2023 GOLDレポートから考える、COPD診療のこれから 第2回

サイトへ公開: 2023年06月29日 (木)

2023 GOLDレポートから考える、COPD診療のこれから 第2回

2023 GOLDレポートから考える、COPD診療のこれから 第2回

本コンテンツでは、『2023 GOLDレポート』に基づき、呼吸リハビリテーションの有益性と今後の課題について、呼吸リハビリテーションのエキスパートである一般社団法人 GOLD日本委員会 代表理事の植木 純先生(順天堂大学 名誉教授/大学院 医療看護学研究科 臨床病態学分野呼吸器系 特任教授)にご解説いただきます。

インタビュー:2023年1月31日 順天堂大学浦安キャンパスにて実施

【まとめ】

  • COPDの身体活動性およびセデンタリー行動に対する介入手段のひとつとして呼吸リハビリテーションがある
  • 入院・通院で行う従来の呼吸リハビリテーションは、COPDに対する有益性のエビデンスが構築されている一方、アクセスに関して課題がある
  • 従来の呼吸リハビリテーションの代替プログラムとして、テレ(遠隔)リハビリテーションが提案されている
  • 日本におけるCOPDの認知度は向上しつつあり、特に若い世代における認知度が向上している

身体活動性と呼吸リハビリテーション

COPDの身体活動性は健常者と比べ低下しています1。身体活動性の低下はCOPD全死亡の最大の関連因子であり2、「身体活動性の向上および維持」はCOPDの管理目標のひとつに位置付けられています3
また、近年、身体活動性の中のセデンタリー行動(1.5METs以下、座位や臥位などの静的な行動)が世界的に注目されています。COPDでは健常者と比べて座っている時間および横になっている時間の増加が以前より指摘されており1)、セデンタリー行動はCOPD死亡の危険因子であることが報告されています4)。
以上のことから、COPDでは身体活動性およびセデンタリー行動に対する介入が必要です。そして、運動療法やセルフマネジメント教育を中核とする呼吸リハビリテーションは、その介入手段のひとつとなります。

入院・通院で行う呼吸リハビリテーションの有益性と課題

呼吸リハビリテーションは、非薬物療法の中で標準的治療と位置付けられています5。身体活動性向上の可能性のほかに、呼吸困難の軽減、運動耐容能の改善、HRQOLの改善など、COPDに対する有益性のエビデンスが構築されています5

一方で、入院・通院で行う従来の呼吸リハビリテーションには課題もあります。その主なものとして、呼吸リハビリテーションへのアクセスの問題があり、『2023 GOLDレポート』では具体的に以下の3点を挙げています6

  • 呼吸リハビリテーションを提供できる施設が限られる
  • 呼吸リハビリテーションは都市部で実施される傾向があるため、多くのCOPD患者にとって参加が困難である
  • 都市部に居住する患者であっても、外来のリハビリテーションに参加するため頻繁に交通機関を利用する必要がある

テレリハビリテーションの有益性と今後の課題

こうした課題を有する従来の呼吸リハビリテーションに対し、代替プログラムとして提案されているのが、テレ(遠隔)リハビリテーションです6
テレリハビリテーションの有効性および安全性については、2021年のコクラン・レビューで検討しています7。テレリハビリテーションに関する15研究(主な12研究における対象患者の99%がCOPD)の分析を行った結果、テレリハビリテーションが、従来の呼吸リハビリテーションと同様の有益性を有することを示唆しました。

一方で、この新たな取り組みには検討すべき課題も残っています。
まず、テレリハビリテーションはエビデンスが構築途中の分野であり、現時点でベスト・プラクティスは確立されていません6
また、種々の遠隔での介入ツールの開発が進んでいる中で、家庭内のブロードバンド環境の違いにより、提供される医療に差が生まれる可能性があります。在宅でテレリハビリテーションを実施する場合、グループでの介入では患者同士が会話できる機器が望ましいと考えます。また、生体情報のモニタリング機能を有する機器もあります。しかし、機能を充実させるに従って、家庭内のブロードバンド環境が大きく影響してくると考えられます。
今後、テレリハビリテーション特有の課題を解決し、すべてのCOPD患者が呼吸リハビリテーションにアクセスできるようになることを望んでいます。

日本におけるCOPDの認知度

GOLD日本委員会では、COPDに関する正しい知識の普及を目的にさまざまな活動を行っています。
その活動の一環として、2009年より15回にわたって1万人規模のCOPD認知度把握調査を行っています8。直近の2022年12月に実施した調査では、COPDについて、「どんな病気かよく知っている」「名前は聞いたことがある」と答えた人は、合わせて34.6%となり、初回の17.7%と比べると認知度は向上しつつあります。
また、年代別で見ると、20歳代で41.9%、30歳代で38.4%と若い世代で認知度が高い傾向が見られています9。若い世代の方がCOPDについて知ることは、早期からの禁煙の意識向上、さらには将来のCOPDの予防にもつながると考えられるため、われわれの活動も意義のあるものだと感じています。

今回ご紹介した内容を、先生方の日常診療の参考としてお役立ていただければ幸いです。

【引用】

  1. Pitta F,et al.Am J Respir Crit Care Med. 2005;171(9):972-7.
  2. Waschki B, et al.Chest.2011;140(2):331-342.
  3. 日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会 編: COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版. 2022, p.92.
  4. Furlanetto KC,et al.Respir Care. 2017;62(5):579-587.
  5. 日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会 編: COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版. 2022, p.106-109.
  6. Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease:Global Strategy for the Diagnosis, Management, and Prevention of Chronic Obstructive Pulmonary Disease (2023 REPORT).
  7. Hill CJ,et al.Cochrane Database Syst Rev. 2021; 2021(1): CD013040.
  8. 一般社団法人 GOLD日本委員会 COPD情報サイト COPD認知度把握調査結果
    http://www.gold-jac.jp/copd_facts_in_japan/copd_degree_of_recognition.html(2023年2月閲覧)
  9. 一般社団法人 GOLD日本委員会 COPD認知度把握調査 年代別/都道府県別認知度推移結果報告書2022年12月23日
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