多施設共同観察研究の結果に基づくわが国の膿疱性乾癬患者の背景

サイトへ公開: 2023年05月08日 (月)

大久保 ゆかり 先生

監修:
大久保 ゆかり 先生
東京医科大学 皮膚科学分野 教授

はじめに

膿疱性乾癬(GPP)は、無菌性の膿疱、紅斑の出現を繰り返す重篤な疾患です。しかし、GPPはすべての乾癬症例のうち1%程度1)の希少な疾患であり、GPP患者におけるフレアの頻度およびその重症度や治療実態などについての報告は限られていました。
そこでわれわれは、わが国の実臨床下におけるGPP患者について調査を行いました2)。本コンテンツではその結果から、現在のわが国におけるGPPの疫学に関するデータを紹介します。

試験デザイン

本研究は、全国の29施設において過去10年間にGPPと診断された205例(男性106例、女性99例)を対象に、後ろ向きカルテレビュー研究として実施しました。日本皮膚科学会の2006年のGPP診断基準に基づいてGPPと診断され、それぞれの施設で6ヵ月以上治療を継続した患者を選択しています。主要評価項目はフレアの頻度および重症度で、副次評価項目として初回GPP診断時の患者背景因子、探索的評価項目として、乾癬に関連する合併症、尋常性乾癬および乾癬性関節炎の発症状況、GPPに関連する遺伝子および遺伝的背景と患者の病態および治療との関連などが調査されました(図1)。

試験デザイン

試験参加患者の背景

1)GPP診断時の病型の内訳

本試験に参加した患者205例において、急性汎発性膿疱性乾癬(Zumbusch型)が最も多く179例(87.3%)、次いで小児汎発性膿疱性乾癬(circinate annular form以外)が7例(3.4%)、疱疹性膿痂疹が3例(1.5%)でした(表1)。

GPP診断時の病型の内訳

2)遺伝子解析結果

IL36RN遺伝子、CARD14遺伝子、AP1S3遺伝子の検査実施状況と変異の割合が調査されました。
IL36RN遺伝子検査は39例実施され30.8%(12/39例)に、CARD14遺伝子検査は16例実施され12.5%(2/16例)に変異が認められました。AP1S3遺伝子検査は2件実施されていましたが、変異は検出されませんでした(表2)。

遺伝子解析結果

3)臨床検査結果

臨床検査により異常が認められた項目は、白血球核左方移動53.2%(59/111例)、ASLO高値9.6%(11/114例)、尿検査異常が33.3%(52/156例)でした。

4)診断時の重症度

日本皮膚科学会のGPP重症度判定基準に基づく患者の重症度の割合は、軽症(0~6点)が74例(36.1%)、中等症(7~10点)が63例(30.7%例)、重症(11~17点)が68例(33.2%)、重症度スコアの平均は合計8.1点(0~17点評価)でした(皮膚症状:平均4.8[0~9点で評価]、全身性炎症に伴う検査所見の重症度:平均3.3[0~8点で評価](表3)。

診断時の重症度

5)合併症・併存症の有無

尋常性乾癬ならびに乾癬関連合併症の状況について調査した結果、尋常性乾癬を合併していた患者が88例(42.9%)、関節炎を合併した患者は55例(26.8%)でした。また、関連合併症として浮腫が32例(15.6%)に発現していました(表4)。浮腫は循環器不全、acute respiratory distress syndrome(ARDS)、capillary leak症候群などの重篤な症状の徴候であるため重症度判定基準の皮膚症状の項目に取り上げられた経緯があり3、留意すべき合併症です。

合併症・併存症の有無

GPP診断時にGPPおよび乾癬関連以外の併存症があった患者は142例(69.4%)でした。上位を占めた併存症は高血圧(58例[28.3%])、脂質異常症(34例[16.6%])、糖尿病(33例[16.1%])であり(表5)、既報の疫学研究と同様の傾向を示したものと言えます4-6

合併症・併存症の有無

おわりに

本研究により、わが国におけるGPP患者の重症度や背景因子、合併症の有無など、実臨床データに基づく有用な疫学情報が示されました。
膿疱性乾癬の臨床症状は多岐にわたります。GPP診療に携わる先生方に、本研究の成果を患者の状態を正確に把握し、適切なコミュニケーションや治療実践のためにお役立ていただければ幸いです。

References

  1. 藤田英樹, 他. 膿庖性乾癖の疫学. 山本俊幸 編. 乾癬・掌蹠膿疱症 病態の理解と治療最前線. 東京: 中山書店; 2020.  293-298
  2. Morita A, et al. JEADV Clinical Practice. 2023. Epub ahead of print.
    本論文の著者に日本ベーリンガーインゲルハイム社の社員が含まれる。
  3. 日本皮膚科学会膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン作成委員会. 膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン2014年度版. 日皮会誌. 2015; 125(12): 2211-2257.
  4. Ohata, C. et al. J Dermatol. 2022; 49: 142-150. 
  5. Okubo, Y. et al. J Dermatol. 2021; 48: 1675-1687.
  6. Morita, A. et al. J Dermatol. 2021; 48: 1463-1473.
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