GPP患者さんの入院期間や、症状に関する疾病負荷とは?

サイトへ公開: 2023年09月01日 (金)

朝比奈先生お写真

監修: 
朝比奈 昭彦 先生(東京慈恵会医科大学皮膚科学講座 主任教授) 

1. はじめに

膿疱性乾癬(GPP)は、急激な発熱、倦怠感、浮腫といった全身症状とともに全身の皮膚が潮紅し、無菌性膿疱が多発する全身性炎症疾患です。そのため診療にあたっては皮膚症状だけでなく、全身症状の管理も重要となります1
GPPの臨床プロファイルや治療に伴う経済的負担についてはレセプトベースの研究結果が報告されているものの2-4、患者・医師双方の視点に基づいたGPPの疾病負荷についてはほとんど明らかになっていません。患者・医師双方の視点を理解することは、GPP診療におけるコミュニケーションを改善し、ひいては患者のQOL向上につながると考えられます。
ここでは、そのような背景においてGPP患者と皮膚科医を対象に実施されたWebアンケート調査の報告5から、疾患負荷、日常生活での悩みやその相談状況に関する項目について紹介します。

2. 調査概要

調査の対象は皮膚科医によりGPPと診断を受けた18歳以上の患者46例と、日本皮膚科学会承認の生物学的製剤使用認定施設で現在1名以上のGPP患者の診療にあたっている皮膚科医66人で、Webアンケート形式の質問票を用いて実施されました(表1)。
アンケートは、GPPの症状、疾患説明、日常生活、周囲の理解などに関して、患者向け51問、皮膚科医向け44問の構成で実施されました(図1)。

調査概要調査概要

3.疾病負荷に関する調査結果

1)入院期間

入院して治療を開始した患者は全体の30%、入院日数の平均値は患者の回答が16.9日、医師の回答が21.9日でした。患者の29%、医師の43%が入院期間を長いと感じており、特に入院期間が20日以上であった患者7例のうち4例が入院期間を長い、やや長い、と回答しました(図2)。
この結果から、患者、医師ともに入院期間が長いと感じていることが明らかとなり、速やかに症状を抑え、入院期間を短縮することが可能な治療法や治療薬の必要性が示唆されました。

入院期間

2)皮膚症状が落ち着くまでの期間

皮膚症状が落ち着くまでの期間について、患者の回答の平均が32日、医師は16日と回答し、皮膚以外の症状が落ち着くまでの平均日数は患者が28日、医師が12日となりました(図3)。
回復に要した期間について患者と医師の回答の間には約2倍の違いがみられ、患者と医師では回復の状態に関して認識の違いがあることが示されました。

皮膚症状が落ち着くまでの期間

3) 日常生活に関する悩み、周囲の理解に関する悩み

GPPに関連する日常生活への支障を感じたことがないと回答した患者は1名(2%)のみであり、ほとんどすべての患者が日常生活で悩みを抱えていることが明らかとなりました。日常生活においては、対人関係、仕事・学校関係でつらい思いをしたと回答した割合が高く、周囲の理解に関しては、相談できる環境がなかった、うつると思われた、避けられたという経験を訴える回答が多く挙がりました(図4図5)。
また、約90%の医師は患者の悩みについて相談を受けたことがあると回答し、日常生活に関しては「仕事・学校生活への影響」、周囲の理解に関しては「うつると思われたり、避けられたこと」が相談の内容の最も多くを占めました。
多くの医師が患者の悩みについて相談を受けたと回答した一方で、約3割の患者は病気について周囲に相談できる環境がないと感じており、患者はすべての悩みを医師に相談できているわけではない可能性が示されました。GPPではなく、乾癬性関節炎を対象としたアンケート結果ではありますが、海外の調査では45%もの患者が「質問をしすぎると医師に面倒な患者だと思われ、治療内容に影響があるのではないかと考える」と回答しています6)。このように患者の多くが医師に対し質問や相談をすることに消極的であり、また、医師においても十分に患者とコミュニケーションをとる時間がとれないことなどが影響して、患者・医師間に認識の差が生じている可能性が考えられます。

日常生活に関する悩み、周囲の理解に関する悩み日常生活に関する悩み、周囲の理解に関する悩み

4.おわりに

GPP患者は疾患そのものの症状による負担に加え、ここで示したような日常生活や周囲の理解に関するさまざまな負担を抱えています。米国のアンケート調査では、83%のGPP患者において精神的ストレスが症状再燃の主要な要因であったことが報告されています7
医師が患者に寄り添い、良好な関係を築いていくことは患者のQOL改善の面でもちろん重要ですが、本調査結果は、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカー、地域連携室などの医療スタッフに加え、患者同士のコミュニティなど、悩みを抱えている患者が相談できるよう、包括的に患者をケアする必要性も示唆していると考えられます。
また、本調査では症状が落ち着くまでの期間について、医師に比べ患者の方がより長いと認識していることが明らかとなりました。このような認識の違いは、患者が自身の症状を正確に伝えられていないことも要因の一つとなっている可能性があります。患者自身が症状を記録できる手帳やアプリなどを活用することにより、より適切な患者・医師コミュニケーションが可能となるかもしれません。先生方には医療スタッフの協力、さらには手帳やアプリのような記録ツールの活用など、さまざま手段をご検討いただき、患者が医師とコミュニケーションを取りやすい環境を整えていただければと思います。

References

  1. 日本皮膚科学会膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン作成委員会. 膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン2014年版. 日皮会誌. 2015; 125(12): 2211-57.
  2. Morita A, et al. J Dermatol. 2021; 48: 1463-73.
    (本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。本論文の著者にベーリンガーインゲルハイム社の社員が含まれています)
  3. Okubo Y, et al. J Dermatol. 2021; 48: 1675-87.
    (本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。本論文の著者にベーリンガーインゲルハイム社の社員が含まれています)
  4. Miyachi H, et al. J Am Acad Dermatol. 2022; 86: 1266-74.
  5. Yagi N, Tada Y, et al. Future Rare Dis. 2023. Epub ahead of print.
    (本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。本論文の著者にベーリンガーインゲルハイム社の社員が含まれています)
  6. Coates LC, et al. Rheumatol Ther. 2021; 8: 1741-1758.
  7. Reisner DV, et al. Am J Clin Dermatol. 2022; 23(Suppl 1):65-71.
    (本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。本論文の著者にベーリンガーインゲルハイム社の社員が含まれています)
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