薬剤師の積極的な介入で吸入支援を促進

サイトへ公開: 2021年05月20日 (木)

2020年4月から吸入指導加算の算定が可能になり、吸入指導での薬剤師への期待が高まっています。
薬剤師が地域の医療に果たす役割を考える今回は、地域の呼吸器専門病院で診療を担当される医師と看護師、その処方箋を受ける調剤薬局で吸入指導に関わる薬剤師に、それぞれが果たす役割や吸入指導における工夫、コツなどを解説いただきました。

開催年月日:2021年1月21日  開催地:霧ヶ丘つだ病院(福岡県北九州市)

津田 徹 先生Doctor
津田 徹 先生
医療法人社団恵友会 霧ヶ丘つだ病院
理事長・院長

医師、調剤薬局の薬剤師の積極的な介入がCOPDの早期発見・早期介入の鍵。

― 最初に、COPDの診療における霧ヶ丘つだ病院の地域での役割や診療体制についてお聞かせください。
霧ヶ丘つだ病院は日本呼吸器学会の認定施設で、呼吸器疾患全般の診断・治療を行っています。当院は、北九州市における地域の呼吸器専門病院として、急性期から在宅療養まで幅広い患者さんを診ています。
COPDの診療では、急性期から維持期までの継続した呼吸リハビリテーションを行い、在宅療養にも力を入れています。特色としては、院内に慢性呼吸器疾患看護認定看護師が5名在籍しており、増悪時のNPPV管理などにも対応できる体制となっています。

― COPDの早期発見・早期介入の重要性についてお聞かせください。
COPDの潜在患者を早期に見つけ、治療の早期介入を実現できれば、患者さんの予後の改善につながりますので、早期発見・早期介入はCOPD診療の鍵となります()。しかし、院内の医師や看護師、薬剤師だけでは潜在患者の早期発見には十分ではないため、そこに調剤薬局の薬剤師さんの関与が必要となります。地域包括ケアの観点からもCOPDの早期発見・早期介入には地域の調剤薬局で働く薬剤師さんの力が欠かせません()。

― 調剤薬局の薬剤師さんにはどのような役割を期待しますか。
例えば、調剤薬局を訪れる方にCOPDが疑われた場合、呼吸器専門医に紹介していただくことができます。また、調剤薬局の顧客データを潜在患者のスクリーニングに活用することも1つのアイデアだと思います。
本日ご参加の赤川信一郎先生が勤務されているサンキュードラッグは、約45万人の顧客データ(購買履歴)をお持ちですが、これは北九州市の人口(約100万人)のほぼ半分に相当します。個人情報保護の観点は欠かせませんが、そのデータを活かし、例えば風邪薬を頻繁に購入する方にお声がけをすることができれば、COPD等の呼吸器疾患の早期発見につながるかもしれません。これは1つのアイデアですが、薬剤師さんが積極的に介入することで、呼吸器疾患の早期発見に貢献できれば素晴らしいと思います。

― 調剤薬局の薬剤師さんは、COPDが疑われる方にどのようにお声がけをすればよいでしょうか。
これは1つの例ですが、高血圧がある50代の方に息切れがあっても、本人は息切れを自覚していないことが多くあります。そのため、薬剤師さんが「息切れはありませんか?」と聞いても「ありません」と答える可能性が高く、COPDの潜在患者を見つけることにはつながりません。一方、質問を変えて「風邪が長引いていないですか?」と聞くと、本人が咳や痰が続いていることに気づくかもしれません。本人に「あっ、ひょっとして」と思わせるきっかけがないと、なかなか受診にはつながらないものです。もし咳や痰が続いていることが分かり、専門医の受診を勧めることができれば、そこで早期発見ができる可能性が高まります。

