潜在的な患者さんにCOPDを知ってもらい治療を継続してもらうために

サイトへ公開: 2023年10月31日 (火)

COPDの治療において重要なことは、重症にまで進行する前から吸入療法を始めることです。 
しかし、吸入薬は正しく吸入しなければ効果を実感できず「あまり変わらない」と思って治療をやめてしまう患者さんも少なくありません。 
今回は「ホー吸入」を提唱し、効果的な吸入療法の普及に取り組む近藤りえ子先生に、吸入指導の重要性、非専門医や薬剤師の先生方との連携について、お話をうかがいました。 

開催年月日:2023年6月14日 開催地:豊田地域医療センター(愛知県豊田市)

近藤先生

Doctor
近藤 りえ子 先生

近藤内科医院 院長
藤田医科大学医学部 客員教授

「ホー吸入」によってCOPDで苦しむ患者さんを1人でも減らしたい 

潜在的な患者さんに“COPD”をいかにして知ってもらうか 

― COPD診療でふだん意識されていることについてお聞かせください。

“COPD”という病気を知ってもらい、軽症の段階から治療を始めていただく、ということに尽きます。COPDの患者さんの特徴として挙げられるのが、潜在的な患者さんが多いということです。たとえば、喫煙率が他業種と比べて高めである運送会社のドライバーの健康診断を担当した際、軽症から重症まで程度の差はあれ、COPDが疑われる方がとても多いと感じました。しかし、日常生活で息切れすることが少し増えたというだけでCOPDを疑い、受診してくださる方はほとんどいません。「息切れは喫煙や加齢によるものだから仕方ない」と思う方がほとんどでしょう。そうして息苦しさが異常と思って受診されるころには、もう重症のCOPDまで進行してしまっているのです。
COPDであるかどうかは、労作時の息切れを確認するようにしています。喘息と明らかに異なるのは、安静にしていれば治ること、時間や季節による変動がないことです。その上で、長年の喫煙によって黒くなり、壊れてしまっている肺の写真を見せるなど、ご自身の状況を目で見ていただき、アドヒアランスの向上に繋げるようにしています。

― 軽症や中等症の患者さんにCOPDであることに気付いていただく、未治療患者さんの早期発見のためには、どのようなことが必要であるとお考えでしょうか。

なぜ受診を継続していただけないかを考えてみると「治療を始めてみても効果を実感しにくい」というところがあるのではないかと思いますし、実際に「あまり変わらない」と言われることもあります。効果を実感しにくい理由として、吸入薬を正しく吸入できていないことも一因であると思います。正しく吸入していただき、薬を確実に気道に届けることで「息苦しさが改善された」と効果を実感していただくことが大切であると思っています。
また、他の先生方との連携も重要です。基幹病院の呼吸器内科や呼吸器専門の開業医はもちろん、高血圧症や糖尿病といった基礎疾患がある方であればCOPDを併発していることに気付きやすいと考えます。特に、循環器疾患を診られている先生方との連携は重要であると思います。健康診断や人間ドックでの呼吸機能検査の結果が良くなかった方、風邪やインフルエンザから肺炎まで至ってしまった患者さんなどに対して、日常のかかりつけ医の先生方と連携し、疾患啓発をお願いしていくことも必要であると考えています。
患者さんにとってはもちろん、他の先生方にもCOPDがいかに身近な病気であるかということを認識していただくことが大切です。ただし、このような地域のネットワークが構築できているとはいえないのが現状で、高齢者が増加していくことも踏まえ、今後の大きな課題であると思っています。
このほか、有名人を起用したテレビCMなどもありましたが、“COPD”という名称が患者さんにとっても、非専門医の先生方にとっても、難しくとらわれて、身近な病気であるというイメージを持ちにくくしているようにも感じます。私はふだんの診療で「以前は肺気腫と呼ばれていた病気で…」とわかりやすく伝えるようにしています。

効果的な吸入療法の普及に向けた取り組み

― 非専門医や薬剤師の先生方への吸入療法の普及に向けた取り組みについてお聞かせください。

吸入デバイスの操作方法や「ホー吸入」について動画で解説した吸入操作ビデオを20本制作し、日本喘息学会のウェブサイトに掲載しています(図1)。また、地域の勉強会だけでなく、地方での講演も積極的に行うようにし、情報発信に努めています。

