Essential for Health Care Providers第12回

サイトへ公開: 2023年01月30日 (月)

【第1回】管理目標を見据えたCOPD診療
― 日常診療に取り入れたい身体活動性の目標値設定 ―

【第1回】管理目標を見据えたCOPD診療  ― 日常診療に取り入れたい身体活動性の目標値設定 ―

2022年6月に『COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版』が発刊されました。本コンテンツでは、全2回にわたり第6版作成委員会 主任編集委員の東北大学病院 杉浦 久敏 先生に、ガイドライン第6版の改訂ポイント、および改訂ポイントを踏まえた今後のCOPD診療におけるヒントを伺います。第1回は改訂ポイントとして “COPDの管理目標”および、管理目標の達成を見据えたCOPD診療において重要な、身体活動性の目標値設定についてご解説いただきました。

【まとめ】

  • ガイドライン第6版では管理目標を更新し、 “疾患進行の抑制および健康寿命の延長”を追加した
  • COPDの管理目標達成を目指すうえで、身体活動性に着目している
  • COPD患者さんの身体活動性の向上・維持のためには、一人ひとりの状況に合った具体的な身体活動(歩数)の目標値を提示してあげることが大切だと考えられた
  • COPD患者さんの年齢、mMRC、および最大吸気量(IC)の値から、1日の歩数標準値を算出できる簡易歩数予測式を開発した
  • さらに、忙しい診療の中で患者さんに歩数目標値を的確かつリアルタイムに提示できるよう、目標値設定アプリを作成した
  • 今後、目標値設定アプリを活用いただくことによって、COPD患者さんおよびかかりつけ医の先生方に身体活動性をより身近に感じていただきたい

Q. ガイドライン第6版において“COPDの管理目標”が更新された背景は?

ガイドライン第6版では管理目標を更新し、将来リスクの低減として“疾患進行の抑制および健康寿命の延長”を追加しました1)
前半の“疾患進行の抑制”を追加した背景には、禁煙や薬物療法によって患者さんの予後、つまり増悪頻度や生命予後、呼吸機能の経年低下といった指標が改善しうるというエビデンスが数多く蓄積されてきていることがあります。
また、後半の“健康寿命の延長”を追加した背景には社会の高齢化があります。ご存じのように超高齢社会を迎えている我が国において、健康寿命は、医療、行政、経済といったあらゆる面から重要視されています。そうした中、COPD患者さんにおいても、他疾患同様に健康寿命をいかに長く保つかということをひとつのキーワードとして今回の改訂で取り上げました。

ガイドライン第6版において“COPDの管理目標”が更新された背景は?

Q. “COPDの管理目標”達成を目指すうえで臨床的に重視していることは?

実臨床においては、患者さんの身体活動性の向上・維持を重視しています。
身体活動性は、COPDの最も重要な予後規定因子である2)として近年着目されています。身体活動性の“疾患進行の抑制”や“健康寿命の延長”に対するエビデンスはまだ出そろっていないのが現状です。一方で、身体活動性の向上・維持は、COPD患者さんの陥りがちなフレイルなどの悪循環3)の回避、COPD症状の改善やQOLの向上4)といった臨床的なメリットにつながると考えられます。このことから、COPD診療においては、身体活動性の向上・維持による臨床メリットを念頭に置き、管理目標の達成を目指していくことが重要であると考えています。

Q. COPD患者さんの身体活動性向上・維持における実臨床の課題とは?

身体活動性を向上・維持することが重要と分かっていても、実臨床で患者さんにどう指導すればよいか分からない、という先生方も多いのではないでしょうか。実際に私も、身体活動性の向上・維持の大切さについて患者さんへお話しするだけでは、患者さんに対する有用な生活指導にはならないという課題を感じていました。
そこで着目したのが患者さんに対する具体的な目標値の設定です。目標値を設定するにあたり、“歩数”は、患者さんおよびかかりつけ医の先生にとても分かりやすく、測定が簡便な指標であると考えました。しかし、適切な歩数は、患者さんのその時々の状況、たとえば、職業の有無や種類、天候・季節等々によって変わってきます。そのため、これらを加味した患者さん一人一人の目標値を提示してあげることが大切です。
このような背景から、独立行政法人国立病院機構和歌山病院 院長の南方良章先生が中心となり、COPD患者さんの日々の歩数標準値を算出できる簡易歩数予測式の開発に着手しました。