― 先生がCOPDを診療する上で重要視している点はどこでしょうか。
COPDの診断は肺機能検査が基本です。COPDと診断した後も、糖尿病や高血圧症と同じように、数値で管理することが重要です。コロナ対策で肺機能検査がやりにくいのですが、せめて1秒量だけでも経過を追うことが必要です。肺機能検査ができない場合にはCAT(COPDアセスメントテスト)でもよいので、数値をグラフ化して、医療スタッフと患者さんと共有し、患者さんの症状の変化を可視化することで、吸入薬の効果や再吸入指導のタイミングを知ることができます。一方、患者さんは可視化によって、自分の治療効果や経年変化が理解しやすいというメリットがあります()。
また、禁煙の重要性を理解していただくため、将来、患者さん自身が喫煙を続けると、どのような状態になるかをグラフで予測してあげることが重要です。例えば、COPD患者さんに「このままたばこを吸い続けると、10年後は階段を上がるのがきつくなりますよ」などと具体的に伝えてあげることが効果的です。

津田 徹 先生02

― 最後に、調剤薬局の薬剤師さんへのメッセージをお願いします。
COPDの早期発見・早期介入は、われわれ医師が積極的に取り組んでいかない限りできませんが、そこに調剤薬局の薬剤師さんが加わってくだされば、放置すれば将来息切れなどで苦しむ患者さんの発掘が後押しされます。調剤薬局の薬剤師さんの気づきによって、COPDの潜在患者が発見されることは、医師にとってとても有難いことです。COPDの早期発見のために、薬剤師さんの積極的な介入に期待しています。

津田 徹 先生 監修

津田 徹 先生 監修

井本 久紀 先生Nurse
井本 久紀 先生

医療法人社団恵友会 霧ヶ丘つだ病院
慢性呼吸器疾患看護認定看護師

吸入指導では「ゆっくり深く吸い込む」をベースに、吸い込みかたにフォーカス。

― 井本先生は、慢性呼吸器疾患看護認定看護師の資格をお持ちですが、最初にその役割について説明していただけますでしょうか。
慢性呼吸器疾患の患者さんとそのご家族のQOL向上のために、熟練した看護技術を用いて高い水準の看護を提供することがわれわれの役割です。安定期や増悪期、人生の最終段階など慢性呼吸器疾患のさまざまなステージで、患者さんやそのご家族の困りごとを見つけ出し、それを解決していくことが使命だと思っています。

― 次に、COPDの診療において、吸入指導がなぜ重要なのか教えてください。
吸入薬は、錠剤や貼付薬などの他の薬剤に比べると、あまり馴染みがなく理解しにくい側面があります。例えば、錠剤を見れば、これは水と一緒に飲むものだと分かります。貼付薬も、痛みのあるところに貼るものだと理解できます。しかし、吸入薬はあまり目にする機会もないため、患者さんはまず吸入の仕方と吸入デバイスの使い方から学ぶ必要があり、そのために吸入指導は重要なのです。

― 吸入指導における重要なポイントを教えていただけますか。
吸入指導にあたり、まず「吸入支援」という考え方が重要だと考えています。その上で、吸入の仕方を丁寧に説明することがポイントとなります。「どうやって吸い込めばうまく薬剤を肺に届けることができるのか」を患者さんにきちんと指導してあげることが重要です。その上で、各吸入デバイスの使い方を説明するようにしています。そのため、われわれのチームでは、薬剤の吸い込みかたの指導に時間をとり、「ゆっくり深く吸い込む」というベースを作った上で、吸入デバイスの説明に入っています。

― 初回および2回目以降の吸入指導で、それぞれ重要視している点は何でしょうか。
初回で重要なのは、患者さんに「薬剤を肺の中のどこに届けるのか」をイメージしてもらうことです。人間は自分の中でイメージができないと行動できませんので、イメージ作りが最初のプロセスとなります。次に「ゆっくり深く吸い込む」をイメージしてもらうことがポイントです。
一方、2回目以降のポイントとしては、この「ゆっくり深く」のイメージが崩れてきたときの修正が挙げられます。「勢いよく吸えば肺の奥まで届く」との考えから、元々思い切り吸い込んでいた患者さんは、思い切り吸入するほうに戻ってしまうのです。時間の経過とともに吸入速度が速くなる傾向がありますので、そういう部分を修正してあげることが2回目以降、重要となります。

