COPD Short Lecture Webinar記録集

サイトへ公開: 2022年12月22日 (木)

2022年6月に『COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版』が発刊されました。本コンテンツでは、第6版作成委員会 委員長の柴田 陽光 先生(福島県立医科大学)、副委員長の室 繁郎先生(奈良県立医科大学)に、ガイドライン第6版で取り上げられている内容についてご講演いただいたWebinar『COPD Short Lecture』の内容をお届けします。ぜひ、ご覧ください。

【まとめ】

  • ガイドライン第6版においては、クリニカルクエスチョン(CQ)を作成し、システマティックレビュー(SR)によるエビデンスの評価を行った
  • COPDの併存症に貧血を追加
  • 「安定期COPD管理のアルゴリズム」は、喘息病態合併例と非合併例とで薬物療法が分けて示され、実臨床で活用しやすく改訂された
  • 症状が強い場合、初期導入としてのLAMA/LABA配合薬は許容される
  • 本ガイドラインのCQに対するSRにおいて、LAMA+LABAはLABAあるいはLAMAと比較して入院や増悪を含む5項目の有意な改善が認められた

2022年6月に『COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版』が発刊されました。
本コンテンツでは、第6版作成委員会 委員長の柴田 陽光 先生(福島県立医科大学)、副委員長の室 繁郎先生(奈良県立医科大学)に、ガイドライン第6版で取り上げられている内容についてご講演いただいたWebinar「COPD Short Lecture」の内容をお届けします。

Part 1
COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン2022-第6版-Overview

【座長】

川山先生

川山 智隆 先生(久留米大学病院 呼吸器病センター 教授)

柴田先生

柴田 陽光 先生(福島県立医科大学医学部 呼吸器内科学講座 主任教授)

日時:2022年5月24日(火) 18:30~18:50
会場:グランパークホテルエクセル福島恵比寿(Web講演会)

■COPDの併存症に貧血を追加
『COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版』1)が2022年6月に刊行されました。第5版では複数の専門家の意見が集約されてはいるもののSRは行われていなかったのが、第6版ではCQを作成してSRによるエビデンスの評価を行い、Minds診療ガイドラインに準拠するよう作業を行いました。
 主な改訂点を順に紹介します。まず第Ⅰ章『疾患概念と基礎知識』では、危険因子の項で、「禁煙はCOPDの進行を抑制し、過去喫煙者では現喫煙者よりもFEV1の経年低下速度は減じて、30年以上の禁煙では非喫煙者との差はわずかとなる2」の一文を追加して早期の完全禁煙の重要性を強調しました。
 また、全身の併存症の項では、新たに貧血を追加しました。栄養障害とともに近年、併存症としての貧血が注目されています。併存率は7.5~34%と報告されています3)4)。本邦でも23.8%とする報告があります5)。実験モデルでも、鉄欠乏状態だと喫煙肺障害が悪化することが示されており6)、血清鉄が十分にあると呼吸機能障害の悪化が少なかったとする観察研究もあります7)。基本的にCOPDの貧血は全身性炎症に基づいて起こるものではないかと考えています。鉄欠乏はCOPD患者の17.7%に認められると報告されており8)、そのうちのかなりの部分が鉄欠乏性貧血にあたります。貧血はCOPDの臨床的病態にも影響を与え、貧血があると運動耐容能が低下し、HRQOLが悪化します9)。COPDに貧血が合併すると増悪頻度が上昇し10)、生存率が低下することも示されています11)
 次に、肺の合併症の項では、本邦のコホート研究から、COPD患者における肺がんの発症率は1.85~2.3%/年と報告されていることを追記しました12)13)
 第Ⅱ章『診断』では、診断基準や病期分類に変更はありませんが、冒頭に、診断に至る契機を具体的に記述しました。安定期におけるCOPDの診断契機は、長期の喫煙歴と症状(労作時呼吸困難、湿性咳嗽)がある中高年者、または健康診断において胸部CTで気腫性病変や呼吸機能検査で閉塞性換気障害の指摘を受けた人が対象となります。もう1つは気道感染や増悪時におけるCOPD診断で、“風邪が治りにくい”“風邪の症状が強い”などといった増悪期の症状や、気道感染後の症状で医療機関を受診し、診断契機になることがあることを明記しました。

