地域に根差し患者さんの生活に寄り添う薬剤師の取り組み

サイトへ公開: 2022年02月28日 (月)

薬剤師の在り方が見直されている中、かかりつけ薬剤師として、処方箋調剤にとどまらず、健康相談などの取り組みにも期待が高まっています。
かかりつけ薬剤師の役割を考える今回は、薬剤師会理事と薬局薬剤師にその取り組みを、基幹病院の医師と病院薬剤師にCOPD治療や地域連携のコツなどを解説いただきました。

開催年月日:2021年12月10日  開催地:イイジマ薬局(長野県上田市)/上田 東急REIホテル(長野県上田市)

飯島 裕也 先生

Pharmacist
飯島 裕也 先生

上田薬剤師会 薬局・学術・研修部担当理事
イイジマ薬局 代表取締役社長
モットーは薬剤や疾患だけでなく患者さんの人生を見る

― 最初に、上田地域における医療の現状や課題、それを受けての薬局・薬剤師の役割について教えてください。
上田地域も日本の他の地域と同様に、人口減少と高齢化が進んでおり、在宅医療や在宅介護の重要性が増しています。そのような中、薬局・薬剤師は、日頃の調剤業務に加えて、在宅訪問などの場で、訪問看護師や介護職などの他職種、行政と連携しながら、課題の解決にあたっていくことが求められています。これまでも保健所やケアマネジャーなどとの連携を模索してきましたが、今後はより一層、他職種連携を進めていきたいと思います()。

― 次に、上田薬剤師会におけるこれまでの取り組みについてご紹介ください。
上田薬剤師会ではこれまで、調剤だけでなく患者さんや地元の人が気軽に薬や体調のことを相談できる場所としての薬局を目指してきました。そのために処方薬だけでなく、一般用医薬品から包帯や絆創膏といった衛生材料も取りそろえ、健康全般にわたる相談や悩みごとに丁寧に答えてきました。
また、地域での薬剤師の“見える化”にも取り組んできました。薬剤師が小学校や中学校、高校に出向いて、子どもたちにたばこやアルコールの害を伝え、乱用の防止を呼び掛けるなど、身近な薬物に関する学校薬剤師の取り組みを35年前から実施しています。さらに、上田市では認定こども園に薬剤師を配置しており、最近では新型コロナウイルス感染症対策として、市民に消毒の方法をレクチャーしたり、新型コロナワクチン接種の相談や予約代行を会員薬局で行うなどの活動もしています。

― 上田地域では薬局・薬剤師が市民の間に根付いているということですね。
その通りです。上田地域では、患者さんや地元の人にとって、薬局は医療のファーストアクセスの場となっています。風邪や怪我のときに、まず薬局に相談に来る方が多いのです。症状によっては受診勧奨をすることもあり、医療施設との橋渡しの役割も果たしています。このような環境から、上田地域ではかかりつけ薬局・薬剤師の考え方が定着してきました()。日常的な健康相談にも薬局を気軽に訪れるなど、上田市の住民は生活の中で我々調剤薬局を上手に“使っている”と言えます。

― 上田薬剤師会では他にどのような取り組みをされていますか。
学術部では毎月1回、調剤事例研究会を実施しています。また、医師や他職種による研修会、テーマによっては県外から講師を招いての講演会も開催しています。さらに、上田薬剤師会は、認定薬剤師を認定できる研修機関に指定されており、薬剤師生涯研修認定制度を通じて、薬剤師のスキルアップにも取り組んでいます()。
薬剤師は薬剤に関するプロフェッショナルですから、患者さんの疾患に対する薬物治療の適正化が最も重要な役割です。しかし、地域住民の期待に応えるためにはそれ以外にも、疾患の予防や服用後のフォローアップなども重要で、そのためのスキルアップは欠かせません。

― 上田薬剤師会としてCOPDの吸入指導にはどのように取り組んでいますか。
上田薬剤師会では2年前から、信州上田医療センターの呼吸器専門の薬剤師と共同でワーキンググループを立ち上げました。同センターからのオーダーを受けて実施した吸入指導の内容や、患者さんにヒアリングした情報を同センターにフィードバックしています。また、吸入デバイスごとにトレーシングレポートも作成し、情報を共有しています。
このほか、COPDについては潜在的な患者さんの早期発見と早期治療が重要だと考えていて、会員薬局でのスクリーニング検査の実証事業なども視野に入れています。

