地域レベルでのネットワーク化が鍵 ジョイントレクチャー ―WEB講演会記録集―

サイトへ公開: 2021年03月01日 (月)

COPDの薬物治療の第一選択薬は吸入薬ですが、さまざまな吸入デバイスがあり、それぞれに応じた吸入指導が大きな鍵を握ります。多職種連携による吸入指導を考えるシリーズの第三回目では、大阪で開催されたCOPD吸入薬Web Seminar「COPD吸入療法・指導のポイント~診療報酬改定を踏まえて~COPD吸入療法の実際(診断・吸入薬選択・吸入指導)」(主催:日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社)の模様をご紹介します。

ジョイントレクチャー

講演1 吸入指導の実践 地域での吸入指導ネットワークの構築 三井 克巳 先生

講演1 吸入指導の実践 地域での吸入指導ネットワークの構築 三井 克巳 先生01

ジョイントレクチャーの前半では、吸入指導のポイントと当院での吸入指導ネットワークについて解説します。
 吸入療法では、患者さんの吸入手技とアドヒアランス向上が重要なため、薬剤師による吸入指導がキーポイントとなります。吸入指導が呼吸機能の改善率に与える影響を、喘息患者を対象にピークフロー値(PEF)を用いて調べた研究によると、ピークフロー値の改善率は最初の2回の吸入指導後に上昇し一定の改善率を保ちましたが、時間の経過とともに低下。薬剤師の再指導後に再び上昇しました(図)1)
 このように、吸入指導は1人の患者さんに複数回行うことが必要ですが、現場では、正しく吸入できている患者さんは50%に満たない2)、多くの医療従事者で正しい使い方を患者さんに説明できていない3)などの問題が指摘されています。
 そこで、患者さんがどの保険薬局でも統一された正しい吸入指導を継続して受けられるように2006年9月、北野病院と大阪市北区北支部薬剤師会が共同で、吸入指導ネットワークを設立。地域の薬剤師に向けて吸入指導講習会を1年に1回開催しています。病院薬剤師から地域の薬剤師に統一された正しい吸入指導を説明し、学んでいただいています。
 同ネットワーク開始の前後で吸入指導の効果を比較した研究によると、同ネットワーク開始時に比べ開始4年時でCOPD増悪の頻度が有意に減少し(1.5 ± 1.6/年 vs 0.8 ± 1.4/年, P=0.017)、平均アドヒアランススコアは有意に上昇しました(4.1 ± 0.7/年 vs 4.4 ± 0.8/年, P=0.024)4)。この結果から、同ネットワークが治療アドヒアランスやCOPDのコントロール改善に重要な役割を果たしていることが分かりました。
 その一方、課題も見えてきました。当院では、お薬手帳で薬局に吸入指導を依頼し、結果をお薬手帳で報告してもらっていますが、紙面で依頼しFAXで報告を受けている病院もあり、システムが統一されていませんでした。また、当院が紹介した診療所では、吸入指導を依頼していないケースもあり、保険薬局が戸惑う場面もありました。そこで、大阪市北区では、北野病院、済生会中津病院、住友病院の3病院が吸入指導の統一化を試みました。北野病院で行っていたお薬手帳での運用を、紙面での運用に変え、紙面で吸入指導を依頼し、FAXで報告してもらう形で統一しました。
 吸入支援が活発になる中、2020年度の診療報酬改定で吸入薬指導加算が算定できるようになりました。吸入支援をさらに普及させるために、大阪市北区3病院では吸入指導の依頼・指導・評価・情報の共有を目指して「おおさか吸入支援連携システム」を構築。1)医師が喘息・COPD患者さんに吸入薬を処方し、吸入指導が必要と判断した場合、「吸入指導依頼書」「吸入指導実施報告書・情報提供書」「チェックリスト」を発行、2)患者さんに、薬剤師から吸入指導してもらうことを説明、3)薬剤師が吸入指導依頼書をもとに吸入指導を実施し、指導内容を病院の薬剤部にFAXで送信、4)病院は電子カルテに内容を取り込み、医師に報告する、という流れで、どの医療機関でも統一したフローを利用できるよう必要な資材等を用意しています。

References

1. 久保裕一ほか, 喘息, 2005; 18: 64-68.
2. Sanchis J et al. Chest 2016; 150: 394-406.
3. Chopra et al. Ann Allergy Asthma Immunol 2002; 88: 395-400.
4. Takemura et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis 2013; 8: 239-244.

講演1 吸入指導の実践 地域での吸入指導ネットワークの構築 三井 克巳 先生02

久保裕一ほか, 喘息, 2005; 18: 64-68. より改変

講演2 これからの吸入指導 コロナ後を見据えて 丸毛 聡 先生

講演2 これからの吸入指導 コロナ後を見据えて 丸毛 聡 先生

2020年は新型コロナウイルス感染症の世界的流行が起こり、COPDなどの呼吸器疾患に携わる医療従事者にも大きな影響を及ぼしました。そこで後半では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)収束後のCOPDの吸入指導について考えます。
 COVID-19は収束と再燃を繰り返すため、医療従事者は今後、COVID-19収束後の「新しい生活様式」の中で現状に則した吸入指導を進めていく必要があります。具体的には、吸入指導時にパーティションを用いるなどの感染対策、オンラインでの吸入指導などですが、これには薬剤師の力が欠かせません。
 COPDと喘息の患者さんへの薬剤師の介入効果を検討したシステマティックレビューによると、介入で吸入アドヒアランス(Risk比 1.34 [95% CI 1.18-1.53],P < .0001)と吸入手技(同1.85 [95% CI 1.57-2.17],P < .00001)が有意に改善し、特に吸入アドヒアランスではCOPDでその傾向が強い(同1.41 [1.24-1.61],P < .0001)との結果が示されました。薬剤師による吸入指導の重要性が再確認されたデータです。
 2020年4月の診療報酬改定では、吸入薬指導加算が算定できるようになりました。吸入指導に携わる医療従事者は、この加算を活用しながら、新しい生活様式へのパラダイムシフトの中で、強固な吸入支援ネットワークを各地域で構築していくことが求められています。

References

Xiaona Jia, J Clin Pharm Ther 2020 (doi: 10.1111/jcpt.13126. Online ahead of print).

開催年月日:2020年6月16日 
開催地:ANAクラウンプラザホテル大阪(大阪府大阪市)

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