■実臨床で活用しやすくなったアルゴリズム
第Ⅲ章『治療と管理』は、SRの結果を踏まえて、現在のCOPD実臨床に寄与するように大きな変更を加えました。
 まず管理目標は、「将来リスクの低減」に新たに「②疾患進行の抑制および健康寿命の延長」を加えました(表11)。第5版の管理目標にあった「全身併存症および肺合併症の予防・診断・治療」は現状の改善にも将来リスクの低減にも影響するため、欄外に注意書きとして記載いたしました。

実臨床で活用しやすくなったアルゴリズム

安定期COPDの重症度に応じた管理の図は、第5版を踏襲しつつも変更を加えています(図1)1)。主な変更点はICSの位置づけです。第5版では、「喘息病態合併の場合」のみとされていましたが、第6版では「頻回の増悪かつ末梢血好酸球増多例」が追加され、喘息を合併していなくてもICSを使用する場合がありうることを示しました。

実臨床で活用しやすくなったアルゴリズム02

安定期COPD管理のアルゴリズムの図は大幅な変更となりました(図2)1)。第6版のポイントは、喘息病態非合併例と喘息病態合併例を分けて示したことで、喘息病態合併例では初めからICSを使用するようになっており、喘息病態非合併例ではLAMAやLABAを中心とした治療をするよう示されています。喘息病態非合併例でも、頻回の増悪かつ末梢血好酸球増多があれば、LAMA+LABA+ICSに進むことができますが、肺炎や重篤な副作用出現、あるいはICS無効であれば、LAMA+LABAに戻るよう矢印が示されています。

実臨床で活用しやすくなったアルゴリズム

■症状が強い場合、初期導入としてのLAMA/LABA配合薬は許容される
第Ⅳ章の『Clinical Question』では、安定期の薬物療法9題と安定期の非薬物療法6題のCQについてSRを実施しました。本日はCQ4「呼吸困難や運動耐容能低下を呈する安定期COPDに対して、LAMA+LABAとLABAあるいはLAMAのいずれを推奨するか?」のみ紹介いたします。
これは「息切れを訴えるCOPD患者にLAMA/LABAデュアル治療は単剤治療よりも有効かつ安全か?」というCQでATSが2020年にSRを行っており14)、第6版ではそれを採用しています。
結果ですが、適用されたアウトカム指標のうち、呼吸困難、入院、増悪、HRQOLの改善、FEV1の5項目はLAMA+LABAが優位で、重篤な有害事象、肺炎の頻度、全死亡率の3項目についてはLAMA+LABAと単剤で差が認められませんでした。したがって、SRのまとめとしては「LAMA+LABAが有意に不利になる項目が存在せず、アウトカムのなかで、呼吸困難の改善、入院および増悪の減少、HRQOLの改善が認められ、エビデンスの確実性はAとする」との記載になりました。
また、今回推奨決定のためにSR委員による投票を行いましたが、初回投票において60 %が「行うことを強く推奨する」に、40 %が「行うことを弱く推奨する」に投票しました。初回投票における同意が2/3 に達さなかったため、2 度目の投票を行い、44 %が「行うことを強く推奨する」に、54 %が「行うことを弱く推奨する」に、2 %が「単剤療法を弱く推奨する」に投票しました。
最終的にCQ4の推奨は「呼吸困難や運動耐容能低下を呈する安定期COPDに対して、LABAあるいはLAMAよりもLAMA+LABAを弱く推奨する(提案する)」となり、これを受けて第Ⅲ章の『C.安定期の管理』の項に「症状が強い(mMRC呼吸困難スケール2グレード以上またはCAT20点以上)、あるいは身体活動性が損なわれている場合には、初期導入としてのLAMA/LABA配合薬は許容される」と記載されました。私も症状が強い場合はLAMA/LABA配合薬を最初から処方してよいと考えています。

References

  1. 日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会(編). COPD診断と治療のためのガイドライン 第6版. 東京:メディカルレビュー社;2022.
  2. Oelsner EC, et al. Lancet Respir Med. 2020;8:34-44.
    [著者にベーリンガーインゲルハイム株式会社より謝礼等の支払いを受けている者が含まれる]
  3. Yohannes AM, et al. Respir Care. 2011;56:644-52. 
  4. Silverberg DS, et al. BMC Pulm Med. 2014;14:24.
  5. Chubachi S, et al. Respir Med. 2016;117:272-9.
  6. Sato K, et al. Am J Respir Cell Mol Biol. 2020;62:588-97. 
    [著者に日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社より謝礼等の支払いを受けている者が含まれる]
  7. Shibata Y, et al. PLoS One. 2013;8:e74020.
  8. Nickol AH, et al. BMJ Open. 2015;5:e007911.
  9. Ferrari M, et al. BMC Pulm Med. 2015;15:58.
  10. Xiong W, et al. BMC Pulm Med. 2018;18:143.
  11. Park SC, et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2018;13:1599-605.
  12. Machida H, et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2021;16:739-49.
    [著者に日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社より謝礼等の支払いを受けている者が含まれる]
  13. Chubachi S, et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2017;12:1613-24.
  14. Mammen MJ, et al. Ann Am Thorac Soc. 2020;17:1133-43.