上田薬剤師会としてCOPDの吸入指導にはどのように取り組んでいますか。

― 最後に、今後、かかりつけ薬局・薬剤師に求められるものは何かお聞かせください。
薬剤師はこれまで、主に患者さんの疾患とそれに対する薬剤の調剤を中心に行ってきましたが、これからはかかりつけ薬局・薬剤師として患者さんの生活や人生も見ることが重要だと考えています。例えば、COPDでは、患者さんの症状や喫煙歴だけでなく、職場の環境や家族の喫煙歴など、患者さんの生活や背景まで見る必要があります。また、診断がついて現在治療中の患者さんだけでなく、潜在的な患者さんを発見し治療につなげ、重症化を予防していくことも薬剤師に求められる大きな役割です。
そのためにも、これからの薬剤師は薬局で薬を受け取りに来る患者さんを待っているだけでなく、地域に積極的に出ていき、他職種と連携していくことが欠かせません。中でも栄養士との連携がこれから重要になってくると考えています。現状では栄養士との連携を行っても調剤報酬などで評価されませんが、実績を積み重ねていくことで、今後、そのような活動が評価される可能性もあります。患者さんの自宅や他職種の現場に足を運び、薬剤師のスキルを地域に役立てながら、患者さんに選ばれる薬局を目指していきたいと思います。

最後に、今後、かかりつけ薬局・薬剤師に求められるものは何かお聞かせください。

飯島 裕也 先生 監修

篠原 絵美 先生

Pharmacist
篠原 絵美 先生

イイジマ薬局 管理薬剤師

患者さんの症状をより良くしたいと思うと自ずと行動につながる

― かかりつけ薬局・薬剤師の役割についてお聞かせいただけますか。
生活スタイルや家庭環境など、できるだけ患者さんから多くの情報を把握した上で処方提案することだと考えています。患者さんのご自宅にうかがってみると、処方された薬剤が正しく服用されていなくて残薬が発生していることが少なくありません。
薬局に来る患者さんはどうしても身構えがちで、話を聞くだけではなかなか詳細な情報を得られないことがあります。しかし、ご自宅であれば来局のときと違い、生活者としての一面を見ることができます。独居なのか、家族と同居していて服薬に協力してもらえるのか、といったところまで見据えて処方提案しています。

― かかりつけ薬剤師として心掛けていることはありますか。
信頼関係を深めていくことを心掛けています。初めて来る患者さんは疾患や薬のこと以外はあまり話そうとはしませんが、信頼関係を深めるために何でも気軽に話してもらえるような環境作りを心掛けています。かかりつけ薬剤師になることで、より患者さんとの信頼関係を深められると同時に、深めていかなければならないという良い意味でのプレッシャーにつながっていて、それがやりがいにもなっています。

― COPDの吸入指導で重要視している点やコツなどを教えてください。
信州上田医療センター薬剤部と協働して作成した吸入指導フローチャートに基づき、吸入デバイスごとに押さえるべきポイントを意識しながら吸入指導をしています。その際、大切なのは患者さんに実際に吸入デバイスを操作してもらうことです。「このようにしてください」と、つい我々が操作してしまいがちですが、まず患者さんに手に取ってもらい、つまずいたところでアドバイスするようにしています。
また、吸入薬に慣れていない患者さんは、吸い込む感覚がよくわからず、うまく吸入できないことがありますし、吸入後のうがいを面倒に感じてしまうこともあります。その場合、歯を磨く前の吸入を勧めています。歯を磨く前に吸入すれば、その後、うがいをすることにつながるためです。

