GPPとPsVの発症メカニズムの違いとは

サイトへ公開: 2024年03月28日 (木)

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監修:  
山中 恵一 先生  
三重大学大学院医学系研究科 生命医科学専攻 病態解明医学 皮膚科学 教授

1.はじめに

膿疱性乾癬(GPP)は、急激な発熱、倦怠感、浮腫といった全身症状とともに全身の皮膚が潮紅し、無菌性膿疱が多発する疾患で、乾癬の一種に分類されています。しかし、全身症状の有無、皮膚病変の現れ方、遺伝的背景、発症メカニズムの違いなどから、最も一般的な乾癬である尋常性乾癬(PsV)とは異なる疾患であり、必要とされる患者ケアも異なると考えられるようになってきています
ここでは、GPPとPsVの臨床症状の違いにつながる発症メカニズムの違いについて解説します。

2.GPPとPsVの皮膚症状

PsVは紅斑、浸潤・肥厚、鱗屑、落屑といった皮膚症状を中心とする疾患です(図1)。PsVの典型例では境界明瞭で扁平に隆起した、銀白色の鱗屑を伴った紅色局面がみられ、被髪頭部、肘頭、膝蓋などの機械的刺激を受けやすい部位に症状が好発します2)。一方、GPPの典型例では、紅潮した皮膚を背景に多数の無菌性膿疱が全身にみられます(図1)。時に膿疱の融合した膿海を形成し、再発を繰り返すことが特徴です2)

3.免疫学的な発症メカニズムの違い

1)    PsV

PsVでは主に獲得免疫が発症に関与すると考えられています。図2のNode1からNode2で示されるような自己免疫反応の誘発・維持に関与するIL-17/IL-23シグナル伝達経路がPsVにおける最も重要なシグナル伝達経路です。PsVでは表皮の樹状細胞から産生されるIL-23によって、慢性的にT細胞が活性化されます(Node1)。活性化されたT細胞はIL-17A、IL-22などのサイトカインを放出し、ケラチノサイトの過増殖と表皮の顆粒層における好中球の浸潤が起こります(Node2)。刺激を受けたケラチノサイトはIL-36αなどのサイトカインを産生し、IL-36シグナル伝達経路を介してIL-17Cの産生を誘導します(Node3)。IL-17CはヘルパーT細胞の活性化と極性化に関与するため、Node1の反応がさらに誘導されます(図2)。
このようにNode1、Node2、Node3がそれぞれ関与し、クロストークすることによって正の炎症ループが形成されます

2)    GPP

GPPは主に自然免疫が発症に関与すると考えられています。GPPではNode3の異常が先に起こり、好中球のケラチノサイトへの遊走が起こります(図3)。Node3では、IL-36シグナル伝達経路を介してIL-36とIL-17Cが産生され、CXCL8(IL-8)および他のCXCLケモカインの産生を誘導します。産生されたサイトカインなどにより好中球、T細胞、樹状細胞、単球などの自然免疫系の細胞が刺激され、さらなる動員が引き起こされます(Node1)。また、Node3で産生されたIL-36とIL-17Cは、Node2のIL-17シグナル伝達経路を活性化し、GPPにおいてもIL-17/IL-23シグナル伝達経路とのクロストークによる正の炎症ループが形成されます(図3)。
以上から、PsVでもGPPでも同様に正の炎症ループが形成されますが、GPPは自然免疫系の細胞を活性化させるIL-36シグナル伝達経路が大きく関係しているという点で、PsVとは発症メカニズムが異なるといえます1)

4.まとめ

乾癬における皮膚炎症は自然免疫と獲得免疫の両方が関与しており、それぞれの炎症経路が密接に関連してクロストークすることにより正の炎症ループが形成されます。GPPでは自然免疫にかかわるIL-36経路が、PsVでは獲得免疫にかかわるIL-17経路が主に病態形成に関与していると考えられています(図43-6)。GPPとPsVでは病態形成に関与するサイトカインが異なるため、それぞれの病態に応じた治療を行うことが重要であると考えます。
以上でお示しした発症メカニズムの違いを含め、GPPとPsVは別疾患として考え、治療を検討する必要があります。GPPの発症メカニズムや特徴を深く理解し、GPPの病態に即した治療を行うことが望まれます。

【参考文献】

  1. Bachelez H, et al. Expert Rev Clin Immunol. 2022; 18: 1033-1047. 
    (本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。)
  2. 古江増隆(総編集). ここまでわかった乾癬の病態と治療. 中山書店: 東京; 2012.
  3. Furue K, et al. Acta Derm Venereol. 2018; 98: 5-13.
  4. Bassoy EY, et al. Immunol Rev. 2018; 281: 169-178.
  5. Schön M, et al. Front Immunol. 2018; 9: 1323.
  6. Johnston A, et al. J Allergy Clin Immunol. 2017; 140: 109-120.
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