膿疱性乾癬(GPP)の病態におけるIL-36の役割

サイトへ公開: 2022年09月26日 (月)

馬渕 智生 先生

監修:
馬渕 智生 先生
東海大学医学部 専門診療学系 皮膚科学 教授

GPPとは

膿疱性乾癬(GPP)は、広範囲に認められる無菌性膿疱と、高熱や倦怠感などの急性症状を伴う全身性炎症疾患で、病理組織学的にはKogoj海綿状膿疱を特徴とする角層下膿疱が形成されます。尋常性乾癬(PsV)皮疹が先行する例としない例がありますが、再発を繰り返すことが本症の特徴です。皮膚症状に加え、経過中に全身性炎症反応に伴う臨床検査値異常を示し、しばしば粘膜症状、関節炎を合併するほか、まれに呼吸器不全、眼症状、二次性アミロイドーシスを合併することがあり、強い全身症状を伴う場合は適切な全身管理が必要です1)

GPPとPsVの病態の違い

乾癬における皮膚炎症では、自然免疫と獲得免疫の両方が関与しており、それぞれの炎症経路が密接に関連してクロストークすることにより正の炎症ループが形成されますが、GPPとPsVでは病態発現に主に関与する炎症経路が異なると考えられています2)3)
PsVは獲得免疫が関与する自己免疫疾患で、IL-17、TNF-α、IFN-γなどの獲得免疫系で働くサイトカインを中心としたIL-17/IL-23シグナル伝達経路によって引き起こされると考えられています。一方で、GPPは自然免疫が関与する自己炎症疾患で、好中球、T細胞、樹状細胞、単球などの自然免疫系の細胞を活性化させるIL-36シグナル伝達経路によって引き起こされると考えられています(図14)5)

GPPとPsVの病態の違い

また、GPP、PsVの皮膚病変および健常者の皮膚組織を用いて遺伝子発現を検証した研究では、GPPは、尋常性乾癬に比べて、IL-36シグナル伝達経路に関連するIL-1β、IL-36の発現レベルは高く、一方で獲得免疫に関連するIL-17A、IL-22、IL-23、IFN-γ、IL-18などの発現レベルは低かったことが報告されています(図2、図36)

GPPとPsVの病態の違い02GPPとPsVの病態の違い03

GPPの病態と関連するIL-36シグナル伝達経路

IL-36シグナル伝達を誘導するIL-36は、IL-1ファミリーに属するサイトカインの一種であり、ケラチノサイトを含む様々な細胞で発現しています3)。IL-36にはIL-36α、IL-36β、IL-36γという3つの異なるアイソフォームがあり、ストレス、薬物、外傷、喫煙、病原体などの刺激をトリガーとしてケラチノサイトから放出され、細胞外にあるプロテアーゼにより活性化されます。活性化されたIL-36がIL-36受容体(IL-36R)に結合すると、IL-1/IL-1受容体(IL-1R)ファミリーの共通サブユニットであるIL-1Rアクセサリータンパク質(IL-1RAcP)がリクルートされてヘテロダイマーとなり、下流のMAPKやNF-κBなどのシグナル伝達経路を活性化します。このIL-36Rを介したシグナル伝達により、IL-1β、IL-17A、IL-23、TNF-αなどの炎症性サイトカインや、CXCL1、CXCL2、CXCL8などの好中球ケモカイン、ならびにリンホカインの発現が誘導されます(図47)

GPPの病態と関連するIL-36シグナル伝達経路

産生されたサイトカインなどにより好中球、T細胞、樹状細胞、単球などの自然免疫系の細胞が刺激され、さらなる動員が引き起こされるとともに、好中球がケラチノサイトに浸潤し、ケラチノサイトの増殖と分化、そして膿疱形成を引き起こします。さらに、炎症性サイトカインレベルの上昇は、局所的および発熱・倦怠感といった全身的な炎症反応を誘発します。加えて、好中球から放出されるカテプシンG、エラスターゼ、プロテイナーゼ-3といったプロテアーゼはIL-36を活性化するため、前述のIL-36シグナル伝達が持続的に繰り返されます8)9)

GPPとIL-36シグナル伝達経路の制御

正常な生理学的条件下ではIL-36Rの内因性アンタゴニストであるIL-36受容体拮抗因子(IL-36Ra)がIL-36とIL-36Rの結合を競合的に阻害し、バランスを保つことで炎症反応を制御しています(図510)。しかし、GPPでは、この炎症反応の制御のバランスがくずれ、IL-36による過剰なシグナル伝達が起き、様々な炎症性サイトカインの発現が誘導されます。
このような過剰なIL-36シグナル伝達が起こる原因としては、IL-36の過剰発現や、IL-36RaをコードするIL36RN遺伝子の突然変異によるIL-36Raの機能喪失が考えられています11)12)IL36RN遺伝子の機能変異を背景として引き起こされる疾患はIL-36Ra欠損症(deficiency of interleukin thirty-six receptor antagonist[DITRA])と呼ばれますが、GPPはその典型的な疾患だと知られています(図512)。さらに、IL-36を中心とする炎症反応に関連するCARD14AP1S3SERPINA3などの遺伝子の変異も過剰なIL-36シグナル伝達を誘導し、GPPの病態発現に関与していると考えられています10

GPPの病態におけるIL-36の役割05

おわりに

以上、GPPの病態におけるIL-36の役割について解説しました。GPPは膿疱を伴う皮膚疾患というだけでなく生命を脅かす全身性疾患であり、急性症状に対して適切な初期治療がなされなかった場合、心不全や腎不全、敗血症などを引き起こし致死的な状態に進行することもあります。ここでご紹介したように、GPPの病態をよく理解し適切な診療を行うことが重要と考えられます。

References

  1. 日本皮膚科学会膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン作成委員会.日皮会誌. 2015; 125: 2211-57.
  2. Griffiths CEM. et al. Lancet. 2021; 397: 1301-15.
  3. Samotij D. et al. Int J Mol Sci. 2021; 22: 9048.
  4. Schön M, et al. Front Immunol. 2018; 9: 1323.
  5. Marrakchi S. et al. Am J Clin Dermatol. 2022; 23(Suppl 1): 13-9.
  6. Johnston A. et al. J Allergy Clin Immunol. 2017; 140: 109-20.
  7. Queen D. et al. Front Cell Dev Biol. 2019; 7: 317.
  8. Marrakchi S. et al. Am J Clin Dermatol. 2022; 23(Suppl 1): 13-19.
  9. Sugiura K. Dermatol Ther (Heidelb). 2022; 12: 315-328.
  10. Marrakchi S. et al. N Engl J Med. 2011; 365: 620-628.
  11. Catapano M. et al. J Invest Dermatol. 2020; 140: 816-26. e3.
  12. 杉浦一充. 現代医学. 2018; 66: 49-52.
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