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吸入指導を強く意識するようになったのは15年ほど前のことです。患者さんに自分で初回の吸入指導をして、理解してもらったつもりでしたが、再診時に確認すると、数々の誤操作をしており、患者さんに正確に伝わっていなかったことにショックを受けると同時に、患者さんに対して申し訳なく思いました。
誤操作によって気管支に薬剤が到達しないために、効果がないと判断され、より一層強い薬を処方する、ということが起きている可能性にも気付きました。本来はそこまで強い薬でなくとも効果を得られるのに、我々が吸入方法をきちんと伝えられていなかったことで、治療に真摯に向き合ってくださっている患者さんに辛い思いをさせていたかもしれません。
そこで、私は患者さんが正しく理解できるように、全国のどの医療機関に受診しても一定レベル以上の吸入指導が受けられるように、すべての吸入薬の操作方法を収載した吸入操作ビデオを作成しました。全国の医療スタッフさんが効率的な吸入指導ができるよう、特にコロナ禍においては、非接触で吸入指導ができるように、啓発活動を続けています。

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― COPD診療における吸入指導の重要性について、どのようにお考えでしょうか。

COPDの治療において、吸入療法が第一の選択肢であることは周知の事実です。しかし、吸入薬は効果的であるにもかかわらず、我々の吸入指導が不十分なせいで、十分な薬剤が気管支まで届かず、患者さんが効果を実感できていなかった症例もあると思います。内服薬であれば服用することで一定の効果が見られますが、吸入薬は正しく吸入できているか否かで効果が千差万別ですので、吸入指導はとても重要であると思います。
先述したように、私も吸入指導は初回の1回のみでした。しかし、吸入操作の再確認をすると、ほとんどの患者さんは複数の誤操作をしていました。1度の説明だけでは理解できなくて当たり前、繰り返し指導しなければならない、と思うことが大切です。そのため、吸入薬を処方した後の外来受診時には吸入薬を必ず持参していただき、自分の目の前で再確認するようにしています。
1日1回の吸入のタイミングが外来受診時に合わなければ、練習器で確認しています。もし正しく吸入できていなかったらあらためて指導し、カルテにも記載し、次の外来受診時にも再確認しています。もし、複数の誤操作があれば、重要なところを1つだけ指導し、それが次の受診時にできていれば、次の誤操作を指導するようにしています。1度にあれもこれもと言われると、患者さんは混乱してしまいますから。こうして、すべて正しくできるようになるまで続けます。
何度も繰り返し指導していると、私が他の業務に追われて失念してしまっていても「今日はまだ吸入操作を見てくれないね」と患者さんから話してくれることもあります。外来受診時に患者さん自ら吸入薬を取り出してくださると、吸入指導が成功したな、と感じます。
治療に積極的になってくださる患者さんを見て、私も嬉しくなり、「忘れずに吸入薬を持ってきてくれてありがとう。上手に吸入できるようになりましたね」と褒めてあげることによって、患者さんとのコミュニケーションもより良好となります。

― 「ホー吸入」に気付いたエピソードをお聞かせください。

吸入指導には、目で見えない口の中の形状についても注意を払うことが重要です。口の中には舌が中央にあるので、吸入口を咥えてそのまま吸うと多くの薬剤が舌と口腔内に張り付いて止まってしまいます。我々は、舌や口の中に付く薬剤をいかに減らし、効率的に気管内に送り込むか、試行錯誤しました。その結果、五十音で「ホー」と発音したときに、一番舌が下がり、喉の奥が広がることに気が付きました。
ただ、この感覚の説明はとても難しいのではないかと思います。私が舌を下げなければならないことに気が付いたのは、自分自身が軽症の喘息で、発作が起こってしまった際に無我夢中で吸入薬を吸入していたところ、偶然、効果的な吸入ができてしまったからです。当初は自分でもなぜ上手く吸入できたのかわかりませんでしたが、繰り返して試した結果、舌が下がっていたことに気が付きました。しかし、舌を意識的に下げることは簡単ではなく、あくびをすると自然と舌が下がることまでは気付いたものの、これを他の方に上手く説明できず、もどかしさを感じていました。
そのようなときに、あいうえお…と発声してみたところ、「ホー」と発音したときに舌が下がり、喉の奥が開いたことに気付いたのです。さらに、「ホー」の発音は、吸入薬を咥えるように口先が閉まるので最適です。早速、他の先生にも理解していただき、患者さんに試していただいたところ効果があり、我々はこれを「ホー吸入」と命名しました(図2)。

