山形高畠研究からみえる日本人COPD診療の課題と今後 Vol.2

サイトへ公開: 2023年11月29日 (水)

フロンティアインタビュー 最前線から伝える質の高いCOPD治療実現のためのTips Case07 山形高畠研究 第2回

山形高畠研究からみえる日本人COPD診療の課題と今後 Vol.2

このコンテンツでは、日頃、多くのCOPD患者さんを診られる専門医の先生に、限られた診療時間の中でより質の高いCOPD治療を実現するためのTipsを伺います。前回から2回にわたり、地域特性を生かした疫学研究 山形高畠研究を含む山形大学の取り組みをご紹介します。今回のテーマは「山形大学医学部附属病院の取り組み ―地域のかかりつけ医および薬剤師との連携―」です。ぜひご覧ください。

【まとめ】 
・大学病院でCOPD患者の定期的な検査を実施し、地域のかかりつけ医との継続的な連携を図っている 
・「吸入療法アカデミー やまがた」での講習会を通し、地域の薬剤師に正しい吸入指導を普及させている 
・薬剤師への吸入指導のタスクシフトにより、医師・薬剤師の双方向のやり取りが生まれる 
・スピオルト®は、日本人COPD患者の呼吸機能について検討されている

前回は、井上先生よりCOPDにはクリニカルイナーシャ(臨床的惰性)が存在し1、その解消にはかかりつけ医による早期の診断・治療介入、そして薬剤師との連携による吸入指導が重要であるとお話しいただきました。 
今回は、山形大学医学部附属病院の取り組みとして、限られた診療時間の中でより質の高いCOPD治療を実現するための、「地域のかかりつけ医との連携」および「吸入指導における薬剤師との連携」をどのように実践されているかについて伺いました。

インタビュー:2023年6月20日(火)山形大学で実施

お話を伺った先生

山形大学医学部付附属病院 第一内科 病院教授 井上 純人先生

地域のかかりつけ医との連携

まず、山形大学医学部附属病院における地域のかかりつけ医との連携について伺いました。

大学病院で定期的な検査を実施し、地域のかかりつけ医との継続的な連携を図る

COPDは、多くのかかりつけ医の先生方が診療することになる疾患です。一方で、スパイロメトリー検査や、治療方針の決定・変更、併存疾患の管理など、非専門の先生方にとって、診療のハードルとなり得る要素は複数あります。 
当院では、診療するCOPD患者さんを登録し、定期的な検査を実施しています。検査によって肺癌などのほかの疾患が見つかることもあり、肺合併症および全身併存症の早期発見・管理を可能にしています。 
この仕組みの中で、遠方の患者さんの場合は、定期的な検査のみ当院で実施し、普段の治療はかかりつけ医にお願いするという形で診療連携を行っています。 
基本的には紹介状でやり取りし、われわれからは、かかりつけ医の先生に向けて、検査結果のフィードバック、治療方針の提案、そして次回の検査内容等をお伝えしています。 
このような継続的な連携体制を構築することで、かかりつけ医のCOPD診療に対する懸念の解消につながると考えています。

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続いて、井上先生が代表幹事を務められている「吸入療法アカデミー やまがた」の活動を伺いました。

「吸入療法アカデミー やまがた」の活動

山形県内に正しい吸入指導を普及するための「吸入療法アカデミー やまがた」の活動

COPD治療の中心は、吸入療法です。吸入薬は正しい吸入指導が行われないと、期待される効果が得られません。 
正しい吸入指導を山形県内に普及させるため、約10年前に「吸入療法アカデミー やまがた」が設立されました。 
実際の取り組みとしては、薬剤師さんを中心に吸入指導に関する講習会を定期的に開催しています。現在は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、主にオンラインでの開催となっています。 
講習会を通して地域の薬剤師さんに正しい吸入指導を習得していただくことで、実臨床下において、医師から薬剤師さんに吸入指導のタスクシフトを行うことが可能になります。