略語
CQ:クリニカルクエスチョン(clinical question)、SR:システマティックレビュー(systematic review)、FEV1:1秒量(forced expiratory volume in one second)、HRQOL:健康関連QOL(health-related quality of life)、ICS:吸入ステロイド薬(inhaled corticosteroid)、LAMA:長時間作用性抗コリン薬(long-acting muscarinic antagonist)、LABA:長時間作用性β2刺激薬(long-acting β2 agonist)、ATS:米国胸部学会(American Thoracic Society)、mMRC:modified British Medical Research Council、CAT:COPDアセスメントテスト(COPD assessment test)

Part 2
最新ガイドラインークリニカルクエスチョンのポイント

【座長】

川山先生

川山 智隆 先生(久留米大学病院 呼吸器病センター 教授)

【演者】

室先生

室 繁郎 先生(奈良県立医科大学 呼吸器内科学講座 教授)

日時:2022年8月24日(水) 18:30~18:50
会場:奈良県立医科大学(Web講演会)

『COPD (慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン』は、第5版1)まで、COPDの治療の中心は気管支拡張薬であることを提唱してきました。実際に、LAMA/ LABA配合薬が病態生理や臨床的指標を改善するという豊富なデータが知られています2)-5)。その後、LAMA/LABA/ ICS配合薬が使用可能になりましたので、第6版6)ではその位置づけを明らかにしました。
 今回の第6版の大きな特徴は、Mindsのガイドラインに準拠してエビデンスに基づいたガイドラインを作成したことです。具体的には、CQを設定し、SRを行ってメタ解析をし、エビデンスに基づいたデータを提示して、COIのある委員を除くSR委員による推奨決定のための投票を行いました。それぞれのCQに対する推奨は、このようなステップを踏んだうえで記載されております。
 第6版においては、安定期の薬物療法9題と安定期の非薬物療法6題の合計15題のCQが掲載されています。本日はそのなかでも、実臨床で最も考える機会が多いと思われる2題について解説いたします。

■LAMA+LABAは入院や増悪を含む5項目を有意に改善
CQ4は「呼吸困難や運動耐容能低下を呈する安定期COPDに対して、LAMA+LABAとLABAあるいはLAMAのいずれを推奨するか?」です。これに対する推奨は「呼吸困難や運動耐容能低下を呈する安定期COPDに対して、LABAあるいはLAMAよりもLAMA+LABAを弱く推奨する(提案する)」に決定しました。アウトカム全般に関する全体的なエビデンスの確実性は「A 強い」です。
 具体的にみていきますと、このCQに関しては2020年にATSで質の高いSRを報告7)していたので、それを採用する形をとっています。Critical outcomesは呼吸困難、入院、増悪、HRQOLの改善、重篤な有害事象の5項目、important outcomesは肺炎の頻度、全死亡率、FEV1の3項目を設定しています。
 まず呼吸困難ですが、単剤群と比較してLAMA+LABA群で改善が認められました。エビデンスの確実性はBです。
 入院については、LAMA+LABA群優位で、RRが0.89(95%CI 0.82-0.97)ですので、単剤と比較して有意差をもって入院を11%減少させていました。エビデンスの確実性はAです。
 増悪についても、LAMA+LABA群優位で、RRは0.80(95%CI 0.69-0.92)であり、単剤と比較して有意差をもって増悪を20%減少させていることがわかりました。エビデンスの確実性はBです。
 すべての結果をまとめたのが表1になります。これを受けてSRのまとめでは「LAMA+LABAが有意に不利になる項目が存在せず、アウトカムのなかで、呼吸困難の改善、入院および増悪の減少、HRQOLの改善が認められ、エビデンスの確実性はAとする」と記載されました。