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― 初診時と再診時の吸入指導のポイントを教えてください。

初診時には、患者さんに合った吸入薬を選び、別室で吸入操作ビデオを二通り観ていただきます。その後、診察室に戻ってきてもらい、吸入操作が正確にできているか、確認します。
「ホー吸入」ができているかを簡単に確認するには「息を吸ったときに喉の奥に空気の流れを感じますか?」と聞いてください。患者さんが「感じます」と自覚していれば成功です。再診時には、吸入器もしくは練習器で正しい吸入操作ができているか、確認します。カルテに記載した前回の誤操作が直っているか確認するのです。もちろん、喉の奥に空気の流れを感じるかも必ず確認しています。

― 吸入デバイスを選択する際にはどのようなことを注意されていますか。

喘息患者さんとCOPD患者さんの病態、肺の状況を分けて考えるようにしています。喘息患者さんは、気道の炎症が収まっていれば肺組織は壊れていないので、大きく、深く息を吸うことができます。しかし、COPD患者さんは、喫煙によって肺組織が壊れているので、一気に大きく深く息を吸うことができません。
ソフトミスト吸入器は約1.5秒間かけてゆっくり噴射され、同調もしやすい優れた吸入デバイスです。ご自身のペースでゆっくり吸えるソフトミスト吸入器は、COPD患者さんに最も適していると思っています。

― デバイスを選択する具体的な方法について教えてください。

患者さんの肺の状況にできる限り気を配っていただきたいと思っています。患者さんの背景因子に合ったデバイスを選択することは、とても重要なことです。しかし、非専門医の先生は、患者さんに合った吸入デバイスを何を目安に選択すればよいか、迷われると思います。
そこで、デバイスを選択する際のフローチャートを作成し、日本喘息学会から刊行する予定の『吸入のエキスパートのためのガイドブック』に掲載しました。まず、練習器が鳴るか、試してみてください。どのデバイスにしても、音が鳴らなければ、気道の中に薬剤が入りません。特に、高齢者やCOPD患者さんにおいては、吸入練習器の音が十分に鳴るか否か、必ず確認してください。
また、このガイドブックには、COPDのみ、喘息のみ、両方に適応になっている吸入薬の3種類に色分けがされており、保険適応が一目でわかるようになっています。私もふだん、あまり処方しない吸入薬であれば、用法・用量など一瞬とまどってしまうこともあります。診察室や薬局の机のそばに置いていただければ、活用できると思います。

薬剤師との吸入指導の“タスクシフト” 医師と薬剤師の役割分担

― 薬剤師による吸入指導を評価する“吸入薬指導加算”が2020年度診療報酬改定で新設されました。吸入指導における医師と薬剤師の役割分担についてどのようにお考えでしょうか。

多忙な医師に代わり、吸入薬に長けた薬剤師の先生方が吸入指導を受け持ってくださることは、我々医師にとってありがたいですし、患者さんにとっても薬剤師の先生方のほうが話しやすいというメリットがあります。吸入指導は丁寧な説明が必要ですので、患者さんも1対1で向き合ってもらえることを心強く感じ、さらなる信頼関係の構築にも繋がるはずです。
吸入薬指導加算が新設されたことは、国が吸入指導の重要性に気付き、吸入指導に関わる医療スタッフ全員の取り組みを認めてもらえたような気持ちになりました。現在は院外の薬剤師による吸入指導に対する評価のみとなっていますが、院内の薬剤師の吸入指導にも拡充してほしいと思っています。薬剤師の先生方にとって、吸入指導の重要性にあらためて気付き、さらなるやり甲斐につながっていけばよいと思います。

