本皮膚科学会膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン作成委員会. 膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン2014年度版. 日皮会誌. 2015; 125: 2211-57.
  6. Ohata C, et al. J Dermatol. 2022; 49: 142-50.
  7. Okubo Y, et al. J Dermatol. 2021; 48: 1675-87.
    (著者にベーリンガーインゲルハイム社より講演料、コンサルタント料等を受領している者が含まれます。本論文の著者のうち3名は、ベーリンガーインゲルハイム社の社員です。)
  8. Morita A, et al. J Dermatol. 2021; 48: 1463-73.
    (本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。著者にベーリンガーインゲルハイム社より講演料、コンサルタント料等を受領している者が含まれます。本論文の著者のうち3名は、ベーリンガーインゲルハイム社の社員です。)
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