続いて、山形大学医学部附属病院における吸入指導のタスクシフトの取り組みについて伺いました。

吸入指導のタスクシフトの取り組み

タスクシフトにより、医師・薬剤師の双方向のやり取りが生まれ、個々の患者に適切な吸入薬を提供できる

当院では、吸入指導の薬剤師さんへのタスクシフトを推進しています。 
タスクシフトのメリットは、医師と薬剤師の双方向のやり取りが生まれることです。医師が吸入指導を依頼すると、薬剤師さんから吸入指導の結果が返ってきます。医師はその内容を確認し、処方変更の要否などを判断します。このように、薬剤師さんからのフィードバックを受けることで、吸入薬を出しっぱなしにせずに、個々の患者さんに合わせた適切な治療を提供することができます。これは、患者さんにとって非常に有益だと考えています。 
加えて、吸入指導の際に、医師には話せなかった患者さんの治療に対する不安や心配事を、薬剤師さんに聞き取っていただけることがあります。これは、薬剤師さんが患者さんにとってより身近な存在であるためと考えられます。吸入指導に関する情報に加え、医師が把握しづらい患者さんの心理的な不安に気付けることは、タスクシフトを行うからこそのメリットであると思います。

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最後に、地域の薬剤師さんへの吸入指導の教育に携わっておられる井上先生に、スピオルト®において評価されている点を伺いました。

スピオルト®は通常の呼吸で吸入できる吸入薬である

私は、スピオルト®が自身の呼吸で吸入できる吸入薬であることを評価しています。 
スピオルト®のデバイスのレスピマット®はソフトミスト定量吸入器(SMI)であり、細かいミストが、ゆっくり、長く噴霧されます2,3)。そのため、自身の呼吸でゆっくり吸入できます。呼吸機能が低下した高齢や重症のCOPD患者さんは、吸入薬を強く吸入したり、素早く吸入したりすることが難しい場合も多くあります。レスピマット®はこのような患者さんにも使用しやすいことが特徴です。

スピオルト®データ

日本人COPD患者さんにおける呼吸機能について検討されているスピオルト®

スピオルト®は、日本人COPD患者さんを対象に、呼吸機能などを検討したVESUTO試験が行われています。 
対象は、40歳以上で、GOLD病期分類Ⅱ~Ⅳの中等症以上のCOPD患者さん184例でした。 
スピオルト®またはスピリーバ®のいずれかを、1日1回、6週間にわたって吸入投与しました。

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主要評価項目である6週間後における治験薬投与60分後の最大吸気量は、スピオルト®群1.990L、スピリーバ®群1.875Lであり、スピオルト®群はスピリーバ®群に対し有意な最大吸気量の増加が検証されました。

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こちらは副次評価項目である、その他の呼吸機能の結果です。 
6週間後における治験薬投与30分後のFVCは、群間差163mL、投与30分後のFEV1は群間差105mLと、スピオルト®群はスピリーバ®群に対し有意なFVCおよびFEV1の改善を示しました。

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有害事象は、スピオルト®群180例のうち68例(37.8%)、スピリーバ®群182例のうち63例(34.6%)に認められました。そのうち、副作用(医師の判定による)は、それぞれ6例(3.3%)及び8例(4.4%)でした。 
主な有害事象は、スピオルト®群、スピリーバ®群でウイルス性上気道感染がそれぞれ18例(10.0%)及び11例(6.0%)、COPDが9例(5.0%)及び9例(4.9%)、気管支炎が3例(1.7%)及び3例(1.6%)などでした。 
重篤な副作用の報告はありませんでした。 
投与中止に至った有害事象は、スピオルト®群1例(0.6%)、スピリーバ®群3例(1.6%)でした。なお、投与中止例の詳細および死亡例については、論文等に記載がありませんでした。

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質の高いCOPD治療の実現を目指し、日本人COPD患者さんにおいて呼吸機能の改善効果が示されているスピオルト®をぜひご活用ください。

【引用】

  1. Cooke CE,et al.COPD. 2012;9(1):73-80.
  2. Hochrainer D, et al. J Aerosol Med 2005;18(3): 273-282.本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われました。
  3. Tamura G. Allergol Int 2015; 64(4): 390-392.本研究はベーリンガーインゲルハイム社より資金援助がありました。
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