地域に貢献し必要とされる薬局・薬剤師へ(沼津薬剤師会から)

サイトへ公開: 2024年01月30日 (火)

COPDの早期発見・治療介入、吸入療法による健康寿命の延伸には、患者さんと密に接し、日々の様子を目にしているプライマリケア医や調剤薬局の薬剤師の取り組みが期待されています。
今回は、吸入指導を通じて地域医療への貢献に取り組む沼津薬剤師会にお話をうかがいました。

開催年月日:2023年10月4日 開催地:一般社団法人沼津薬剤師会(静岡県沼津市)

板井 和広 先生
一般社団法人
沼津薬剤師会 会長

薬局を訪れる患者さんのためだけでなく地域住民のために

― 沼津薬剤師会として、地域医療の面でどのようなことを課題としてお感じでしょうか。

薬剤師の偏在を課題として捉えています。特に、病院薬剤師の偏在が大きな課題です。これは全国各地で共通の課題ですが、沼津市を含む静岡県東部地域では特に顕著であると感じています。高齢化率も、県内の伊豆半島地域などと比べれば穏やかですが、沼津市として決して見過ごせない数値です。
沼津市は市町村合併による行政区域の変遷もあり、当薬剤師会が担当する地域も広くなっています。また、隣接する御殿場市や裾野市には基幹病院の小児科がなく、高速道路を利用してわざわざ沼津市内の沼津市立病院を訪れるという方も少なくありません。沼津市内の基幹病院を受診され、地域に戻られた患者さんに対する薬物治療も当薬剤師会が取り組むべき重要な課題の1つと考えています。
このほか、当薬剤師会独自の課題として、遠くない将来に発生するとされている東海地震への備えがあります。地政学的にどうしても避けることはできませんので、医師会や歯科医師会、看護協会、行政と連携して、災害発生時に備えた避難訓練などを定期的に実施しています。これまで避難所に指定されていた場所が、最新の予想では津波で浸水してしまう可能性が高いことがわかるなど、求められる対策も頻繁に変わるため、災害発生時の我々の対応も常に見直しています。

― 地域に薬剤師の役割を知ってもらうため、沼津薬剤師会ではどのような取り組みをされていますか。

沼津市が主催する地域イベントにブースを出し、お薬の相談を受けたり、骨密度を測定したりするなど、地域住民と積極的に接し、薬剤師とはどのような存在か、ひいては国が促進している“かかりつけ薬剤師”とはどのような役割を担っているか、情報発信に取り組んでいます。ただ、我々の役割について、認知度は低いと実感しており、まだまだ地域に十分浸透しているとは言えません。
医療機関を受診され、処方箋を持参された患者さんに、薬局・薬剤師として対応することは当然のことですが、薬局に特に用事がなくても気軽に訪れ、患者さんから健康相談をしてもらえるようになるなど、地域に根付いた存在になることが重要です。患者さんのお話をうかがいながら、OTC医薬品を勧めるだけでよいか、受診勧奨したほうがよいか、判断できますし、ご家族の病気の兆しに気付くこともあります。「患者さんのため」に貢献することはもちろん、「地域住民のため」に活動することが我々の役割だと考えています。

― 沼津市立病院や静岡医療センターなど、基幹病院との薬-薬連携のきっかけについてお聞かせください。

沼津市立病院が院外処方を開始する際の勉強会がきっかけです。それ以来、20年以上にわたり、病院薬剤部と当薬剤師会で年3~4回のペースで意見交換を行っています。その中で、日々の業務で見つけた課題を解決しようと、お互いに忌憚なく話し合い、情報と問題点を定期的に共有しています。意見交換を続けてきた結果として、静岡医療センターと当薬剤師会会員薬局の間で、疑義照会簡素化プロトコルの運用も始まりました。また、当薬剤師会支援センター薬局が沼津市立病院に隣接していることも、密な連携の一翼を担っていると思います。
病院であっても、保険薬局であっても、我々薬剤師が第一に考えるべきは、患者さんの利益です。双方の意思疎通が上手くいっていないと事故に繋がるなど、患者さんにとって不利益になる可能性もあります。薬-薬連携が機能していることで、入院中から退院後の治療まで、スムーズに進んでいると感じています。今後は退院時カンファレンスにもさらに積極的に参加していきたいと考えています。

