PsVとGPPの免疫学的な違い

サイトへ公開: 2024年06月19日 (水)

Doctor Image

監修:
山口 道也 先生
山口大学医学部附属病院 医療の質・安全管理部 准教授
山口大学大学院医学系研究科 皮膚科学講座

1.はじめに

膿疱性乾癬(generalized pustular psoriasis; GPP)は、急激な発熱、倦怠感、浮腫といった全身症状とともに全身の皮膚が潮紅し、無菌性膿疱が多発する疾患で、乾癬の一種に分類されています。しかし、全身症状の有無、皮膚症状、遺伝的背景、発症メカニズムの違いなどから、最も一般的な乾癬である尋常性乾癬(psoriasis vulgaris; PsV)とは異なる疾患であり、必要とされる患者ケアも異なると考えられるようになってきています1
ここでは、GPPとPsVの免疫学的な違いについて解説します。

2.乾癬の病態発現に関与する免疫応答とは

乾癬は、炎症(サイトカインおよびサイトカイン受容体)、シグナル伝達、転写制御などに関連する複数の遺伝子の変異により発症する複雑な疾患です。これまでに実施された乾癬の遺伝学的研究から、同定されたリスク遺伝子座を免疫応答別に整理すると、獲得免疫(図1赤)と自然免疫(図1青)の両方にリスク遺伝子座が存在していることが示されています。自然免疫系に分類されているリスク遺伝子座の中には、GPPの発症に関与するIL36RN、CARD14、AP1S3も含まれています(図1)2)

3.PsVとGPPに関連する免疫応答の違い

乾癬では獲得免疫と自然免疫が密接に関連しており、片方が活性化するともう一方の活性化が誘導されます。これらの免疫系は乾癬の種類を問わず、病態に関連していますが、その寄与の度合いは乾癬の種類によって異なると考えられています2)
乾癬のなかで最も一般的なPsVは獲得免疫が優位であり、「獲得免疫応答」、「抗原のプロセシングと提示」などに関与する遺伝子の発現が亢進しています(図2)2,3)。一方でGPPは自己免疫応答を誘導する自然免疫が優位であると考えられており、大量の好中球浸潤や「顆粒球走化性」、「走化性の正の制御」などに関与する遺伝子の発現が特徴としてあげられます(図2)2,3)。また、PsVとGPPの病変部皮膚において自己炎症に関連するIL-1B、IL-36A、IL-36Gの遺伝子発現を比較した研究では、GPPは、PsVと比較してそれぞれの発現が高かったことが示されました(図3)3)
以上から、PsVでは自己免疫に関わる獲得免疫応答が、GPPでは自己炎症に関わる自然免疫応答がより病態の発現に関与すると考えられます1,2)

4.免疫応答からみる乾癬病態の発現メカニズム

獲得免疫応答を誘導する抗原提示は乾癬の病態発現に重要な役割を果たしています。ペプチド抗原のプロセシングに関与するERAP1およびERAP2は乾癬の感受性遺伝子として知られており、CD8+T細胞への抗原提示を誘導します。抗原提示によりCD8+T細胞が活性化されると、IL-17、TNF-α、IFN-γなどの炎症性サイトカインが放出されます(図4左)。図4で示すようにCD8+T細胞はケラチノサイトとクロストークし、PsVの病態発現に関与すると考えられています。また、別経路として、CD1を介したT細胞およびNK-T細胞への脂質抗原の提示もあり、これらの活性化によっても炎症性サイトカインが放出されます(図4左)2)
IL-17、TNF-α、IFN-γなどの炎症性サイトカインはケラチノサイトにおけるIL-36の発現を亢進します。ATPなどの刺激によりケラチノサイトから放出されたPre-IL-36は好中球プロテアーゼ、またはケラチノサイト由来プロテアーゼ(カテプシンS)による切断を受け、活性化されます(図4右)。活性化されたIL-36はIL-36受容体に結合し、さらにIL-36の発現を誘導することで、さらなる白血球の動員をもたらす炎症サイクルを形成します。IL36RN、CARD14、AP1S3などのGPPに関連する遺伝子の変異は上記のIL-36シグナル伝達経路に関与しており、ケラチノサイトはserpinA1、serpinA3などのセリンプロテアーゼ阻害因子やIL-36受容体アンタゴニスト(IL-36RA)の分泌により、IL-36シグナル伝達経路の異常な活性化を抑制していると考えられています2)

5.おわりに

本稿でお示ししたように、乾癬の病態には獲得免疫と自然免疫が密接に関連していますが、GPPにおいては主に自然免疫に関与するIL-36が重要な役割を果たし、IL-17、IL-23などの獲得免疫に関与するサイトカインの病態への関与は限定的であると考えられています1)。この免疫応答のバランスにより乾癬の表現型が変わってくるという理解を念頭に、GPPの病態に即した治療を選択することが重要であると考えます2)

References

  1. Bachelez H, et al. Expert Rev Clin Immunol. 2022; 18: 1033-1047. 
    (本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。)
  2. Liang Y, et al. Curr Opin Immunol. 2017: 49; 1-8.
  3. Johnston A, et al. J Allergy Clin Immunol. 2017; 140: 109-120.
ページトップ