LAMA+LABAは入院や増悪を含む5項目を有意に改善

■LAMA/LABA/ICS配合薬を使用する患者は慎重な見極めが必要
CQ6は「LAMA+LABAでコントロール不良のCOPDに対して、LAMA+LABAにICSの追加を推奨するか?」です。これに対する推奨は「増悪を繰り返す患者に対して、LAMA+LABAにICSの追加を行うことを弱く推奨する(提案する)」に決定しました。エビデンスの確実性は「A 強い」です。
 アウトカムとして、増悪、SGRQスコア、TDIスコア、トラフFEV1、全有害事象、重篤な有害事象、死亡の頻度などの9項目を評価しています(表2)。このCQについては東北大学のグループがSRを実施し、結果は『Respiratory Research』に掲載されています8)

LAMA/LABA/ICS配合薬を使用する患者は慎重な見極めが必要

まず増悪については、LAMA+LABA+ICS優位で、RRが0.73(95%CI 0.64-0.83)ですので、LAMA+LABAと比較して有意差をもって増悪を27%抑制していることがわかりました。エビデンスの確実性はAです。SGRQについてもLAMA+LABA+ICS優位で、-1.71ポイントで有意に改善しました。TDIスコアもLAMA+LABA+ICS優位で、0.33ポイントで有意に改善しています。トラフFEV1もLAMA+LABA+ICS優位で、0.04Lで有意に改善しました。
 しかし、SRのまとめをみますと、「今回の解析対象の多くは前年に増悪歴を有し、CAT≧10の症状を有することから、この効果は増悪歴および症状を有する症例を対象とした結果と考えるべきである」と記載されており、LABA+LAMA+ICSの有効性は、すべてのCOPD患者ではなく、増悪歴があり症状の強い患者のみを対象とした結果であることに注意を喚起しています。
 SR委員による投票において、ICSの追加を推奨することは全員一致し、92%が「行うことを弱く推奨する(提案する)」を支持しました。「強く推奨する」ではなかった背景として、本邦ではICS追加の主な対象となるGOLD group Dに属するCOPD患者の割合が全体の10%程度と低いこと9)、ICS未使用群での検討はいまだ十分になされていないことが記載されています。
 最後に、日本人集団でLAMA+LABA+ICS vs. LAMA+LABAのSRを行った結果が発表されているので紹介します10)。有効性については、増悪を抑制し、トラフFEV1を改善するのは全体集団と同じ結果でした。
 したがいまして、LAMA+LABA+ICSについては、個々の患者の増悪歴や症状をよく見極めて、ベネフィットがリスクを上回る場合に使用するというのがガイドラインのメッセージだと考えています。

References

  1. 日本呼吸器学会COPDガイドライン第5版作成委員会(編). COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン 第5版. 東京:メディカルレビュー社;2018.
  2. Beeh KM, et al. Pulm Pharmacol Ther. 2015;32:53-9. 
    [本研究はベーリンガーインゲルハイム株式会社からの資金提供のもとに行われた] 
  3. O'Donnell DE, et al. Eur Respir J. 2017;49:1601348.
  4. Troosters T, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2018;198:1021-32. 
    [本研究はベーリンガーインゲルハイム株式会社からの資金提供のもとに行われた] 
  5. Ichinose M, et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2018;13:1407-19.
    [著者に日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社の社員、および、日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社より謝礼等の支払いを受けている者が含まれる] 
  6. 日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会(編). COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン 第6版. 東京:メディカルレビュー社;2022. 
  7. Mammen MJ, et al. Ann Am Thorac Soc. 2020;17:1133-43.
  8. Koarai A, et al. Respir Res. 2021;22:183.
    [著者に日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社より謝礼等の支払いを受けている者が含まれる]
  9. Oishi K, et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2018;13:3901-07.
  10. Koarai A, et al. Respir Investig. 2022;60:90-8.

略語
LAMA:長時間作用性抗コリン薬(long-acting muscarinic antagonist)、LABA:長時間作用性β2刺激薬(long-acting β2 agonist)、ICS:吸入ステロイド薬(inhaled corticosteroid)、CQ:クリニカルクエスチョン(clinical question)、SR:システマティックレビュー(systematic review)、ATS:米国胸部学会(American Thoracic Society)、HRQOL:健康関連QOL(health-related quality of life)、FEV1:1秒量(forced expiratory volume in one second)、RR:リスク比(risk ratio)、SGRQ:St. Georgeʼs Respiratory Questionnaire、TDI:transition dyspnea index、OR:オッズ比(odds ratio)、CAT:COPDアセスメントテスト(COPD assessment test)、GOLD:Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease、RCT:ランダム化比較試験(randomized controlled trial) 

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