― 薬局や薬剤師の在り方が転換点を迎えつつありますが、「かかりつけ薬局・薬剤師」についてどのようにお考えでしょうか。

地域に貢献し、必要とされることが、かかりつけ薬局・薬剤師であると考えます。薬局は本来、何の用事もなく、世間話をしに寄ってもらえるような、地域住民にとって開かれた場所であるべきでしょう。
そうなれなければ、薬剤師不要論がなくなることはありません。そのために、特別な取り組みをする必要はありません。患者さんの利益を常に考え、当たり前のことを当たり前のようにやればよいのです。診療報酬改定で、かかりつけ薬局・薬剤師の取り組みが新たに評価されるようになりましたが、我々はそれ以前から地域住民や患者さんにとって良いことは何だろうか、と考えながら日々の業務に向き合ってきました。評価されるから行動してきたわけではなく、これまで行動してきたことが結果として評価につながっているのです。評価はあくまでも“おまけ”であり、患者さんは我々を信頼してかかりつけ薬局・薬剤師に選んでくれたにもかかわらず、医療費の負担が増えることに懸念があるのも事実です。
当薬剤師会の若手薬剤師にも、薬局に訪れた患者さんへの対応だけでなく、地域住民のことを考えて業務に取り組むこと、そしてそれが当たり前のことであると伝えています。今後は、薬剤師としての自身の業務だけでなく、薬剤師会として後進を育てていくことによって、地域住民に貢献していきたいと考えています。

曽根 一倫 先生
一般社団法人沼津薬剤師会 理事
医薬連携吸入連絡会 委員長

秋山 雅子 先生
一般社団法人沼津薬剤師会
支援センター薬局 主任薬剤師
医薬連携吸入連絡会 委員

吸入指導連携をきっかけとして患者さんに“あなたの意見が聞きたい”と言われる薬剤師へ

― 病院・診療所の医師、病院薬剤部、保険薬局による吸入指導連携が始まったきっかけについてお聞かせください。

秋山先生 : 沼津市立病院の呼吸器内科の医師から「患者さんが自宅でどのように吸入薬を使用しているのか知りたい。来局した患者さんの様子をフィードバックしてもらえないだろうか」と依頼されたことがきっかけです。気管支喘息やCOPDに対し、吸入療法はとても有効な治療法ですが、内服薬と異なり、正しい手技によって確実に吸入できないと十分な効果が期待できません。医師も患者さんのコンプライアンス不良に薄々、気付いていたのではないかと思っています。「医薬連携吸入連絡会」(https://numayaku.jp/about/katudou/yakuyaku.html)を2012年度に立ち上げ、吸入指導に関する報告書の統一書式の作成から始めました。 

曽根先生 : 私は呼吸器内科の診療所の門前薬局で勤務していたこともあり、秋山先生にお声掛けいただき、医薬連携吸入連絡会に参加しました。私は日頃から吸入薬や吸入デバイスに触れる機会が多いのですが、眼科や皮膚科など呼吸器内科の非専門医の門前薬局の薬剤師であれば、吸入薬や吸入デバイスに接する機会が少ない方もいると思います。吸入薬の種類は大変多く、使用方法や注意点もそれぞれの吸入デバイスで異なるため、患者さんはもちろん指導に当たる医療者も戸惑うことが頻繁にあります。私も実際に医薬連携吸入連絡会に参加し、保険薬局の薬剤師の吸入指導が不十分であることを知りました。患者さんに対する指導の前に、まず薬剤師の資質向上に取り組まなければならないことを痛感したのです。

― 吸入指導連携を始めたばかりの頃はどのような状況だったのでしょうか。

秋山先生 : 患者さんがいかに正しく吸入できていないかを目の当たりにしました。少し極端な例かもしれませんが、DPI製剤を処方され、すでに使用されているという患者さんに試しに目の前で吸入していただいたところ、吸入デバイスに口をつけず、吸入したつもりになっていたのです。当然のことながら、それではまったく効果がありません。初めて吸入指導を行った薬剤師が、練習器ということで口をつけなかったのでしょう。 
本来であれば、薬剤師が患者さんに「実際に吸入されるときは吸入デバイスをくわえて、しっかり吸入してください」と指導すべきだったと思います。患者さんが症状を良くしたいと思って続けてこられた治療が何の効果も得られていなかったことを知り、残念という気持ちとともに、患者さんに対して申し訳なく思いました。 

