PsVとGPPの病変部における遺伝子発現の違い

サイトへ公開: 2024年05月30日 (木)

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監修:      
野崎 尋意 先生   
旭川医科大学 皮膚科学講座 助教

1. はじめに   

膿疱性乾癬(generalized pustular psoriasis; GPP)は、急激な発熱、倦怠感、浮腫といった全身症状とともに全身の皮膚が潮紅し、無菌性膿疱が多発する疾患で、乾癬の一種に分類されています。しかし、全身症状の有無、皮膚症状、遺伝的背景、発症メカニズムの違いなどから、最も一般的な乾癬である尋常性乾癬(psoriasis vulgaris; PsV)とは異なる疾患であり、必要とされる患者ケアも異なると考えられるようになってきています1。  
ここでは、GPPとPsVの皮膚症状および組織学的所見、遺伝子発現の違いについて解説します。

2. PsVとGPPの皮膚症状および組織学的所見、遺伝子発現の違い   

PsVは紅斑、浸潤・肥厚、鱗屑、落屑といった皮膚症状を中心とする疾患です。PsVの典型例では、境界明瞭な紅斑や銀白色の鱗屑がみられ、被髪頭部、肘頭、膝蓋などの機械的刺激を受けやすい部位に症状が好発します(表11)2)。GPPの典型例では、大量の好中球の集積による広範囲の無菌性膿疱がみられます。時に膿疱の融合した膿海を形成し、再発を繰り返すことが特徴です(表11)2)。  
組織学的な違いとしてはPsVでは表皮の肥厚、ケラチノサイトの増殖や分化異常、不全角化がみられるのに対し、GPPはKogoj海綿状膿疱を特徴とする角層下膿疱、好中球の著明な浸潤がみられます(表11)。また、それぞれの疾患の遺伝子発現を比較すると、PsVではIL-17A、IL-22、IL-23p19などの発現が増加しているのに対して、GPPではIL-1β、IL-36α、IL-36γの発現増加が認められます(表11)

3. PsVとGPPの病変部における発現遺伝子の違い   

PsVは獲得免疫が関与する自己免疫疾患で、IL-17、TNF-α、IFN-γなどの獲得免疫系で働くサイトカインを中心としたIL-17/IL-23シグナル伝達経路によって引き起こされると考えられています3)4)。一方で、GPPは自然免疫が関与する自己炎症疾患で、好中球、T細胞、樹状細胞、単球などの自然免疫系の細胞を活性化させるIL-36シグナル伝達経路によって引き起こされると考えられています3)4)。  
GPP、PsVの病変部皮膚および健常者の皮膚組織(健常対照)を対象に遺伝子発現を解析した研究において、GPPの病変部皮膚ではPsVの病変部皮膚よりも、IL-36シグナル伝達経路に関与する遺伝子(IL1B、IL36A)やIL-36シグナル伝達経路の下流因子である遺伝子(CXCL1、CXCL8、CD177、CCL20)の発現が高かったことが示されました(表21)5)。  
以上から、GPPの病変部皮膚では、PsVの病変部皮膚と比較して、IL-36シグナル伝達経路が活性化されていると考えられます1)5)

4. PsVとGPPの病変部、非病変部における発現遺伝子の変化   

前述のとおり、PsVが紅斑、浸潤・肥厚、鱗屑、落屑といった皮膚症状を中心とする疾患である一方、GPPは、急激な発熱とともに全身の皮膚の潮紅、無菌性膿疱の多発という全身性の急性症状を認めます2)。  
GPP、PsVの病変部、非病変部皮膚および健常対照を用いて、網羅的に遺伝子発現を検討した研究が実施されました1)。GPPまたはPsVの病変部皮膚と健常対照を比較した結果、GPPの病変部皮膚ではPsVの病変部皮膚よりも発現が変化した遺伝子が多く認められました(図1左1)。さらに、GPPの病変部皮膚で発現が変化した遺伝子の60%は、PsVと異なっていることが示されました。また、GPPまたはPsVの非病変部皮膚と健常対照を比較すると、GPPは非病変部皮膚においても発現が変化した遺伝子が多く、その多くがPsVと異なっていたことが示されています(図1右1)

5. おわりに   

皮膚症状が中心であるPsVと異なり、GPPは膿疱を特徴とする皮膚疾患というだけでなく生命を脅かす全身性疾患で、病態だけでなく遺伝子発現も異なる表現型を示します。GPPの病変部皮膚では、PsVの病変部皮膚と比較して、IL-36シグナル伝達経路に関わる遺伝子やその下流遺伝子の発現が認められました1)。IL-36シグナル伝達経路の活性化は、好中球の遊走やケラチノサイトの増殖などを誘導します4)。  
乾癬における皮膚炎症では、自然免疫と獲得免疫の両方が関与しており、それぞれの炎症経路がクロストークすることにより正の炎症ループが形成されます3)4)。GPPの病態発現においては、主に自然免疫に関与するIL-36が重要な役割を果たし、IL-17、IL-23などの獲得免疫に関与するサイトカインの病態発現への寄与は限定的であると考えられています1)。  
本稿でお示ししたように、GPPとPsVでは病変部、非病変部を含めて遺伝子発現のプロファイルが異なっているため、病態形成のメカニズムも異なっていると考えられます。発現が認められる遺伝子の違いを含めてGPPの発症メカニズムや特徴を深く理解し、病態に即した治療を選択することが必要であると考えます。

【参考文献】

  1. Bachelez H, et al. Expert Rev Clin Immunol. 2022; 18: 1033-1047.  
    (本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。)
  2. 古江増隆(総編集). ここまでわかった乾癬の病態と治療. 中山書店: 東京; 2012.
  3. Schön M, et al. Front Immunol. 2018; 9: 1323.
  4. Marrakchi S, et al. Am J Clin Dermatol. 2022; 23(Suppl 1): 13-19.  
    (著者にベーリンガーインゲルハイム社より講演料、コンサルタント料等を受領している者が含まれます。)
  5. Johnston A, et al. J Allergy Clin Immunol. 2017; 140: 109-120.
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