Effisayil-1試験のデザイン・患者背景

サイトへ公開: 2023年05月08日 (月)

藤田 英樹 先生

監修:
藤田 英樹 先生
日本大学医学部 皮膚科学分野 准教授

はじめに

汎発性膿疱性乾癬(Generalized Pustular Psoriasis; GPP)は、広範囲に認められる無菌性膿疱と、発熱や倦怠感などの全身症状を伴う急性症状を呈する希少な自己炎症性疾患です。急性期の症状の重症度は多岐にわたり、適切な初期治療がなされなかった場合、心不全や腎不全、敗血症などを引き起こし致死的な状態に進行することもあります1)2)
近年の研究により、家族性のGPP患者では、ヒトインターロイキン36受容体(IL-36R)の内因性アンタゴニストであるIL-36RaをコードするIL36RN遺伝子の機能欠失型変異が認められていることなどから3)4)、GPPの病態にはIL-36経路が深く関与することが示唆されています。
GPPは希少性および重症度の高さから、二重盲検無作為化試験の実施が難しい疾患だと考えられます。そのようななか、ヒト化抗ヒトIL-36受容体モノクローナル抗体製剤であるスペビゴ®(一般名:スペソリマブ)は、GPPの急性症状が認められる患者を対象に行われた初めての二重盲検無作為化試験(Effisayilᵀᴹ1試験)において有効性が検証され5)6)、2022年9月に承認、11月に発売されました。
ここでは、そのEffisayilᵀᴹ1試験のデザイン、患者背景について解説します。

Effisayilᵀᴹ1試験のデザインの特徴

Effisayilᵀᴹ1試験は、世界12ヵ国(37施設)から登録された中等度から重度の急性症状が認められるGPP患者53例を対象に行われました。Effisayilᵀᴹ1試験においては、スペビゴ®の安全性に関するデータ集積の向上を実現するために2:1の不均衡割り付けが行われ、内訳はスペビゴ®群35例に対しプラセボ群が18例となっています(図1)。
登録患者のスクリーニング時のGPPの診断は、European Rare And Severe Psoriasis Expert Network(ERASPEN、欧州の希少で重度の乾癬専門家ネットワーク)が定めるコンセンサス診断基準に基づいて行われました(表1)。ERASPENの基準では、GPPの診断にあたって全身の炎症症状の有無は問われていないため、Effisayilᵀᴹ1試験では全身の炎症症状がないGPP患者も登録されています。なお、日本から参加した2例の患者は、ERASPEN診断基準に加えて、日本皮膚科学会「膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン」7の診断基準に基づいて、発熱あるいは倦怠感などの全身症状を伴うGPPの病歴が確認されています(表1)。
また、除外基準として、SAPHO症候群、急性汎発性発疹性膿疱症(AGEP)などが認められる患者、直ちに生命を脅かすようなGPPの急性期の症状を発現している患者、または集中治療が必要であると治験責任(分担)医師が判断している患者や、重度、進行性、またはコントロール不能の肝疾患患者などが含まれ、安全性が担保できる患者が試験に組み入れられました(図1)。

EffisayilTM 1試験のデザインの特徴EffisayilTM 1試験のデザインの特徴02

Effisayilᵀᴹ1試験の評価に用いられた指標の特徴

GPP患者を対象に行われた臨床試験であるEffisayilᵀᴹ1試験の特徴のひとつに、GPPに特化した重症度評価指標が用いられていることが挙げられます。
これまでのGPPを対象とした臨床試験においては、尋常性乾癬の重症度評価指標が用いられることが多く、必ずしもGPPの重症度を適切に評価するものではないという課題がありました。そこでベーリンガーインゲルハイムが社外のGPP診療の専門家とともに、GPPに特化した新たな重症度評価指標として作成したのがGPPGA(Generalized Pustular Psoriasis Physician Global Assessment、表2)とGPPASI(Generalized Pustular Psoriasis Area and Severity Index)*です。
GPPGAは乾癬に対する医師の全般的評価(Physician's Global Assessment: PGA)をGPP評価用に適合させたもので、全身のGPP病変の紅斑、膿疱、鱗屑/痂皮を0(消失)~4(重度)で評価し、各サブスコアの平均値からGPPGA合計スコアを決定します。GPPASIは乾癬病変の重症度及び病変面積の評価指標(Psoriasis Area and Severity Index: PASI)をGPP評価用に適合させたものです。4つの身体部位(頭部、体幹、上肢および下肢)における紅斑、膿疱及び鱗屑/痂皮が認められる皮膚の病変面積と重症度を組み合わせて0~72の範囲で評価します。