曽根先生 : 患者さんご自身の吸入方法の間違いも散見されましたが、薬剤師の吸入指導の至らなさを痛感しました。たとえば、正しい操作ができているにもかかわらず効果を感じられない、と患者さんからの相談を受けた際、吸入デバイスを確認させていただいたところ、製剤が詰まっていたということがありました。患者さんの症状を少しでも軽くすることが我々薬剤師の役割ですが、残念ながらできていなかったことがありました。このような経験を踏まえ、面分業が浸透しつつある中、呼吸器内科の診療所の門前薬局以外に勤務する薬剤師も、吸入薬や吸入デバイスに関する知識をアップデートし続けなければならないと感じています。

― 吸入指導連携の取り組みを沼津薬剤師会独自の認定制度の創設にまで発展させたのはなぜでしょうか。

秋山先生 : 医薬連携吸入連絡会を立ち上げてから3年後に認定制度を創設しました。これまでの活動の中で、患者情報を共有するための吸入指導依頼箋や評価表を作成し、運用してきたのですが、提出されてくるものを見て、薬剤師の資質がなかなか向上しないことを感じたことが創設の決め手です。認定を受けた薬剤師は当薬剤師会ホームページ(認定者一覧:https://numayaku.jp/about/katudou/yakuyaku.html)で公表していますし、病院や診療所でも「この薬局には丁寧な吸入指導を行ってくれる薬剤師がいる」と紹介していただいています。新規認定や更新には年数回の講習会の受講が必要ですが、多くの薬剤師が毎回欠かさず参加しています。 
吸入指導に関する研修会は全国の薬剤師会などで実施されていますが、いつの間にかなくなっているという話を耳にします。認定制度があり、更新が必要であるということを差し引いても、10年以上も継続できていることは当薬剤師会に所属する薬剤師の熱意の賜物であると自負しています。 

曽根先生 : 認定制度を創設した当初は、講習会の参加者が少しずつ減り、先細りになってしまうのではないかと思っていたのが本音でした。しかし、参加者は逆に右肩上がりに増え、1度の講習会の参加者が100人を超えることもありました。研修認定薬剤師制度のカリキュラムとして認められており、所定の単位の取得にもつながりますが、そのためだけに参加しているという薬剤師はほとんどいません。各薬剤師が自発的に参加する講習会になっていますし、幸いにも新たな吸入薬や吸入デバイスが出た際に講習会の開催を求められるようにまでなりました。 
薬剤師の吸入指導のレベルのばらつきを最低限のレベルで平準化しようと始めた認定制度ですが、地域の薬局・薬剤師の吸入指導以外のスキルの底上げにもつながっていると感じています。新型コロナウイルス感染症の感染拡大時には、不自由な状況下での吸入指導をテーマに議論も行いました。認定制度や講習会など、全員で検討する土壌が育っていたことによって、感染拡大時であっても右往左往することなく、患者さんへ適切に服薬指導ができたと思っています。

― これらの取り組みが小児に対する吸入指導連携にもつながったとうかがいました。

秋山先生 : 我々の吸入指導連携の取り組みを耳にされた沼津市立病院の小児科の医師が「乳児や幼児、小児にも応用したい」と仰ってくださいました。沼津市に隣接する御殿場市や裾野市の基幹病院には小児科がなく、喘息の小児に対する吸入指導を課題としていたそうです。医師や病院薬剤部と相談しながら、すでにあった大人用の吸入指導依頼箋に改良を加え、運用を開始しました。 
また、沼津市立病院で2022年8月から、白内障手術が日帰り手術に変更され、それに伴い手術後の薬剤が院外処方になり、点眼指導連携がスタートしました。病院側も吸入指導連携の実績があったからこそ信頼して任せてくれましたし、我々も点眼指導連携をスムーズに導入することができました。

