日本の膿疱性乾癬(GPP)患者における疾病負荷の現状~併存疾患~

サイトへ公開: 2023年08月31日 (木)

監修: 
柴田 彩 先生 
東京大学大学院医学研究科・医学部 皮膚科学教室 准教授 

1. はじめに

膿疱性乾癬(generalized pustular psoriasis; GPP)は、急激な発熱、倦怠感、浮腫といった全身症状とともに全身の皮膚が潮紅し、無菌性膿疱が多発する疾患です。GPPは乾癬の一種に分類されていますが、近年の研究から、最も一般的な乾癬の種類である尋常性乾癬とは表現型や遺伝背景が異なることが明らかとなってきており1-4)、それぞれの疾患で疾病負荷も異なると考えられます。
「膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン2014年度版」では、GPPを全身性炎症疾患ととらえ、皮膚症状のみならず、粘膜症状や予後を左右する関節症状のほか、まれに眼症状や二次性アミロイドーシスを合併することが定義に組み入れられています5)。一方で、GPP患者の疾病負荷および治療に関するデータは限られており、GPPの疾病負荷について併存疾患を含めて理解することは重要です。
本稿では、異なるデータベースを用いて実施された疫学研究から、日本のGPP患者における併存疾患の現状についてご紹介します。

2. GPP患者における併存疾患(図1)

2017~2020年に日本乾癬学会へ新たに登録されたGPP患者を対象に、患者背景や症状、治療法などを解析した疫学研究が実施されました6)。対象となったGPP患者の67.4%に併存疾患があり、高血圧(39.8%)、脂質異常症(24.0%)、糖尿病(23.0%)などがあげられました。また、女性患者と比較して、男性患者の方がより多くの併存疾患を有していました(図1)6)

GPP患者における併存疾患(図1)

3. 尋常性乾癬患者や対照群と比較したGPP患者における併存疾患の特徴

3-1. 日本医療データセンター(JMDC)データベース(図2)

JMDCデータベースは主に健康保険組合のレセプトおよび検診データを蓄積したデータベースです。このデータベースの主体は労働年齢の集団であり、65歳以上の層(退職者)は少ないことが特徴です。
JMDCデータベースを用いた疫学研究では、尋常性乾癬患者や対照群と比較して、GPP患者は高血圧症、消化性潰瘍、骨粗鬆症、乾癬性関節炎などに罹患している傾向がみられました。一方で、GPP患者は、尋常性乾癬患者や対照群と比較して、脂質異常症や肥満症の罹患率が低い傾向がみられました(図2)7)

尋常性乾癬患者や対照群と比較したGPP患者における併存疾患の特徴

3-2. Medical Data Vision(MDV)データベース(図3)

MDVデータベースは、全国の急性期病院を基盤としたレセプトデータベースであり、65歳以上の患者の割合は約34%です。
MDVデータベースを用いた疫学研究では、尋常性乾癬患者と比較して、GPP患者は脂質異常症、アレルギー性鼻結膜炎、脳卒中を除くすべての併存疾患で罹患率が高い傾向がみられました(図3)8)。このことから、GPP患者の疾病負荷は尋常性乾癬患者よりも大きいことが示唆されます8)

Medical Data Vision(MDV)データベース(図3)

4. おわりに

本稿でお示しした国内の異なるデータベースで実施された疫学研究の結果から、GPP患者は併存疾患を有する割合が高く、尋常性乾癬患者や対照群と比較して、高血圧症、乾癬性関節炎、骨粗鬆症、消化性潰瘍などに罹患している傾向がみられました。
GPPは、急激な発熱、倦怠感、浮腫といった全身症状と無菌性膿疱が多発する全身性の炎症疾患であり、乾癬における全身性炎症は様々な合併症の原因となる可能性が示唆されています9)
GPPは乾癬の一種ですが、尋常性乾癬とは異なる疾患であるという理解のもと診療にあたることが望まれます。

References

  1. Fujita H, et al. J Dermatol. 2018; 45: 1235–1270.
  2. Navarini AA, et al. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2017; 31: 1792–1979.
  3. Johnston A, et al. J Allergy Clin Immunol. 2017; 140: 109–120.
  4. Twelves S, et al. J Allergy Clin Immunol. 2019; 143: 1021–1026.
  5. 日本皮膚科学会膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン作成委員会. 膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン2014 年度版. 日皮会誌. 2015; 125: 2211-2257.
  6. Kamiya K, Ohtsuki M. J Dermatol. 2023; 50: 3-11.
  7. Okubo Y, et al. J Dermatol. 2021; 48: 1675-1687.
    (著者にベーリンガーインゲルハイム社より講演料、コンサルタント料等を受領している者が含まれます。本論文の著者のうち3名は、ベーリンガーインゲルハイム社の社員です。)
  8. Morita A, et al. J Dermatol. 2021; 48: 1463-1473.
    (本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。著者にベーリンガーインゲルハイム社より講演料、コンサルタント料等を受領している者が含まれます。本論文の著者のうち3名は、ベーリンガーインゲルハイム社の社員です。)
  9. Boehncke WH, et al. Exp Dermatol. 2011; 20: 303-307.;
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