COPD診療における質問票の活用法

サイトへ公開: 2022年09月29日 (木)

ガイドラインを実臨床へ落とし込むコツとは? 第1回

ガイドラインを実臨床へ落とし込むコツとは? 第1回

2022年6月に『COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版』が発刊されました。
本コンテンツでは、第6版作成委員会 副委員長の奈良県立医科大学 室 繁郎 先生に、ガイドライン第6版で取り上げられている内容について、実臨床での実践方法をお伺いします。今回のテーマは「COPD診療における質問票の活用法」です。ぜひ、ご覧ください。

【まとめ】

  • ガイドライン第6版において、質問票を用いた具体的な症状の評価を行うことや、質問票のスコアにもとづく薬剤選択について言及している
  • 質問票によって患者さんご自身では気付かない症状やQOLの変化を可視化できる
  • 質問票は評価する目的や対象(スクリーニング、症状、身体活動性など)を意識して使い分ける
  • 質問票の結果をひとつの参考にして症状や身体活動性の程度を評価し、治療選択を行う

インタビュー:2022年6月9日 オンラインにて実施

Q ガイドライン第6版では質問票を用いて具体的な症状の評価を行うことや、質問票のスコアに基づく薬剤選択について言及されていました。このような変更に至った背景は?
ガイドライン第6版の質問票に関する記述

「COPD患者は症状を過小評価しがちで、しばしば増悪を報告しないこともあるので詳細な聴取が重要である。質問票を用いて具体的に評価する」1
「症状が強い(mMRC呼吸困難スケール 2グレード以上またはCAT 20点以上)、あるいは、身体活動性が損なわれている場合には、初期導入としてのLAMA/LABA配合薬は許容される」1

質問票をクローズアップした背景のひとつは、COVID-19流行により、呼吸機能検査が困難な状況にあることです。診療に制限がある状況でも、COPDの診断およびその後の治療方針の決定が滞りなく行えるよう、質問票を活用してほしいと考えています。
もうひとつは、COPDが「症状の訴えの乏しい疾患特性から診断されにくい」2ことです。そこで、質問票をひとつのきっかけとしてスクリーニングを行い、そして患者さんが気付いていない、あるいは過小評価しているような症状を拾い上げることで、適切な治療につなげていただきたいという意図があります。

また、質問票のスコアに基づく薬剤選択に言及した意図は、症状の強さを数値化することで、薬剤選択の基準を分かりやすくすることです。かかりつけ医の先生の中には、COPD患者さんの治療方針を決定する際に苦慮され、時には呼吸器専門医にコンサルトされた経験がある方もいらっしゃると思います。そこで、今回の改訂の記載が、専門医のみならずかかりつけ医の先生にとっても、処方の目安になれば幸いです。

Q COPD診療で症状を評価する質問票(CAT・mMRC質問票 など)を用いることのメリットは?

質問票は、患者さんご自身が気付いていない咳、痰、息切れなどの症状や生活の変化を可視化できる、というメリットがあります。
医師と患者さんの「お加減いかがですか?」「変わりません」というやり取りは、日常診療ではよくある光景です。ところがCATを実施すると、たとえば“以前よりずいぶんと痰が増えていた”といったことが分かる場合もあります。CATでは疾患が日常生活にどの程度の影響を与えているかも分かります。 質問票は、患者さんが自覚されておらず、医師に伝わりにくい状況や変化を拾い上げることができる有用な手段であると考えています。

Q ガイドライン第6版では、今回新たに掲載されたものも含め、複数種類の質問票が取り上げられています3。実臨床における質問票の使い分けは?

各質問票によって適する場面が異なりますので、何を評価したいかを意識して使い分けていただきたいと思います。
たとえば、スクリーニングの場合にはCOPD-PSやCOPD-Qなど、症状の評価にはCATやmMRC質問票、身体活動性低下に伴うフレイルの評価にはPROMs-D質問票などが利用できます。

Q 症状を評価する質問票(CAT・mMRC質問票 など)を実臨床でどのように活用する?

質問票の結果はあくまでも参考ですが、スコアから患者さんの症状や身体活動性の程度を評価し、COPDの治療選択に活用していただきたいと思います。
たとえば、CATの前半4項目は上から順に、咳、痰、息切れ、労作時の息切れと並んでいます。COPDの治療開始後、CATを実施すると息切れは改善したにもかかわらず、咳、痰の症状が強く残存している、という患者さんがときどきいらっしゃいます。このようなケースでは、COPDではなく胃食道逆流症の併存が残存症状の原因であったなど、他疾患の発見につながることもあります。
このように、質問票を用いて症状を数値化し、呼吸器症状の重み付けを行うことで適切な治療につなげることができます。

また、治療を継続する中で質問票を用いた聞き取りを複数回実施し、「前回のCATのスコアに比べて今回は良かった(あるいは悪かった)けれど、どう思いますか?」と問いかけるなど、そのスコアをきっかけに患者さんとコミュニケーションを取ることが、実は質問票の活用方法として最も重要ではないかと私は考えています。

さらに補足として、質問票を用いて問診時に漏れがちなポイントをチェックするという活用方法もあります。
CATの後半4項目のQOLに関連する質問は、症状に関する前半4項目と比べ、医師が患者さんに聞くことを忘れてしまいがちな内容でもあります。そのため、問診時のポイントを漏れなく聞き出すことも、質問票の活用方法として有用だと考えています。

症状を評価する質問票(CAT・mMRC質問票 など)を実臨床でどのように活用する?

【引用】

  1. 日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会 編:COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版. 2022, p.97.
  2. 日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会 編: COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版. 2022, p.168.
  3. 日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会 編: COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版. 2022, p.50-89.
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