GPP診療をめぐる医師側のUnmet medical needs

サイトへ公開: 2022年09月26日 (月)

秋山 真志 先生

監修:
秋山 真志 先生
名古屋大学大学院 医学系研究科 皮膚科学分野 教授

はじめに

汎発性膿疱性乾癬(GPP)は、広範囲に認められる無菌性膿疱と、高熱や倦怠感などの急性症状を伴う疾患です。GPPの急性症状は多岐にわたりますが、適切な初期治療がなされなかった場合、心不全や腎不全、敗血症などを引き起こし致死的な状態に進行する場合もあります。しかしながら、乾癬の中でも有病率が1%程度1)と希少であることから、疾患認知度や疾患そのものに関するデータが不十分であり、乾癬治療が進歩した現在においても、依然として患者側、医師側双方にさまざまなUnmet medical needs(UMNs)が存在しています。ここでは、そのようなGPP診療をめぐる医師側のUMNsについて、診断に関するものと治療に関するものに分けて解説します。

診断に関するUMNs

1) 鑑別診断のナレッジ共有へのニーズ

GPPには鑑別疾患として、急性汎発性発疹性膿疱症(AGEP)をはじめ、角層下膿疱症(SPD)などの膿疱を主体とする類似疾患があり2)、経験を重ねた皮膚科医でも診断に苦慮する場合があります。しかし、希少疾患であるが故に、皮膚科医の間でそのような鑑別診断に関する情報共有が十分とはいえない状況があり、診断精度向上を目的としたナレッジ共有の仕組みや機会に対するニーズが存在しています。

2) 国際的に標準化された診断基準・重症度判定基準へのニーズ

わが国の「膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン2014年度版」3)における診断の主要項目は、①発熱あるいは全身倦怠感等の全身症状を伴う、②全身または広範囲の潮紅皮膚面に無菌性膿疱が多発し、ときに融合し膿海を形成する、③病理組織学的にKogoj海綿状膿疱を特徴とする好中球性角層下膿疱がみられる、そして④以上の臨床的、組織学的所見を繰り返し生じること、であり、以上の4項目を満たす場合を膿疱性乾癬(汎発型)と診断します。また、初発例の場合などを鑑み、主要項目②と③を満たす場合を疑い例と診断します(表1)。

国際的に標準化された診断基準・重症度判定基準へのニーズ


一方、欧州で用いられているERASPEN(European Rare and Severe Psoriasis Expert Network)の定義4)では、全身症状や尋常性乾癬先行の有無を問わず、肢端部以外の皮膚に原発性、無菌性の肉眼で確認可能な膿疱の形成が認められ、1回以上の再発エピソードもしくは3ヵ月以上の持続性の症状が認められる場合をGPPと定義します(表2)。

国際的に標準化された診断基準・重症度判定基準へのニーズ02


日本のガイドラインの発刊から10年(英語版5発刊から6年)が経ち、その間にさまざまな臨床経験や知見が集積されてきています。精度の高いGPPの疫学研究や、国際共同治験を行うためには、各国の専門家の関与による最新の知見に基づく、国際的に標準化された診断基準が不可欠であり、その一日も早い作成が望まれます。
また、臨床試験における治療効果の評価や疾病負担の測定のためには、標準化された重症度判定基準とスコアリングシステムが必要です6)。現在の日本のガイドラインには皮膚症状と全身症状に基づく17ポイントの重症度判定基準が記載されていますが(表3)、最近ではGPPGAやGPPASIという評価指標が開発され、臨床試験における効果判定に使用されています。GPPGAは乾癬に対する医師による全般的評価(Physician‘s Global Assessment:PGA)をGPP評価用に修正したもの7)、GPPASIは乾癬における病巣の面積と重症度の指標(Psoriasis Area and Severity Index:PASI)を膿疱性乾癬評価用に修正したものです7)8)表4、表5、図1)。

国際的に標準化された診断基準・重症度判定基準へのニーズ03国際的に標準化された診断基準・重症度判定基準へのニーズ04国際的に標準化された診断基準・重症度判定基準へのニーズ05国際的に標準化された診断基準・重症度判定基準へのニーズ06

