GPPの膿疱形成におけるサイトカインの役割とは

サイトへ公開: 2024年06月19日 (水)

監修:
柴田 彩 先生
東京大学大学院医学系研究科・医学部 皮膚科学教室 准教授

1.はじめに

膿疱性乾癬(generalized pustular psoriasis; GPP)は、急激な発熱、倦怠感、浮腫といった全身症状とともに全身の皮膚が潮紅し、無菌性膿疱が多発する疾患です1)。GPPは自然免疫の関与が一因として知られている自己炎症疾患で、GPPに特徴的な無菌性膿疱の形成は好中球、T細胞、樹状細胞、単球などの自然免疫系の細胞を活性化させるIL-36を介したシグナル伝達によって引き起こされると考えられています2)3)
本稿では、GPPの膿疱形成におけるサイトカインの役割(図)について解説します。

2.自然免疫系におけるIL-36シグナル伝達経路の活性化

IL-36はIL-1ファミリーに属しており、IL-36α、IL-36β、IL-36γという3つの異なるアイソフォームがあります。好中球のプロテイナーゼなどにより活性化されたIL-36は、樹状細胞やTh1細胞からの炎症性サイトカイン、ケモカインの産生を促進し、炎症反応を引き起こすとともに、ケラチノサイトへのシグナル伝達を誘導します4)
マウスの骨髄細胞に由来する樹状細胞(bone marrow-derived dendritic cell; BMDC)を用いて、IL-36刺激による遺伝子発現の変化を検討した研究では、IL-36α、IL-36β、IL-36γの刺激によりIL-6、IL-12p40、CXCL1、CCL1、IL-12p35、IL-1β、およびIL-23p19の発現が60倍以上増加し、さらにGM-CSF、IL-10、CXCL10、およびTNF-αの発現も10倍以上増加したことが示されました(表1)5)。代表的な炎症性サイトカインであるTNF-αは樹状細胞を活性化し、Th17細胞の生存や増殖に関与するサイトカインとして知られるIL-23の産生を誘導します6)
以上の結果から、IL-36は樹状細胞を活性化し、さらなる炎症反応を促進することが示唆されます5)

3.IL-36によるTh17細胞応答の誘導

ヘルパーT細胞のサブセットに分類されるTh17細胞はIL-17を産生するT細胞として知られており、乾癬の病態形成に関与しています7)
マウスの末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cell; PBMC)を用いて、IL-36α刺激がTh17細胞に関連する遺伝子発現に及ぼす影響を検討した研究が行われました8)。その結果、IL-36αの刺激により、Th17細胞の転写因子であるRORγやIL-17の発現増加が認められました。また、これらの発現増加はAKT経路やERK経路を介していることも示されています(図1)8)
以上の結果から、IL-36αはTh17細胞への分化を誘導することが示唆されます8)

4.サイトカイン刺激によるケラチノサイトの遺伝子発現変化

ケラチノサイトはサイトカインなどを介して免疫細胞とクロストークしていることが知られています9)。ヒトケラチノサイトを用いて、IL-17A、IL-36刺激による遺伝子発現の変化を検討した研究が行われました10)。ヒトケラチノサイトをIL-17Aで刺激した結果、AMPをコードする遺伝子S100A7、S100A7A、S100A8、S100A12、DEFB103A、DEFB4A、およびIL-36をコードする遺伝子IL36A、IL36B、IL36Gの発現増加が認められました(図2)10)。さらに、IL-36α、β、γ刺激によるIL36Gの発現を検討した結果、活性を示すIL-36α、β、γの切断型変異体を加えたケラチノサイトにおいて、IL36Gの発現増加が認められました(図2)10)。以上の結果から、IL-36はIL-17Aシグナルと協調し、持続的な炎症を促進する増幅メカニズムを有することが示唆されます10)
また、ヒトケラチノサイトを用いて、IL-36刺激によるケモカイン産生を検討した研究では、IL-36α、β、γを加えたケラチノサイトで白血球の遊走を誘導するCXCL1、CXCL8、CCL3、CCL5、およびCCL20の発現増加が認められました(図3)11)。CXCL1、CXCL8の発現はIL-36濃度依存的に増加したことも示されています(図3)11)
これらの結果はIL-36で刺激されたケラチノサイトが免疫細胞の遊走を誘導するケモカインを産生することを示唆しており11)、IL-36を介したケモカインの産生によりGPPの病態形成が誘導されると考えられます。

5.おわりに

本稿ではIL-36シグナル伝達経路により、樹状細胞やTh17細胞が活性化され、ケラチノサイトにおける炎症性サイトカインや好中球ケモカイン、リンホカインの発現が誘導されることをご紹介しました。
膿疱形成期におけるGPPでは自然免疫に関与するIL-36シグナル伝達経路が優勢であり、IL-17、IL-23などの獲得免疫に関与するサイトカインの病態への寄与は限定的であると示唆されています1)。GPPの発症メカニズムや特徴を深く理解し、その病態に即した治療を選択することが重要であると考えます。

References

  1. Bachelez H, et al. Expert Rev Clin Immunol. 2022; 18: 1033-1047. 
    (本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。)
  2. Schön MP, Erpenbeck L. Front Immunol. 2018; 9: 1323.
  3. Marrakchi S, et al. Am J Clin Dermatol. 2022; 23(Suppl 1): 13-19. 
    (著者にベーリンガーインゲルハイム社より講演料、コンサルタント料等を受領している者が含まれます。)
  4. Iznardo H, Puig L. Int J Mol Sci. 2021; 22: 4344.
  5. Vigne S, et al. Blood. 2011; 118: 5813-5823.
  6. Zaba LC, et al. J Exp Med. 2007; 204: 3183-3194.
  7. Patel DD, Kuchroo VK. Immunity. 2015; 43: 1040-1051.
  8. Qin X, et al. Cytokine. 2020; 128: 154992.
  9. Piipponen M, et al. Int J Mol Sci. 2020; 21: 8790.
  10. Pfaff CM, et al. Sci Rep. 2017; 7: 15631.
  11. Foster AM, et al. J Immunol. 2014; 192: 6053-6061.
ページトップ