― 日頃から密な連携が取りやすい薬剤師の先生方以外とは、どのように情報を共有されていますか。

そこが課題の1つでもあります。会う機会がない薬剤師の先生方とスムーズに吸入指導連携をとることは、とても難しいことと思います。当院の近隣の薬剤師の先生方は一生懸命、吸入指導に取り組んでくださっていると感じています。しかし、全国的に一定レベルの吸入指導ができる薬剤師の先生のスキルを教育することも、我々呼吸器内科専門医の使命と考えています。日本喘息学会では、薬剤師の先生方との病薬連携も重要と考え、吸入指導箋(処方医→薬剤師)、吸入指導報告書(薬剤師→処方医)をダウンロードして使えるように『喘息診療実践ガイドライン』(PGAM)に収載しています。私はこの指導箋を使って、薬剤師の先生と連携しています。
薬剤師の先生方から報告書を出すときに、医師に対して意見をフィードバックすることにハードルを感じるとよく耳にします。しかし、我々医師は薬剤師の先生方のおかげで気付いていなかったことを気付かせてもらえることに感謝し、意見を受け入れる姿勢を持つことが大切だと思います。

― 発熱外来でどのように安全に吸入指導を行っていますか。

2020年から新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まり、それまで当たり前のようにできていた対面の吸入指導が感染の危険性によって困難になりました。それでも、患者さんの数は増え、吸入指導を必要とする患者さんは増える一方でした。そこで、私は自分の体験から、薬剤師の先生方が感染を避け、安全に吸入指導ができるように試行錯誤しました。「発熱外来/リモート診察用 吸入操作ビデオ案内書」を作成し、PGAMと『吸入療法エキスパートのためのガイドブック2023』に収載しました。二次元コードのリンク先に吸入方法の動画をアップロードしてありますので「待ち時間が長くて申し訳ありません。この動画を観ておいていただけますか」と伝え、吸入指導の前に患者さんに視聴していただいています。
新型コロナウイルス感染症のまん延が続いていますので、薬剤師の先生方の安全を守るために、これらのツールを利用していだければ幸いです。

「ホー吸入」を国内だけでなく全世界に広めていく

― 「ホー吸入」を解説した動画の英語版を制作しているとうかがいました。

日本は皆保険制度も整っていますし、経済的にも恵まれているため、より強い抗体製剤を使用した治療ができていますが、世界的に見ると、日本のような国はごくわずかです。しかし、「ホー吸入」は新たな機器が必要になるわけではありませんし、追加の費用がかかるわけでもありません。吸入方法を見直すだけですので、経済的に恵まれていない国々の人々にも届けていきたいと思っています。
そこで、英語版とスペイン語版を制作しました。スペイン語はポルトガル語圏の人々にも理解してもらえるそうで、より多くの患者さんに届けられると思ったからです。ただ、「ホー」という発音は海外にないので、どのように説明すべきか悩んでいましたが、あくびをするときの口の形と、サンタクロースが「ホッ、ホー」と言っているイメージを追加して工夫しました。YouTubeに公開し、世界中の患者さんが視聴できるようにしてありますので、これから世界に向けて広めていく予定です。
「ホー吸入」を含めた効果的な吸入指導は医師の力だけでは広がりません。全国の薬剤師の先生方と協力し、COPDや喘息の患者さんの苦しみをできるかぎり減らしていきたいと思っています。

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|COPD診療サポート資材のご案内

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|お勧め指導箋のご紹介-「マンガでわかる!COPD治療 スピオルト®レスピマット®の正しい吸入方法」

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スピリーバ®レスピマット®/スピオルト®レスピマット®を服薬されている患者さんに、レスピマット®の吸入準備と「ホー吸入」について、マンガで分かりやすく解説しています。患者さんにお渡しいただき、吸入指導や患者さんとのコミュニケーションにお役立てください。

Point

copd_23vol3_Bplus_10.png 使用前準備から「ホー吸入」の効果まで、医師や薬剤師はポイントを患者さんと一緒に確認しながら指導でき、患者さんもマンガによって直感的に吸入療法について理解を深めていただくことができます。

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