EffisayilTM 1試験の評価に用いられた指標の特徴

Effisayilᵀᴹ1試験においては、主要評価項目は1週時におけるGPPGA膿疱サブスコア0達成率、重要な副次評価項目は1週時におけるGPPGA合計スコア0もしくは1達成率、階層型の統計学的手順に含まれる4つの副次評価項目として、4週時におけるGPPASIが75%以上減少(GPPASI 75)達成率、4週時における疼痛視覚アナログ尺度(VAS)スコアのベースラインからの変化量、4週時における乾癬症状評価スケール(PSS)スコアのベースラインからの変化量、4週時におけるFACIT-Fatigueスコアのベースラインからの変化量が設定されました(図1)。

Effisayilᵀᴹ1試験にエントリーされた患者のベースライン特性

患者の選択基準(図1)に基づき、Effisayilᵀᴹ1試験のすべての登録患者は中等度から重度のGPPの急性症状が認められる患者であり、急性症状の定義は、「新鮮な膿疱(膿疱の新規形成又は増悪)、GPPGA合計スコア3以上、GPPGA膿疱サブスコアが2以上、体表面積(BSA)の5%以上に及ぶ紅斑に膿疱を認める」でした。
登録患者の人種では、白人が24例(スペビゴ®群19例、プラセボ群5例)、アジア人29例(同 16例、13例)でした(表3)。登録患者のGPPの罹病期間は初回診断から10年超の割合がスペビゴ®群で48.6%、プラセボ群で33.3%、GPPの急性症状の平均年間発生回数は、スペビゴ®群、プラセボ群両群ともに平均で3回を超えていることが確認されています(表3)。

EffisayilTM 1試験にエントリーされた患者のベースライン特性

GPPの重症度では、GPPGA合計スコア3がスペビゴ®群80%、プラセボ群83%、GPPGA合計スコア4が、それぞれ20%、17%でした。また、GPPGA膿疱サブスコア2はそれぞれ17%、28%、GPPGA膿疱サブスコア3が46%、39%、GPPGA膿疱サブスコア4が37%、33%でした(表4)。また、IL36RN遺伝子変異の有無では、約7割の患者が変異なしでした(表4)。

EffisayilTM 1試験にエントリーされた患者のベースライン特性02

おわりに

Effisayilᵀᴹ1試験では、事前に規定された部分集団解析として日本人患者2例を含むアジア人集団の解析も報告されています8)。本試験のような、急性症状が認められるGPP患者を対象としたプラセボ対照二重盲検比較試験のエビデンスの集積は意義のあることであり、今後のさらなるGPPの病態解明、治療の充実に活かされることを期待したいと思います。

References

  1. Navarini AA, et al. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2017; 31(11): 1792-1799.
  2. Crowley JJ , et al. Postgrad Med. 2021; 133(3): 330-344.
  3. Marrakchi S, et al. N Engl J Med 2011; 365(7): 620-628.
  4. Johnston A, et al. J Allergy Clin Immunol. 2017; 140(1): 109-120.
  5. 社内資料:中等度から重度の急性期症状が認められる膿疱性乾癬(汎発型)(GPP)患者を対象とした国際共同第II相二重盲検比較試験(Effisayilᵀᴹ1試験)(CTD 2.7.6.3.2)[承認時評価資料]
  6. Bachelez H, et al. N Engl J Med. 2021; 385(26): 2431-2440.
    本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。本論文の著者にベーリンガーインゲルハイム社の社員が含まれています。
  7. 日本皮膚科学会膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン作成委員会. 膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン2014年度版. 日皮会誌. 2015; 125(12): 2211-2257.
  8. Morita A, et al. J Dermatol. 2022 Oct 25. doi: 10.1111/1346-8138.16609.
    本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。本論文の著者にベーリンガーインゲルハイム社の社員が含まれています。
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