GPPとPsVの病態形成におけるシグナル伝達経路の違いとは

サイトへ公開: 2024年02月28日 (水)

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監修: 
藤田 靖幸 先生 
市立札幌病院 皮膚科 医長

1.はじめに

膿疱性乾癬(GPP)は、急激な発熱、倦怠感、浮腫といった全身症状とともに全身の皮膚が潮紅し、無菌性膿疱が多発する疾患です。GPPは希少な疾患であることから、現実的な治療などは尋常性乾癬(PsV)に準じてきました。しかし、全身症状の有無、皮膚病変の現れ方、遺伝的背景、発症メカニズムの違いなどから、GPPはPsVとは異なる疾患であり、必要とされる患者ケアも異なると考えられるようになってきています1。また、GPPは膿疱を特徴とする全身性疾患であり、急性症状に対して適切な初期治療がなされなかった場合、心不全や腎不全、敗血症などを引き起こし致死的な状態に進行することもあります。
ここでは、GPPとPsVの病態における病理組織学的な特徴と、それに関連するGPPのシグナル伝達経路について解説します。

2.GPPとPsVの病態と病理組織学的特徴

PsVは紅斑、浸潤・肥厚、鱗屑、落屑といった皮膚症状を中心とする疾患です(図1)。PsVの典型例では境界明瞭で扁平に隆起した、銀白色の鱗屑を伴った紅色局面がみられ、被髪頭部、肘頭、膝蓋などの機械的刺激を受けやすい部位に症状が好発します2)。また、PsVの病変部では、不全角化や角質肥厚が認められます(図22)
一方、GPPの典型例では、紅潮した皮膚を背景に多数の無菌性膿疱が全身にみられます(図1)。時に膿疱の融合した膿海を形成し、再発を繰り返すことが特徴です2)。病理組織学的には、Kogoj海綿状膿疱を特徴とする角層下膿疱を形成します(図22)。不全角化や角質肥厚はPsVほど目立ちません。

3.GPPとPsVの病変部に発現する遺伝子の違い

PsVは炎症性樹状細胞やTh17細胞を中心として、IL-23やTNF-α、IL-17などの獲得免疫系で働くサイトカインが作用する、IL-17/IL-23シグナル伝達経路が主軸にあると考えられています。一方で、GPPは自然免疫が関与する自己炎症性疾患の側面が強く、好中球、T細胞、樹状細胞、単球などの自然免疫系の細胞を活性化させるIL-36シグナル伝達経路が優位になっていると考えられています3)4)
GPP、PsVの皮膚病変および健常者の皮膚組織を用いて遺伝子発現を検証した研究では、GPPは、PsVに比べて、IL-36シグナル伝達経路に関連するIL-1β、IL-36の発現レベルは高く、一方でIL-17A、IL-22、IL-23、IFNγ、IL-18などの発現レベルは低かったことが報告されています(図3、図45)

4.GPPの病態と関連するIL-36シグナル伝達経路

IL-36シグナル伝達を誘導するIL-36は、IL-1ファミリーに属するサイトカインの一種であり、ケラチノサイトを含む様々な細胞で発現しています6)。①IL-36にはIL-36α、IL-36β、IL-36γという3つの異なるアイソフォームがあり、ストレス、薬物、外傷、喫煙、病原体などの刺激をトリガーとしてケラチノサイトから放出され、細胞外にあるプロテアーゼにより活性化されます。②活性化されたIL-36がIL-36受容体(IL-36R)に結合すると、③下流のMAPKやNF-κBなどのシグナル伝達経路を活性化し、Pre-IL-36の発現を誘導します。④ケラチノサイトから産生されたPre-IL-36は、細胞外のプロテアーゼにより活性化され、IL-36Rを介したシグナル伝達を引き起こします。また、このIL-36Rを介したシグナル伝達により、⑤IL-1β、IL-17A、IL-23、TNF-αなどの炎症性サイトカインや、CXCL1、CXCL2、CXCL8などの好中球ケモカイン、ならびにリンホカインの発現も誘導されます(図54)。⑥産生されたサイトカインなどにより好中球、T細胞、樹状細胞、単球などの自然免疫系の細胞が刺激され、さらなる動員が引き起こされるとともに、好中球がケラチノサイトに浸潤し、ケラチノサイトの増殖と分化、膿疱形成を引き起こします4)。そして、IL36RA(IL36RN)やAP1S3、SERPINA3の機能喪失変異や、CARD14の機能獲得変異は、図5にある自己炎症性反応を亢進させることでGPPの発症に関わることも知られています4)

5.おわりに

皮膚症状が中心であるPsVと異なり、GPPは膿疱を特徴とする皮膚疾患というだけでなく生命を脅かす全身性疾患で、病理組織学的にも異なる表現型を示します。また、それぞれの病変部皮膚で発現している遺伝子も異なっており、PsVではIL-17/IL-23シグナル伝達経路に関与する獲得免疫系で働くサイトカイン、GPPではIL-36シグナル伝達経路に関与する自然免疫系で働くサイトカインの発現亢進が認められました。
本稿でお示ししたように、GPPとPsVでは病理組織学的な特徴や病態にかかわるシグナル伝達経路のバランスが異なっています。そのため、それぞれのシグナル伝達経路の違いを含めてGPPの発症メカニズムや特徴を深く理解し、病態に即した治療選択が必要だと考えます。

References

  1. Bachelez H, et al. Expert Rev Clin Immunol. 2022; 18: 1033-1047. 
    (本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。)
  2. 古江増隆(総編集). ここまでわかった乾癬の病態と治療. 中山書店: 東京; 2012.
  3. Schön M, et al. Front Immunol. 2018; 9: 1323.
  4. Marrakchi S, et al. Am J Clin Dermatol. 2022; 23(Suppl 1): 13-19. 
    (著者にベーリンガーインゲルハイム社より講演料、コンサルタント料等を受領している者が含まれます。)
  5. Johnston A, et al. J Allergy Clin Immunol. 2017; 140: 109-120.
  6. Samotij D, et al. Int J Mol Sci. 2021; 22: 9048.
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