改訂の背景と今後のCOPD診療への期待

サイトへ公開: 2022年06月28日 (火)

COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版 改訂ポイントとその背景は? 第2回

COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版 改訂ポイントとその背景は? 第2回

2022年6月に『COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版』が発刊されました。
第1回では、第6版作成委員会委員長の福島県立医科大学 柴田 陽光 先生に、第Ⅲ章「治療と管理」における改訂ポイントおよびCOVID-19流行期のCOPD診療についてご解説いただきました。
第2回である本コンテンツでは、第1回で取り上げた各ポイントについて、改訂に至った背景を含めたより詳細な内容と、今後のCOPD診療への期待についてお話しいただきました。

インタビューは2022年4月11日 オンラインにて実施

【まとめ】

  • 今回の改訂で重要視したことは、全体として最新のエビデンスに基づいた改訂を行うこと
  • COPDの疾患進行抑制に関するエビデンスや健康寿命延長の必要性を考慮し、管理目標に“疾患進行の抑制および健康寿命の延長”を追加
  • 安定期COPD管理のアルゴリズムにLAMA/LABA/ICS配合薬・マクロライド系抗菌薬の位置付けを提示
  • 吸入指導は吸入薬に期待される薬効を得るうえで重要であり、薬物療法に“吸入指導”の項目を追加
  • 患者さんにその時々での最適な医療を提供するために、COPDの病診連携におけるプライマリケア医・呼吸器専門医の役割を詳説
  • 呼吸機能検査の実施が困難なCOVID-19流行期において、COPDの仮診断として活用できる『COVID-19流行期 日常診療におけるCOPDの作業診断と管理手順』を掲載
  • 専門・非専門を問わず多くの医師に本ガイドラインを手に取っていただき、COPDの診療レベルを高めていただきたい

改訂において重要視したこと

今回重要視したことは、全体として最新のエビデンスに基づいた改訂を行うことです。特に安定期COPDの治療に関しては、クリニカルクエスチョン(CQ)を設定し、最新のエビデンスをもとに各CQに対するシステマティック レビューおよびメタ解析を実施し、現時点でのベストアンサーを模索しています。

管理目標

本版では、COPDの管理目標に“疾患進行の抑制および健康寿命の延長”を追加しました。
“疾患進行の抑制”を追加した背景には、COPDの主因は喫煙であり、禁煙によって疾患進行の抑制が期待できるというエビデンス1)がそろってきたことが挙げられます。
また、現在、医療では平均寿命を延長させると同時に健康状態の向上と健康寿命の延長が求められます2)。さらに、「日本人COPD患者は高齢であり、併存症で亡くならない限り、長寿も可能である」3)こともわかってきました。このような背景から、“健康寿命の延長”を目標に掲げることになりました。

管理目標

安定期の管理―安定期COPD管理のアルゴリズムー

本版における、“安定期COPD管理のアルゴリズム”の改訂ポイントは次の2つです。

  • 喘息病態非合併例と合併例に分けて薬物療法のアルゴリズムを記載
  • 新たにLAMA/LABA/ICS配合薬およびマクロライド系抗菌薬の位置付けを提示

1点目に関しては、2点目のLAMA/LABA/ICS配合薬にも関係しますが、ICS追加の判断の際に、喘息病態の合併の有無が関わってくるためです。
今回の改訂では、ICSの追加併用について、喘息病態合併例に加え、喘息病態非合併例でも「頻回の増悪かつ末梢血好酸球増多患者においてICSの追加併用を考慮する」4)としました。このように、喘息病態合併の有無によってICSを検討する際に考慮すべき内容が異なるため、ご覧のアルゴリズムの形になっています。

2点目のうち、マクロライド系抗菌薬に関しては、本版では新たに「長期管理薬を2剤以上使用しても増悪が頻回であればマクロライド系抗菌薬を追加する」4)としました。
慢性気道感染を併存しており、咳・痰が多いようなCOPD患者さんは、ICSや気管支拡張薬ではコントロールが難しくても、マクロライド系抗菌薬で効果が期待できることがあります。このような背景から、アルゴリズムに書き加えることとしました。