赤川 信一郎 先生Pharmacist
赤川 信一郎 先生

株式会社サンキュードラッグ
人財育成部長 薬剤師

薬局薬剤師が担う、地域医療における医療機関への橋渡し的役割。

― 最初に地域医療のために、薬剤師に求められている役割について解説していただけますでしょうか。
サンキュードラッグは、北九州市・下関市を中心に調剤薬局とドラッグストアを展開していますが、調剤薬局で働く薬剤師は、地域の住民に気軽に相談してもらえる存在として、地域医療の一翼を担っています。最近は、新型コロナウイルス感染症の影響で、COPDが疑われる方でも医療施設の受診を控えてOTCを求める方が多くいます。適切な医療を受けられない方が病院を受診できるようになるまでの間、薬剤師がサポートし、医療機関へ橋渡しすることが地域医療を支える上で重要な役割だと考えています。

― 服薬指導の取り組みで、薬局として重要視しているのはどのような点でしょうか。
当社では、1人の患者さんが複数の店舗を利用されるケースが多いので、「かかりつけネットワーク」を構築し患者さんをフォローして、薬歴を全店舗で共有しています。そのため、患者さんはどの店舗を利用しても薬剤の処方や指導、服薬期間中のフォローが受けられます。
津田先生からご紹介がありましたが、顧客データの潜在患者スクリーニングへの活用なども視野に入れていきたいと思います。例えば、たばこの購買歴を調べ、鎮咳去痰薬や風邪薬を当社の薬局で頻繁に購入した喫煙者の方がいれば、その方へピンポイントで疾患啓発をすることも可能です。

― 吸入指導を行う上で重要視している点や独自の取り組みがあれば教えてください。
吸入薬の課題の1つに、高い脱落率があります。そのため、吸入指導の繰り返しに重点を置いて、薬剤師の研修に力を入れたいと考えています。研修では、井本先生監修の患者指導箋を使って勉強しています。
独自の取り組みとしては、吸入指導の動画にリンクした二次元コードを患者さんのお薬手帳に貼って、患者さんが不安になったり、自己流になってきたときにその動画を見て正しい吸入方法を学習してもらう取り組みを開始しました。

― 病薬連携による取り組みや、今後の展望についてお聞かせください。
病院が開催する研修やカンファレンスに積極的に参加していきたいです。現在、緩和ケアの認定薬剤師がいる病院に薬剤師を派遣し、在宅緩和ケアの研修を受けてもらっています。今後は、薬局薬剤師も1人ひとり専門を持つことが重要で、例えば、呼吸器疾患に強い薬剤師を育成していくなどスペシャリストの輩出が求められます。そのために、各医療機関の先生方にカンファレンスや研修で協力体制をお願いできればと思います。

津田 徹 先生 × 井本 久紀 先生  × 赤川 信一郎 先生津田 徹 先生 × 井本 久紀 先生  × 赤川 信一郎 先生

薬局薬剤師も含めた大きなチームで、地域での吸入指導をサポート。

― 吸入指導における医師、看護師、薬剤師のそれぞれの役割についてお聞かせください。
津田先生:これからの吸入指導では、医師には院内だけでなく地域の薬局薬剤師も含めた大きな枠でのチーム作りが求められます。診療も吸入指導もすべて医師が行うのではなくチームのスタッフに任せられるところは任せるということが重要で、吸入指導は薬剤師や看護師に任せ、医師はチームを指揮する側にまわるほうが連携はうまく機能すると思います。
赤川先生:薬剤師は医師からの指示待ちが多いので、とかく受け身になりがちですが、そこは1歩踏み込んで提案をすることが役割と考えています。例えば、どうしてもうまく吸入できない患者さんがいた際には、疑義照会を通してデバイス変更を医師に提案していくなど、積極的に関わっていくことが求められています。
井本先生:看護師には、医師と薬剤師をつなぐ役割があると思います。単に伝書鳩のように「こう言っています」と伝えるのではなく、きちんと理解し、不明な点や足りない情報があれば医師や薬剤師に確認する作業が必要です。また、双方の意見や考えを理解するための学習も重要ですので、そのための研修やトレーニングは欠かせません。