― かかりつけ薬剤師を目指す上でのアドバイスをお聞かせいただけますか。
患者さんの症状をより良くしたいと常に意識することが大切です。患者さんの症状を軽減したいと思えば、患者さんのことをよく知りたいと思うものです。例えば、COPDの患者さんの場合、本人や家族の喫煙歴、どれぐらい咳が続いているのか、医師に相談したか、さらに粉塵を吸い込んでしまうような仕事に従事したことはないか、などを丁寧に聞いていくことで患者さんのことがよくわかります。また、患者さんに対する思いやりを大切にしています。思いやりを持つことで、自然と患者さんのためになるような行動につながるので、その点をいつも忘れないようにしています。

飯島 裕也 先生 × 篠原 絵美 先生

飯島 裕也 先生 × 篠原 絵美 先生

薬剤師は患者さんにとって最も身近な薬や健康の専門家

― 地域の調剤薬局と、信州上田医療センターなどの医療機関との連携についてお聞かせください。
飯島先生:
我々の地域には、上小地域(坂城地区)の医療機関が、診療情報を開示している病院の電子カルテ上の診療情報を、患者さんの同意の上でインターネットを介して閲覧できる「上小メディカルネット」というシステムがあります。薬局では、患者さんの了解を得て診療情報を閲覧できることで、その患者さんが来局した際に、重複した薬の処方を回避できるなどのメリットがあります。
篠原先生:上田地域の薬局と信州上田医療センターは、患者さんの情報共有やがんの薬物療法における副作用管理などで連携しています。薬局側としては、退院時の患者さんの症状や薬の内容を提供してもらうことで、その患者さんが来局した際、スムーズできめ細かい対応ができています。

― 新型コロナウイルス感染症の影響は薬局での業務にも出ていると聞きますが、薬剤師として患者さんにはどのような対応をされてきましたか。
飯島先生:感染リスクから病院やクリニックの受診をためらった患者さんが薬局に来るケースが増加しました。オンライン服薬指導などが可能になりましたが、ほとんどの患者さんは直接話を聞いてもらいたいと来局されています。患者さんの症状を聞き取りながら、どのように医療機関につなぐか、医師にどうフィードバックするか、をコロナ前よりも特に意識し、手厚く患者さんの話を聞くようになりました。
篠原先生:医療機関の受診をためらう患者さんが、薬局で一般用医薬品を買い求めるケースも増えました。そのような場合でも、しばらく様子を見てもらい、症状が改善しないようであれば医療機関を受診するよう伝えていました。

― 最後に、薬剤師としてどのような場面で仕事のやりがいを感じるかお聞かせください。
篠原先生:薬剤師として働き始めたころは「たくさんいる薬剤師の1人」でしたが、だんだんと地域の患者さんに顔と名前を覚えてもらえるようになり、症状以外の日常生活のことも話してもらえる関係になったときはとても嬉しかったです。何かあったら薬局でアドバイスをもらおう、と身近な頼れる存在として信頼してもらえたときに仕事のやりがいを感じます。これからも患者さんの期待に応えられるよう、さらにスキルアップしていきたいと思います。
飯島先生:薬剤師は、患者さんにとって最も身近な薬や健康の専門家だと考えています。薬や健康に関する相談はもちろん、生活に関することではケアワーカーなどの専門家にまでつなぐことができます。薬剤師は、健康相談などをきっかけに、地域住民をあらゆる場面でサポートできる職種で、そのような仕事をしていることにやりがいを感じます。「困ったときはあの薬剤師なら何とかしてくれる」「きちんと生活までサポートしてくれる」と、患者さんや地元の方に頼っていただける、そんな薬剤師を目指しています。

出浦 弦 先生

Doctor
出浦 弦 先生
独立行政法人国立病院機構 信州上田医療センター
感染制御部長 呼吸器内科部長

病診連携や吸入連携で患者さんの吸入アドヒアランス向上に貢献

― 最初に、COPD診療における信州上田医療センターの地域での役割や診療体制についてお聞かせください。
国立病院機構信州上田医療センターは、長野県上田市に位置し、上田地域における唯一の基幹病院として地域医療の中心的な役割を担っています。呼吸器内科には呼吸器の専門医が3名、常勤で在籍し、肺がんや喘息、COPDなどの治療に従事しています。COPDの診療では、急性期や入院が必要な急性増悪の患者さんを中心に治療を行い、慢性期に移行した患者さんを近隣のリハビリテーション施設に紹介して、元の生活に戻れるよう回復に努めてもらっています。