なお、アルゴリズムには示されていないものの、LAMA/LABA併用療法の位置付けについても変更がありました。これまでの単剤療法からのステップアップに加え、「症状が強い、あるいは、身体活動性が損なわれている場合には、初期導入としてのLAMA/LABA配合薬は許容される」4)としました。
COPD患者さんの身体活動性に対するエビデンスのひとつとして、LAMA/LABA配合薬でLAMA単剤と比較してセデンタリー行動の短縮が認められたという近年の報告5があります。身体活動性はCOPD患者さんの生命予後に密接に関連するため6)、身体活動性の改善を図ることは健康寿命の延長を目指すうえで重要であると考えられます。

安定期の管理―安定期COPD管理のアルゴリズムー

安定期の管理―吸入指導―7)

本版では、吸入療法はCOPD管理の根幹をなすという考えのもと、薬物療法に“吸入指導”の項目を新たに追加しました。
この背景として、本ガイドラインは多くの非専門の先生に使っていただくことを第一の目的としており、そういった先生の中には、吸入薬の取り扱いや吸入指導に不慣れな方もいらっしゃいます。そのため吸入薬をせっかく処方しても指導がなく、患者さんが吸入方法を理解していない、そのために期待される薬効が得られないケースがときどき見受けられます。こういった背景の中、吸入指導は吸入薬を処方した際に欠かせないものであるということを強調するために、本項を追加しています。
また、実際の吸入指導では薬剤師との病薬連携を図ることで、患者さんの吸入手技を高めることが期待できます。こういった観点から、本項では吸入療法における病薬連携の構築についても言及しています。

安定期の管理―吸入指導―

COPDの病診連携―プライマリケア医、呼吸器専門医の役割―8)

本版では、COPDの病診連携におけるプライマリケア医および呼吸器専門医の役割についてより詳しく解説しました。
病診連携は、COPD患者さんに最適な医療を届けるうえで必要となります。特に、プライマリケア医の先生が適切なタイミングで専門医へ紹介することで、患者さんの重症化を防げる場合があると考えられます。たとえば、現在の薬物治療を最適化する、あるいは必要なタイミングで専門医に紹介し、呼吸リハビリテーションを導入することで、患者さんが良い状態を保てる可能性があります。
このように、個々の患者さんにその時点での最適な医療を提供するためには、今後さらに病診連携を促進する必要があるとして、プライマリケア医および呼吸器専門医の役割をより明確に記載しました。

新興感染症流行とCOPD9)

COVID-19流行期での呼吸機能検査は、対象者が感染者であった場合に感染拡大を来す可能性が懸念されます。
そこで、日本呼吸器学会は本版で「地域におけるCOVID-19罹患率が高いときには、呼吸機能検査は緊急性・必要性が高い場合を除き、その実施を最小限とする」と提言しています。
また現在、多くの施設において呼吸機能検査の実施が困難な状況にありますが、それによってCOPDの診断が遅れることは患者さんに不利益がもたらされる可能性が考えられます。そこで、本学会の閉塞性肺疾患学術部会を中心として、呼吸機能検査なしでCOPDを診断する『COVID-19流行期 日常診療におけるCOPDの作業診断と管理手順』を作成し、本版でも掲載しました。
ただし、この作業診断は仮診断ですので、流行が落ち着いた際には呼吸機能検査を行っていただき、COPDの診断が正しいかを確認することが大切なことだと考えています。

