監修:
鶴田 大輔 先生
大阪公立大学 大学院医学研究科皮膚病態学 教授
1. はじめに
膿疱性乾癬(GPP)は膿疱が広範囲に発生し、しばしば全身性の炎症を伴うことを特徴とする稀な自己炎症性皮膚疾患です。GPPは希少な疾患であることから、治療や評価などは尋常性乾癬(PsV)に準ずる形でなされてきました。しかし、全身症状の有無、皮膚病変の現れ方、遺伝的背景、発症メカニズムの違いなどから、GPPはPsVとは異なる疾患であり、必要とされる患者ケアも異なると考えられるようになってきています(図1)1)。
ここでは、GPPの発症メカニズムにおけるIL-36の役割について、また、この発症メカニズムの違いがどのようにGPPとPsVの臨床症状の違いとして現れるのかについて解説します。
2. GPPとPsVの発症メカニズムの違い
乾癬における皮膚炎症では、自然免疫と獲得免疫の両方が関与しており、それぞれの炎症経路が密接に関連してクロストークすることにより正の炎症ループが形成されますが、GPPとPsVでは病態発現に主に関与する炎症経路が異なると考えられています2)3)。
PsVはIL-17、TNF-α、IFN-γなどの獲得免疫系で働くサイトカインを中心としたIL-17/IL-23シグナル伝達経路が主に関与することによって引き起こされると考えられています。一方で、GPPは獲得免疫以上に自然免疫が関与する自己炎症疾患であり、好中球、T細胞、樹状細胞、単球などの自然免疫系の細胞を活性化させるIL-36シグナル伝達経路によって引き起こされると考えられています(図2)4)5)。
3. GPPにおけるIL-36の役割
IL-36は免疫細胞の活性化、炎症性サイトカインやケモカインの放出など多くの免疫反応に関わるIL-1ファミリーに属するサイトカインです3)。GPPの特徴である膿疱を引き起こす好中球の遊走はIL-36シグナル伝達経路の活性化によって起こると考えられています。IL-36がIL-36受容体に結合するとMAPキナーゼ(MAPK)やNF-κBを介して炎症性サイトカインやケモカインが誘導され、樹状細胞や好中球などの免疫細胞が活性化します(図3)6)。さらに、顆粒層のケラチノサイトにおけるIL-36シグナル伝達はIL-17Cの発現を誘導し、IL-17CはIL-36の発現を誘導するため、炎症反応を増幅させると考えられています7)8)。
4. GPPとPsVの皮膚症状および組織学的所見の違い
前述のようなGPPとPsVの発症メカニズムの違いは皮膚病変の現れ方にも影響を及ぼします。PsV患者の皮膚では紅斑や鱗屑がみられるのに対し、GPPでは大量の好中球の集積による広範囲の無菌性膿疱が特徴的です。組織学的な違いとしてはPsVでは表皮の肥厚、ケラチノサイトの増殖や分化異常、不全角化がみられるのに対し、GPPはKogoj海綿状膿疱を特徴とする角層下膿疱、好中球の著明な浸潤がみられます1)。
5. おわりに
GPPは表皮への大量の好中球の集積によって起こる膿疱の発現が特徴的であり、その発症メカニズムにはIL-36が中心的役割を担っています。このようなPsVとは異なるGPPの発症メカニズムや特徴をよく理解し、GPPの病態に即した治療を行うことが、より良い治療の実現、ひいてはGPP患者のQOL向上のために重要と考えられます。
References
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