― 次に、同センターでの吸入指導の流れをご説明ください。
COPDの患者さんに対しては、最初に医師が検査や診療、吸入デバイスの選択を行います。吸入デバイスには多くの種類がありますが、選択する際はそれらの吸入デバイスを患者さんに見せて、それぞれの特性を説明しています。その後、当センター薬剤部の鈴木先生をはじめとする院内の薬剤師が、医師が薬剤師に確認してもらいたい点などを記入した吸入指導箋に従って吸入指導を行います。

― 吸入指導における薬剤師との連携のメリットはどのようなものでしょうか。
吸入デバイスは、患者さんの年齢や吸引力、呼吸機能などを総合的に判断して選択していますが、一概にどの機種がどのような患者さんに合うなどと簡単に分類できるものではありません。デバイス操作の可否はケースバイケースですので、薬剤師に念入りな吸入指導を依頼して、患者さんの手技を確認してもらっています。薬剤師からのフィードバックは患者さんの操作スキル向上に役立ちますし、次の患者さんの吸入デバイス選択の参考にもなります。このような薬剤師の介入と丁寧なフォローアップが、COPD治療の重要な鍵となっています。

― 最後に、地域の診療所や調剤薬局などとの今後の連携の構想についてお聞かせください。
2016年に地域のリハビリテーション施設や診療所と病診連携を開始したのですが、そのころからCOPDの治療や吸入指導の重要性が上田地域でも再認識され、連携も活発化してきました。2020年には鈴木先生を中心に、地域の診療所や調剤薬局の薬剤師と吸入連携を立ち上げる準備をしていました。一時、新型コロナウイルス感染症の影響でその立ち上げが止まってしまいましたが、今後は吸入連携を改めて進めていきたいと考えています。
上田地域で今後、COPD診療に積極的な医師や、鈴木先生のような吸入指導に長けた病院薬剤師が増えて、地域での病診連携や吸入連携が活発になっていけば理想的です。在宅診療をする医師や訪問看護師との連携なども視野に入れて、これからも患者さんの吸入アドヒアランス向上に貢献していければと思います。

鈴木 春子 先生

 

Pharmacist
鈴木 春子 先生
独立行政法人国立病院機構 信州上田医療センター
薬剤部

患者さんが退院後、日常を取り戻した姿まで想定したサポートを

― 最初に、COPDにおける院内での薬剤師の役割についてお聞かせください。
病院薬剤師には大きく2つの役割があると考えます。1つ目は、吸入指導における患者さんのデバイス操作のチェックです。実際に患者さんが吸入しているところを見ながら、うまくできていない部分をメンテナンスしていきます。特に高齢者は時間の経過とともに自己流になっていくケースが多いので、繰り返しの説明とフォローアップが求められます。
2つ目は、入院した患者さんが退院して地域に戻る際の橋渡しの役割です。薬の内容から生活状況、薬の管理能力までを地域の調剤薬局の薬剤師に伝え、患者さんがスムーズに元の生活に戻れるようサポートすることを心掛けています。

― 次に、吸入指導する上で重要視している点、工夫やコツをご紹介ください。
重要視している点は、患者さん自身に実際に吸入デバイスを操作してもらうことです。薬剤師がやって見せると患者さんはその場では理解したように見えても、実際に自宅でやろうとしてもできないことが多いのです。我々がやっているところを見せながら、一緒に操作してもらうことが重要です。
また、息苦しさを感じる患者さんは、背中が丸まっていて、気道が狭くなっていることが多いので、肺の奥までしっかり吸えるように、吸入時には上向きで、胸郭を広げる姿勢を意識してもらっています。このようなコツを少しアドバイスするだけでも大きく改善する方が多いので、患者さんには積極的な声掛けをしています。