3) GPP患者の迅速な紹介のための仕組みへのニーズ

上述したように、GPPは急速に症状が悪化し、生命にかかわる場合もある重篤な疾患であり、早期診断・早期治療が重要です。しかし、疾患の希少性や診断の難しさから、主治医がGPPを疑うことができず、症状が悪化した状態で皮膚科専門医に紹介されてくるケースも少なからずあります。一般内科や皮膚科の医師に対する疾患啓発はもちろんのこと、GPPの治療実績が豊富な施設に迅速に患者を紹介できるような仕組み作りが喫緊の課題であるといえます。

治療に関するUMNs

1) 治療効果へのニーズ

ドイツの5つの大学の皮膚科において、GPP患者86名が受けた201コースの治療における治療反応性を検討した2021年の報告では、無効/部分奏効が58.7%、奏効が41.3%と、現行の治療法は効果が限定的であることが示されています9)。また、GPP患者の多くは、現行の治療法の限定的な効果、経時的な効果の消失、または副作用のために、複数の治療法を組み合わせて使用しています10)
以上のことからGPPの急性症状に関連する症状を迅速かつ完全に消失させ、再発を予防し、許容可能な安全性プロファイルを有する治療法に対する高いUMNsが存在しています。

2) エビデンスレベルの高い臨床研究へのニーズ

現在の治療ガイドラインで提示されている治療法の多くは、推奨度C1(行うことを考慮してもよいが、十分な根拠がない)であり、その理由として本疾患が、「希少疾患であり、エビデンスレベルが高い臨床研究データを渉猟することが難しい」ことが挙げられます3)
同ガイドラインにおいて「膿疱性乾癬(汎発型)は症例数が少なく、重症度が高いことから大規模な比較試験などのエビデンスレベルの高い検討は困難である」3)と記載されているとおり、二重盲検無作為化試験による効果検証は本症では困難です。
このような背景において、ヒト化抗ヒトIL-36レセプターモノクローナル抗体製剤スペソリマブは、急性症状を呈するGPP患者を対象に行われた初めての二重盲検無作為化試験であるEffisayilᵀᴹ1試験において有効性が検証され、2022年9月に承認されました7)11)

おわりに

以上、GPP診療をめぐる医師側のUMNsについて解説しました。実臨床において、GPPの疾患認知度が向上し、国際的な診断基準の作成およびGPPGAという重症度判定基準が普及することで、GPP患者の早期の紹介・診断・治療が1日もはやく実現されることが望まれます。また、治療におけるGPP患者のニーズは膿疱、瘢痕、疼痛の速やかな消失であり10)、その目標に近づくための治療法をエビデンス重視で選択していく必要があるといえるでしょう。

References

  1. 山本俊幸 編. 乾癬・掌蹠膿疱症 病態の理解と治療最前線. 東京: 中山書店; 2020.
  2. Fujita H, et al. Am J Clin Dermatol. 2022; 23(Suppl 1): 31-38.
  3. 日本皮膚科学会膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン作成委員会.日皮会誌. 2015; 125: 2211-57.
  4. Navarini AA, et al. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2017; 31: 1792–9.
  5. Fujita H, et al. J Dermatol. 2018; 45: 1235-1270.
  6. Gooderham MJ, et al. Expert Rev Clin Immunol. 2019; 15: 907-919.
  7. Bachelez H, et al. N Engl J Med. 2021; 385: 2431-2440.
    (本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。本論文の著者にベーリンガーインゲルハイム社の社員が含まれています)
  8. Burden AD, et al. Am J Clin Dermatol. 2022; 23(Suppl 1): 39-50.
    (本論文はベーリンガーインゲルハイム社の支援により執筆されました)
  9. Kromer C, et al. Dermatol Ther. 2021; 34: e14814.
  10. 社内資料:患者の経験に関するデータ(20xx年xx月xx日承認、CTD 2.5.1.1.2)[承認時評価資料]
  11. 社内資料:中等度から重度の急性期症状が認められる膿疱性乾癬(汎発型)(GPP)患者を対象とした国際共同第II相二重盲検比較試験(Effisayilᵀᴹ 1試験)(CTD 2.7.6.3.2)[承認時評価資料]
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