― 新型コロナウイルス感染症の影響が吸入指導にも出ていると聞きますが、先生方の施設ではどのような対応や工夫をされていますか。
井本先生:今まで吸入指導は、患者さんと医療従事者が対面で座って行っていましたが、コロナ禍では、並んで横に座り、正面を向かないなどの工夫が必要となっています。また、マスクとゴーグルを着用し、必要なときだけピンポイントで外すなどの対応も求められます。私は自分で吸入デバイスの使い方を実演した場面を撮ってスマホに入れており、その動画を患者さんに見せながら説明していますが、会話も少なく、マスクを外して説明する時間も短縮できますので、効果的だと思います。
吸入指導はオンラインでもできますが、直接、患者さんの目の前で説明しないと患者さんもすんなり理解できない微妙な部分もあります。そこは対面での指導との組み合わせで対応しています。
赤川先生:当社では調剤薬局の全店舗でアクリル板を用いて吸入指導をしています。しかし、患者さんが持った吸入デバイスに触れて手助けをしたいと思っても、アクリル板が間にあってなかなか手を差し伸べることができないなど、もどかしさを感じる場面もあります。

― 日常の診療の中のどのような場面で仕事のやりがいやモチベーションを感じますか。
津田先生:院内の薬剤師や看護師、調剤薬局の薬剤師など多職種によるチームがうまく機能し、その結果、患者さんがそのチームのスタッフに感謝してくれる姿を見ると、やりがいを感じます。「患者さんからこんなことを言われてすごく嬉しかったです」とスタッフから報告を受けると、こちらが嬉しくなります。
赤川先生:薬剤師が提案をして、それが医師に採用され、結果的に患者さんにも感謝されたときに提案してよかった、とやりがいを感じます。また、私はサンキュードラッグで薬剤師の教育・育成に携わっていますが、薬剤師が成長して、医師と連携しながら患者さんのために働いている姿を見ると、教育・育成という仕事をやっていてよかったと思います。
井本先生:数年前に、吸入薬の薬剤は変更せず、吸い方を変えたことで症状が改善した経験があったのですが、それを患者さんが喜んでくれたときにやりがいを実感しました。その経験を講演でお話させていただきましたが、その講演に参加した薬剤師さんが実践してくださり、効果があったとのメールをいただいたときは、とても嬉しかったです。

― 最後に、先生方の今後の目標や取り組み、展望についてお聞かせいただけますか。
津田先生:これは希望ですが、吸入薬の効果を、患者さんが目で見えるようなツールがあればと思います。COPDは実際に患者さんが動いてみないと息切れが現れない疾患です。そのため、吸入薬の効果も実感しにくいのが現状です。吸入薬を使うことで、どれだけ身体活動性や日常生活に変化があるかを患者さんに分かりやすい形で伝えることができれば、患者さんのモチベーションにつながります。
赤川先生:在宅医療での吸入指導は、主に訪問看護師が行っていますが、今後は薬剤師も現場に出て指導をしていくことが求められます。薬剤師が在宅でもCOPD治療へ貢献できるように在宅での吸入指導にも対応できる体制を整えていきたいと思います。
井本先生:COPDの治療は継続が重要です。3か月に1回のフォローアップ時に患者さんに改善が見られたら「うまく吸入できてますね」などと一言声をかけてあげるだけで、患者さんのモチベーションは高まります。看護師は、患者さんの変化に敏感で「いつもあなたのことを気にかけています」という姿勢が大事ですので、毎日の診療の中で常に心がけていきたいと思います。