― 地域の調剤薬局との吸入指導連携の現状やメリットについて教えてください。
上田地域の調剤薬局は在宅訪問に積極的で、吸入指導チェックシートなどを在宅で運用しやすいようにカスタマイズして使用しているケースもあります。患者さんのご家族や訪問看護師らを巻き込んで多くの方にチェックをしてもらい、みんなで共通の認識を持っていただくよう取り組んでいます。同じチェックシートを用いて、ご家族や訪問看護師も指導ができるようにすることで、患者さんも混乱なく理解が深まると思っています。

― 鈴木先生は、吸入指導連携に関する研修会でご講演もされていますが、今後の吸入指導に向けて何を発信されて
いくお考えですか。
吸入デバイスには多くの種類があり、うがいの有無や息止めの時間など操作方法がそれぞれ異なります。そのため、患者さんにはそれぞれの違いをできるだけわかりやすく統一した形で説明できるように工夫していきたいと思います。
また、今後、吸入連携を推進していく中で、吸入指導の成功例や、逆に困った例などを調剤薬局の薬剤師と共有できる場も作っていければよいと考えています。

出浦 弦 先生 × 鈴木 春子 先生

 

出浦 弦 先生 × 鈴木 春子 先生

院内外の薬剤師を巻き込んだ地域包括連携の実現を

― 新型コロナウイルス感染症は吸入指導にどのような影響を与えましたか。
出浦先生:新型コロナウイルス感染症は気道の感染症ですので、コロナ禍における対面での吸入指導は感染リスクが高く、平常時のように行うことはできませんでした。もし患者さんが感染していた場合、指導する薬剤師などにも感染リスクがあります。今後はオンラインでの吸入指導なども組み合わせて行っていく必要があると思います。
鈴木先生:対面での吸入指導は、マスクを外した状態で、患者さんと向かい合って行うため、感染リスクは高いと言えます。モニターなどを通して画面越しに指導できたらよいのですが、今まで簡単に角度を変えて見られたものが、画面越しでは簡単に見ることができず、それを患者さんに説明しづらいなど、やりにくさはあると思います。

― どのような場面で仕事のやりがいを感じられますか。患者さんからの声など具体例があればご紹介ください。
出浦先生:治療や薬剤師の吸入指導の成果が出て、患者さんの症状が良くなると、治療の効果があった、薬剤師との連携が功を奏したと思え、やりがいを感じます。今後も、医師と薬剤師が協力してフォローすることで、患者さんの回復につなげていきたいと思います。
鈴木先生:患者さんに合った吸入デバイスを用いてうまく吸入指導ができた結果、患者さんが回復して、外来で元気に通院している姿を見ると、吸入指導してよかったと思います。患者さんが退院後、吸入指導を引き継いでもらった地域の薬剤師の先生から「あの患者さん、家族と旅行に行けましたよ」などの話を聞くと、治療がうまくいって本当によかったと思い、やりがいを感じています。

― 最後に、先生方の今後の目標や展望についてお聞かせいただけますか。
出浦先生:当センターと地域の医療機関の連携のパスの中に、薬剤師による吸入指導を組み入れていきたいと思っています。そして患者さんが退院後も、慢性期病院や地域の調剤薬局で吸入指導を続けていただき、そこでわかった患者さんの不得意なところや癖など蓄積したフィードバックをそれぞれのステージで引き継いでいってほしいです。例えば、患者さんが再入院したときもフィードバックがきちんと伝えられていれば、病院でその部分に対応・修正できます。このように院内外の薬剤師を巻き込んで連携を発展させることで、理想的な地域包括医療が実践できると思います。
鈴木先生:在宅医療が推進される中、患者さんにはできるだけ住み慣れた自宅で長く生活してもらうことが理想です。今後、COPD患者さんが自宅で安心して生活できるように多職種でサポートしていく体制を構築していけたらと考えています。そのための情報共有の方法なども模索していきたいと思っています。

Key points for communication 
受診勧奨や健康相談につながる信頼関係の築き方

服薬指導では、患者さんの仕事や生活習慣についてもヒアリングすると思います。患者さんの話は、日常生活の困りごとや処方薬以外の健康に関する話題など多岐にわたり、時には健康相談に発展することもあります。薬剤師は処方薬を通して患者さんの日常生活に触れるため、患者さんにとっては、自分のことをよく知る数少ない人であり、頼りになる存在とも言えます。
健康相談を受けて「これは早めに受診したほうがいいかも」と感じたときは、積極的に受診勧奨して、早期発見・早期治療につなげたいですね。そこで今回は、受診勧奨や健康相談につながる信頼関係の築き方について考えてみます()。