COVID-19流行期日常診療における慢性閉塞性肺疾患(COPD)の作業診断と管理手順

今後のCOPD診療への期待

本ガイドラインは、専門医のみならず多くの非専門の先生方にも手に取っていただき、COPDの診療レベルを高めていただくことを目標にしています。
COPDは専門・非専門にかかわらず、多くの医師が日常診療で遭遇する可能性のある疾患です。実際、気流閉塞の有病率は年代が高くなるに従い高くなり、特に男性では70歳以上の4分の1に気流閉塞が認められるという疫学データ10)もあります。
2013年には『健康日本21(第二次)』2)において、本疾患が対策を講じるべき生活習慣病として取り上げられ、まずは認知度の向上が目標とされました。しかしながら、認知度は「2013 年に30.5 %のピークをむかえ、それ以降は25 ~ 28 %で推移」しており、「直近の2020年度調査結果では28.0%と横ばい」」です11)。また、自覚症状の乏しいCOPDの診断を行い、必要な治療を開始するために、医師、特に非専門の先生における関心の向上も重要だと考えられます。
まずは本ガイドラインを一読することで、少しでもCOPDという疾患に目を向けていただきたいと思います。そして、多くのCOPD患者さんが管理目標として掲げている“疾患進行の抑制および健康寿命の延長”を達成し、ハッピーになる、これがわれわれ作成者の今後の期待です。

本版では、「症状が強い、あるいは、身体活動性が損なわれている場合には、初期導入としてのLAMA/LABA配合薬は許容される」とされました4)
このうち、身体活動性の低下したCOPD患者さんに対するLAMA/LABA配合薬の初期導入の根拠となった、スピオルト®のSCOPE試験をご紹介します。

試験概要

SCOPE®試験では、未治療の日本人COPD患者さんを対象に、呼吸機能と身体活動性の観点からスピオルト®の有効性を評価しました。本試験では、スピオルト®またはスピリーバ®のいずれかを1日1回12週間吸入投与しました。

試験概要

FEV1

主要評価項目である12週間後のFEV1のベースラインからの変化量は、スピオルト®群242.8 mL、スピリーバ®群104.1mLであり、スピオルト®群で有意な改善が検証されました。

FEV1

息切れ

また、息切れの指標であるTDIスコアは、12週間後においてスピオルト®群2.4、スピリーバ®群1.5であり、スピオルト®群で有意な改善を示しました。

息切れ

身体活動性

身体活動性のベースラインからの変化量はご覧のとおりです。セデンタリー行動に相当する1.0~1.5METsの1日における変化量は、スピリーバ®群-4.6分に対し、スピオルト®群-38.7分でした。平均歩数の1日における変化量は、スピリーバ®群+37.6歩に対し、スピオルト®群+168.1歩でした。

身体活動性

安全性

有害事象はスピリーバ®群37例中9例(24.3%)、スピオルト®群37例中11例(29.7%)に発現しました。主なものはそれぞれ上気道感染2例(5.4%)、1例(2.7%)、咳嗽2例(5.4%)、4例(10.8%)などでした。治療薬による有害事象は4例(10.8%)、3例(8.1%)に発現しました。
なお、本試験において、重篤な有害事象は両群ともに認められず、投与中止例および死亡例については論文中に記載がありませんでした。

安全性

LAMA/LABA配合薬であるスピオルト®は、未治療の日本人COPD患者さんを対象としたSCOPE®試験により、呼吸機能や息切れにおいてその有効性が示されており、身体活動性も評価しています。
身体活動性が低下しているCOPD患者さんの初回治療に、ぜひスピオルト®をお役立てください。

【引用】

  1. Oelsner EC,et al.Lancet Respir Med. 2020;8(1):34-44.
  2. 厚生労働省:健康日本21(第二次) 国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kenkounippon21.html(2022年4月19日閲覧)
  3. 日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会 編: COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版. 2022, p.14.
  4. 日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会 編: COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版. 2022, p.96-98.
  5. Takahashi K, et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis 2020: 15; 2115-2126.[利益相反]著者にベーリンガーインゲルハイム社より謝金/報酬を受領した者が含まれる。本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われた。
  6. Waschki B et al. Chest. 2011; 140: 331-342.
  7. 日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会 編: COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版. 2022, p.105-106.
  8. 日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会 編: COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版. 2022, p.168-173.
  9. 日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会 編: COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版. 2022, p.264-266.
  10. Osaka D,et al.Intern Med. 2010;49(15):1489-99.
  11. 日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会 編: COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版. 2022, p.261-263.
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