曽根先生 : 子どもにとって自力で吸入薬を使用することは難しく、またご両親も吸入方法や吸入デバイスの扱い方を理解するのは簡単ではありません。嫌がる子どもに無理やり吸入させてしまうと治療自体が怖いものとして理解されてしまいます。小児の吸入指導連携を始めた頃は常に手探りで、私自身の子どもをモデルとして吸入指導の動画を製作するなど、試行錯誤を繰り返しました。ただ、そのときに悩んだ経験が、補助具の使い方の説明など大人への吸入指導に役立ったこともありました。 
また、大人への吸入指導連携が小児への吸入指導連携につながり、点眼指導連携まで波及したように「沼津薬剤師会は連携に熱心で、相談すれば新たな取り組みができるのではないか」と医師や病院薬剤部に認識してもらえているのではないかと思っています。

― 患者さんと密接なやり取りが求められる吸入指導に関する取り組みをはじめとして、かかりつけ薬局・薬剤師についてどのようなことを意識されていますか。

秋山先生 : 処方箋を受け取ってお薬をお渡しするだけでなく、自分から患者さんへ距離を近付け、薬剤師である「私」を必要としてもらえるよう意識しています。吸入指導をきっかけとして「かかりつけ薬剤師になってもらいたい」と仰っていただいたこともありました。私も薬剤師としてのキャリアを重ね、ひと通りの疾患にひと通りの対応ができるようになりました。今後はその経験を踏まえ、この地域で暮らす医療的ケアが必要なお子さんや希少疾病の患者さんの力になりたいと考えています。 
さらに、かかりつけ薬局・薬剤師としての取り組みを発展させ、在宅訪問にも注力していきたいです。自宅に他人を招くことは患者さんにとってストレスでしょうし、他人のお宅に上がることは私にとっても少なからず心理的なハードルを感じます。このようなお互いの距離を縮め、医師の診察を受ける前に「あなたの意見を聞きたい」と言ってもらえるような関係性を構築していきたいと考えています。 

曽根先生 : 個人的な意見として、かかりつけ薬局・薬剤師は、そうなろうと思うものではなく、気付いたらそうなっているものではないかと思います。処方箋を受け取ってお薬をお渡しするだけではなく、病気で悩まれている患者さんの話に耳を傾け、真摯に向き合っていれば、自ずと患者さんの信頼を得られるはずです。たとえば、他の薬局で薬を調剤してもらったにもかかわらず、私のもとを訪れて「いま、そこの薬局でこのお薬を受け取ったのだけど、飲み合わせについて教えてほしい」といった相談を受けることがあります。なぜその場で聞かなかったのかと思うと同時に、私への信頼を得られていると嬉しくも思います。 
かかりつけ薬局・薬剤師ではなくとも、同じように患者さんに真摯に向き合っている先生はたくさんいらっしゃるでしょう。かかりつけ薬剤師制度を利用することで患者さんの負担だけが増してしまうというのは本末転倒です。評価や点数につながるからではなく、患者さんや地域住民のためになるから、という姿勢であれば、自ずと答えが出るのではないかと思っています。

|COPD診療サポート資材のご案内

COPD患者さんやスピオルト®レスピマット®吸入患者さんのために各種充実したサポート資材をご提供しています。

|お勧め指導箋のご紹介-「吸入ダイアリー」

[ 資材コード: 015303] 
吸入ダイアリーが改訂されました。 
1日の歩数や息切れの有無など日々の行動・感じたことを記録し、自分の状態の変化を把握することは、患者さんにとって重要です。 
また、医療者にとっても、患者さんに最善の治療を提供するための大切な情報源になります。患者さんにお渡しいただき、吸入指導や患者さんとのコミュニケーションにお役立てください。

Point

改訂版では、症状が改善したらやってみたいことなど、目標を記入する欄を新たに設けました。
「散歩できるようになりたい」「旅行したい」といった具体的な目標を書き出すことは、患者さんにとって前向きに治療を続けていく「やる気」につながります。病気だから…と諦めることなく、やりたいことを記入してみるよう、勧めてみてください。

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