村尾 孝子 先生

Pharmacist 
村尾 孝子 先生
株式会社スマイル・ガーデン 代表取締役
薬剤師
医療接遇コミュニケーションコンサルタント

 

患者さんは誰にでも心を開いて体調などの悩みを打ち明けるわけではありません。「ちょっと体調が気になるんだけど…」「軽い咳が長引いてるけど、原因がわからない」等々の不安や不調は、この人なら話を聞いてくれるかもと感じる相手、すなわち信頼できると感じる相手に打ち明けるのです。受診勧奨を行う際も、信頼している薬剤師の話であれば、患者さんが「すぐに受診しよう」と思う可能性が高まります。そこで、患者さんとの信頼関係を築くために欠かせないコミュニケーションのポイントをご紹介します。

患者さんは自分のことをよく知る薬剤師からのアドバイスであれば、素直に耳を傾けるはず。受診勧奨を難しく考えすぎずに、「先ほどから、ときどき咳をされていますが、先生には相談されましたか?」とひと声掛けてみる。信頼する薬剤師に「早く治療すると治りも早いので、医師に相談してはいかがでしょうか」と言われたら、症状を気にしていなかった患者さんも、受診する気になるかもしれません。

日ごろから患者さんとのコミュニケーションを怠らず、患者さんから得る情報を患者さんの健康のために最大限活用しましょう。いつでも気軽に健康相談に乗ったり、必要に応じて医療機関を紹介したりできるように、地域の人々との信頼関係作りを大切にしてほしいと思います。

Key points for communication  受診勧奨や健康相談につながる信頼関係の築き方

Report
【解説】 患者がかかりつけ薬剤師に求めるのは、薬の把握と管理、重複などへのアドバイス

中央社会保険医療協議会(中医協)総会が2021年10月22日に開かれ、かかりつけ薬剤師・薬局の普及に向け、2022年度調剤報酬改定でも引き続き推進する方針で議論がなされました。しかし、かかりつけ薬剤師指導料等の算定回数・薬局数は増えていないのが現状です。かかりつけ薬剤師指導料・かかりつけ薬剤師包括管理料の過去3年間(2018年4月~2020年9月)の算定状況の推移を見ると、算定回数(毎月)は約90万回前後、算定薬局数も2万2801件から2万4023件と1222件しか増えておらず、いずれも横ばいとなっています※。

中医協に提出された資料のうち「かかりつけ薬剤師指導料等の届出がされていない理由」の調査結果を見ると、「時間外の24時間電話相談が困難(人手不足等)」(47.6%)、「在宅への訪問をする時間が取れない」(43.6%)といった回答が上位に挙がっており(図1)、同指導料の算定要件への対応が難しい現実が浮かび上がっています。

一方、患者さんに「かかりつけ薬剤師に重視すること」を聞いたところ、「自分の飲んでいる薬をすべて把握してくれること」(62.4%)、「いろいろな医療機関で出される薬について重複しているものがないか、飲み合わせが大丈夫かなどを確認してもらえること」(64.4%)が回答の上位に挙がっており、24時間体制よりも薬の一元管理を重視している患者さんの姿が見えてきます(図2)。

対物業務から対人業務へのシフトの重要性が指摘される中、夜間の問い合わせなどで、かかりつけ薬剤師以外の薬剤師が患者に対応し、その後、かかりつけ薬剤師がフォローするなどの対応に前向きな姿勢を示すとともに、かかりつけ薬剤師には、薬の一元管理など重複投薬や残薬解消につながる取り組みの強化を求め、中医協では議論がなされています。

※第492回中央社会保険医療協議会総会(2021年10月22日)資料

Report 【解説】 患者がかかりつけ薬剤師に求めるのは、薬の把握と管理、重複などへのアドバイス

出典:第492回中央社会保険医療協議会総会(2021年10月22日)資料を基に作成

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