津田 徹 先生 × 井本 久紀 先生  × 赤川 信一郎 先生 02

Tips for inhalation instruction 
吸入指導のポイント解説

服薬指導において患者さんをサポートする上で重要なポイントを、COPDの吸入指導を現場で行っている薬剤師や看護師の方に教えていただきます。
今回は、霧ヶ丘つだ病院(福岡県北九州市)の慢性呼吸器疾患看護認定看護師である井本久紀先生にお聞きしました。

井本 久紀 先生

Nurse
井本 久紀 先生

Q:吸入を支援するという考え方について教えてください。
A(井本先生):
吸入指導の「指導」という言葉は、一方的で何か教えないといけないというニュアンスに聞こえる場合がありますので、サポ一トする、一緒に吸入を考えるという意味で、吸入支援という考え方が重要だと思います。患者さんに寄り添って困りごとに対して支援する姿勢が大事です。
初めて吸入デバイスを見た患者さんの中には「何だか難しそうだ」というイメージを持って、リラックスできない方もいます。まず「決して難しいものではありませんよ」というメッセージを伝え、患者さんにリラックスしてもらい、安心してうまく吸い込めるよう支援することが大切です。

Q:吸入速度が速すぎるなど同調が難しい患者さんの場合、上手に吸入してもらうためには、どのような工夫が必要でしょうか。
A(井本先生):
当院では、吸入補助器具(エアロチャンバーなどのスペーサー)を使って吸入指導をしています※。同調がうまくできない患者さんの場合、「噴霧ボタンを押したら急いで吸入しないといけない」という意識が働き、ゆっくり吸入することができないことが多いです。そのときに吸入補助器具を使うと、噴霧ボタンを押した後、ワンクッションおいてゆっくりと深く吸い込むことができ、薬剤をきちんと肺の中に届けることができます()。
※吸入補助器具が推奨されていない薬剤もあります。

井本 久紀 先生 監修

井本 久紀 先生 監修

Q:最近では動画を使った吸入指導も増えているようですが、注意点などあれば教えてください。
A(井本先生)
:これはよくあるパターンなのですが、医師や看護師、薬剤師などが患者さんに吸入の説明をしている動画を、単に「見ておいてください」と言うだけで、直接、患者さんに対して吸入器を使って吸入支援をしないケースがあります。患者さんは、動画を受け身の状態で見ているだけでは、十分には理解できず、大事なポイントも見逃してしまいます。動画を使いつつも、医療従事者がきちんと丁寧にサポートすることが重要となります。

Key points for suggestion 
疑義照会のコツ

薬剤師の重要な業務の1つである疑義照会。
その機会は意外と多いものですが、苦手意識や抵抗感を持っている薬剤師は少なくないように思います。
今回は、疑義照会の経験が少ない方や新人の薬剤師の方に、疑義照会をスムーズに進めるためのアドバイスをお伝えします()。

村尾 孝子 先生

Pharmacist
村尾 孝子 先生

株式会社スマイル・ガーデン 代表取締役
薬剤師
医療接遇コミュニケーションコンサルタント

疑義照会では、医師と話すというだけで緊張する人もいると思います。そこで、疑義照会の電話をかける前に、照会内容をしっかりまとめておく準備が欠かせません。問い合わせや依頼の要点をメモしておくと落ち着いて用件を伝えられますし、簡潔に照会を済ませることが可能になります。

医師との会話では、診察など忙しい医師の業務中に割って入ってしまうことが多いため、挨拶とともに、「お伺いしたいことがあるのですが、少しお時間よろしいでしょうか」といったかたちで、時間を割くことについて了解を得てから照会を行います。

