ガイドラインを実臨床へ落とし込むコツとは? 第2回
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2022年6月に『COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版』が発刊されました。
本コンテンツでは、第6版作成委員会 副委員長の奈良県立医科大学 室 繁郎 先生に、ガイドライン第6版で取り上げられている内容について、実臨床での実践方法をお伺いします。今回のテーマは「身体活動性の向上・維持を意識したCOPD管理の実践」です。ぜひ、ご覧ください。
【まとめ】
- ガイドライン第6版では身体活動性に関する内容がより豊富になっている
- 診療時には毎回患者さんの状況や生活習慣に合わせて問診を行い、身体活動性を評価する
- 身体活動性の向上・維持を図る上で、薬物療法・非薬物療法はともに欠かせないものである
- 生活習慣の変化を起こすには、現在の生活習慣に気軽にプラスできるような行動をアドバイスする
- 患者さんとのポジティブな会話に加え、疾患進行や身体活動性の低下による将来リスクを伝えることで生活習慣の変化の必要性を認識してもらう
インタビュー:2022年6月9日 オンラインにて実施
Q ガイドライン第6版の第Ⅱ章では、身体活動性の項目に「身体活動性改善のための方策」「セデンタリー行動」が追加され、PROMs-D質問票といった評価方法なども新たに掲載されています1)。このように、身体活動性に関する内容がより豊富になった背景は?
ひとつは、身体活動性の低下がCOPD全死亡の最大の関連因子である2)ことや、良好な身体活動性が疾患の進行予防に関連する3)といった、COPD管理における身体活動性の重要性を示すエビデンスがより蓄積されてきていることです。
加えて、COPD患者さんが将来フレイル、ひいては要介護にならないためにも、身体活動性の向上・維持が大切であることを認識していただきたいという意図もあります。実際、2022年4月に日本医学会連合から発表された『フレイル・ロコモ克服のための医学会宣言』においては、フレイルのリスク因子としてCOPDおよび身体活動性の低下が挙げられています4)。
さらに、近年、日本ではフレイルの評価に利用できるPROMs-D質問票5)や、患者さん個々の歩数の標準値・目標値の自動計算アプリ6)といった簡便で実臨床に取り入れやすい方法が開発されました。これらの情報をガイドラインに掲載することで、COPD診療の窓口となるかかりつけ医の先生方にぜひご活用いただきたいという思いもあります。
Q COPD患者さんの身体活動性を評価する際の問診のポイントは?
診療時には毎回、それぞれの患者さんの状況や生活習慣に合わせて問診を行い、身体活動性を評価しています。
身体活動性の指標として利用しやすいものに歩数があります。最近は比較的ご高齢のCOPD患者さんでもスマートフォンをお持ちですので、そういったデバイスの歩数計測機能などを活用していただき、「この1週間でどれぐらい歩きましたか?」と問診時にコミュニケーションを取ることは、身体活動性を評価するうえで有用だと考えています。
一方、デバイスをまったくお持ちでない患者さんには、たとえば「昨日は外出しましたか?」「では、先週どうでしたか?」と、患者さんが答えやすい具体的な質問をするようにしています。
患者さんによってデバイスの有無や、就業している・していないといった社会的な状況も異なりますので、個人に合わせた問診を行い、得られる情報から身体活動性を評価しています。
Q 身体活動性の向上・維持における薬物療法・非薬物療法それぞれの意義は?
身体活動性の向上・維持を図るうえで、薬物療法・非薬物療法はどちらも欠かせないものであると考えています。
COPDでは労作時の息切れによって身体非活動性に陥りやすいため7)、適切な吸入療法および吸入指導によって呼吸機能を向上させ、息切れを改善させることが必要であると考えています。
加えて、身体活動性の向上にはCOPD患者さんの生活習慣の変化、いわゆる行動変容が必要であり8)、その行動変容を起こすための介入手段として、非薬物療法である呼吸リハビリテーションがあります。呼吸リハビリテーションの環境は地域・施設によって異なりますが、地域内で情報共有を行い、積極的に呼吸リハビリテーションのリソースを使っていただきたいと思います。
Q COPD患者さんの身体活動性の向上・維持に必要な、生活習慣の変化(行動変容)を起こすためのコミュニケーション方法は?
患者さんの現在の生活習慣の中から工夫できることを見つけ、アドバイスすることを心掛けています。もちろん、新たな運動習慣などを身に付けられることが一番ですが、診療しているCOPD患者さんは比較的ご高齢の方が多いため、まったく新しい習慣を身に付けることはなかなか難しいことだと最近は思っています。
たとえば、小さなことですが、日常的に犬の散歩をしている患者さんには、「犬の散歩へ行くときは、いつものルートで家に戻るのではなく、家の周りをもう1周してから帰ってくださいね」と話しています。
このように、現在の生活習慣に気軽にプラスできることを提案し、その小さな変化を積み重ねていくことで、身体活動性の向上・維持を目指しています。
また、別の視点として、基本的に診療時は患者さんを褒めるなど、ポジティブな会話を心掛けています。一方、COPDや身体活動性の低下を放置すると将来フレイルや要介護になる可能性があることも事実です4)。将来のリスクをきちんとお伝えして、それを回避するためにも生活習慣の変化が必要であることを認識してもらうことも重要であると考えています。
【引用】
- 日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会 編: COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版. 2022, p.79-80.
- Waschki B, et al. Chest2011; 140(2): 331-342.
- Garcia-Aymerich J, et al. Am J Respir Crit Care Med 2007; 175(5): 458-63.
- 日本医学会連合 領域横断的なフレイル・ロコモ対策の推進に向けたワーキンググループ: 「フレイル・ロコモ克服のための医学会宣⾔」解説. 2022,https://www.jmsf.or.jp/activity/page_792.html(2022年6月閲覧)
- Oishi K, et al. J Clin Med 2020; 9(11): 3580.
- 独立行政法人 国立病院機構 和歌山病院 : COPD身体活動性向上プロジェクト https://copd-move.jp/(2022年6月閲覧)
- Troosters T, et al. Respir Res 2013; 14(1): 115.
- Watz H, et al. Eur Respir J 2014; 44(6): 1521-37.