処方変更を依頼する場合は、あらかじめ代替案を用意しておくことも大切です。同効薬や規格、相互作用や用法等を頭に入れて、医師に尋ねられたときにすぐ答えられるよう準備します。医師のもとに直接、出向く場合は、関連する資料を持参すると想定外の質問にもすぐに対応できます。

規格違いなどの間違いがあった場合は、「間違っています」と決めつける言い方は、医師その人を非難しているように聞こえてしまう可能性もあるためNGです。「こちらのお薬は1日1回、1回2吸入でよろしいでしょうか」とあらためて確認するような尋ね方をすると、スムーズに疑義照会できます。照会後は忘れずに「お忙しい時間にご対応ありがとうございました」などとお礼を伝えましょう。

“疑義照会=難しいもの”と思い込んでいる人も少なくないと思いますが、患者さんのためにタイミングよく情報提供すれば、一気に医師からの信頼を得ることができ、苦手意識の払拭にもつながります。疑義照会は、医師とのコミュニケーションの貴重な機会です。落ち着いて照会できるよう事前準備を怠らず、積極的に疑義照会してほしいと思います。

村尾 孝子 先生 監修

村尾 孝子 先生 監修

Report 
【解説】 薬局の差別化につながる「薬局認定制度」が2021年8月にスタート

厚生労働省は2021年1月29日、同年8月にスタートする「地域連携薬局」「専門医療機関連携薬局」の認定制度について、施設基準などを明示しました。地域連携薬局は患者の入退院時から在宅医療までの薬剤情報を医療機関などと共有して切れ目なく服薬指導を実施する役割、専門医療機関連携薬局は高度かつ専門的な薬学管理を提供する役割を担う薬局として、都道府県知事の認定を受けたことを表示できる制度です。

地域連携薬局は、いわゆる「かかりつけ薬剤師・薬局機能」を担うほか(図)、麻薬の調剤応需や無菌製剤処理なども担当します。一方、専門医療機関連携薬局は、専門的な医療機関の医師や薬剤師と情報を共有し、主に在宅のがん患者への高度な薬学管理を担います。自分に適した病院や診療所をかかりつけ医とする考え方は浸透してきましたが、薬剤についても気軽に相談できる身近な薬局を患者自身が選択できるようにすることが目的です。

機能に応じた2種類の認定制度が設けられた背景の1つに、多剤投与の問題が挙げられます。厚生労働省は2014年度、定期的に医療機関で処方してもらう薬がある患者さんを対象に、1日に使用する薬について調査しました。これによると、2疾病以上の慢性疾患を有する高齢者において平均約6剤、認知症の患者においても約6剤以上の多剤の処方が行われていることが明らかになりました[第311回中央社会保険医療協議会総会(2015年11月6日)]。厚生労働省は、地域連携薬局の推進によって高齢者への薬物療法の安全性を高めたい考えです。また近年、特に薬の副作用に注意を要するがん患者などの在宅療養が増えており、より高度な処方を求められる機会が増えていることも背景にあります。

厚生労働省はこれまで、中央社会保険医療協議会などにおいて、地域連携薬局は日常生活圏域(中学校区)に最低1つ、専門医療機関連携薬局は地域がん診療連携拠点病院の設置状況を踏まえて2次医療圏(複数の市町村をまとめた単位)に1つ以上、必要との考えを示しています。専門医療機関連携薬局については、厚生労働省が認めた団体によるがんの専門性の認定を受けた常勤薬剤師の配置など、高いハードルが設定されていますが、地域連携薬局は地域の病院薬剤師との連携実績など比較的、認定を受けやすくなっていますし、認定を受ければほかの薬局と差別化できます。患者の回復に薬剤の面から積極的に取り組んでいる薬局・薬剤師であることを標榜できるため、厚生労働省は認定薬局の増加を目指しています。

出典:厚生労働省「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年法律第??号)の概要」を基に作成

出典:厚生労働省「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年法律第??号)の概要」を基に作成

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