Q. COPD患者さんの簡易歩数予測式の開発を行った研究内容および目標値設定アプリの今後の活用への期待は?

歩数予測式の開発を目的とした本研究5)では、東北大学を含む日本の5施設からCOPD患者さん162例がエントリーしました。
まず、COPD患者さんの歩数を3軸加速度計で測定しました。続いて、歩数と関連のある因子を同定するため、年齢、性別、症状、呼吸機能検査値などのパラメータを検討しました。その結果、歩数に関連する因子として、年齢、息切れの程度であるmMRC、および最大吸気量(IC)が抽出されました。そして、これら3項目を変数とした以下の簡易歩数予測式を作成しました。

COPD患者さんの簡易歩数予測式の開発を行った研究内容および目標値設定アプリの今後の活用への期待は?

この簡易歩数予測式を使用した具体例として、「年齢:70歳、mMRC:1点、IC:2L」のCOPD患者さんの場合、1日の歩数標準値は「3,498歩」と算出されます。
しかし、この数式は先生方が実臨床で用いるには複雑です。そのため、忙しい診療の中で患者さんに目標値を的確かつリアルタイムに提示できるよう、1日の歩数目標値が自動計算できる目標値設定アプリを作成しました6)
簡易歩数予測式や目標値設定アプリについてはガイドライン第6版にも掲載しています。今後は、こうしたツールがCOPDの実臨床へ広まることを期待しています。
COPD患者さんには、日常的に身体活動性に留意していただくことが重要です。たとえば、高血圧患者さんが日々の血圧を気にされるように、COPD患者さんには歩数を身近な指標として日々チェックしていただけるようになればよいと思っています。
また、われわれ専門医に加え、COPD患者さんの大部分を診療されている非専門医の先生方にもぜひ、日常診療でアプリをご活用いただき、患者さんのQOLや予後などに関わる身体活動性というものを身近に感じていただければと思います。

日本人COPD患者さんにおける呼吸機能および身体活動性について検討されているスピオルト®

SCOPE®試験も日本人COPD患者さんを対象としたスピオルト®の臨床試験のひとつです。本試験では、未治療の日本人COPD患者さんにスピオルト®またはスピリーバ®のいずれかを1日1回12週間吸入投与し、呼吸機能と身体活動性の観点からスピオルト®の有効性を評価しました。

日本人COPD患者さんにおける呼吸機能および身体活動性について検討されているスピオルト®

主要評価項目である12週後のFEV1のベースラインからの変化量は、スピオルト®群242.8mL、スピリーバ®群104.1mLであり、スピオルト®群で有意な改善が検証されました。

日本人COPD患者さんにおける呼吸機能および身体活動性について検討されているスピオルト® 02

また、息切れの指標であるTDIスコアは、12週後においてスピオルト®群2.4、スピリーバ®群1.5であり、スピオルト®群で有意な改善を示しました。

日本人COPD患者さんにおける呼吸機能および身体活動性について検討されているスピオルト® 03

12週後の身体活動性のベースラインからの変化量はご覧のとおりです。近年、COPDの身体活動性の中のセデンタリー行動(臥位や座位などの静的な行動)が注目されています。セデンタリー行動時間の延長は、COPD患者さんの再入院や認知障害のリスクと関連するだけではなく、COPD死亡の独立した危険因子であることが報告されています7-9)。本試験において、セデンタリー行動に相当する1.0~1.5METsの1日における変化量は、スピリーバ®群-4.6分に対し、スピオルト®群-38.7分でした。平均歩数の1日における変化量は、スピリーバ®群+37.6歩に対し、スピオルト®群+168.1歩でした。

日本人COPD患者さんにおける呼吸機能および身体活動性について検討されているスピオルト® 04

有害事象はスピリーバ®群37例中9例(24.3%)、スピオルト®群37例中11例(29.7%)に発現しました。主なものはスピリーバ®群、スピオルト®群でそれぞれ上気道感染2例(5.4%)、1例(2.7%)、咳嗽2例(5.4%)、4例(10.8%)などでした。治療薬による有害事象はそれぞれ4例(10.8%)、3例(8.1%)に発現しました。
なお、本試験において、重篤な有害事象は両群ともに認められず、投与中止例および死亡例については論文中に記載がありませんでした。

日本人COPD患者さんにおける呼吸機能および身体活動性について検討されているスピオルト® 05

COPDの管理目標の達成を目指し、COPD患者さんの身体活動性について検討されているスピオルト®をぜひお役立てください。

【引用】

  1. 日本皮膚科学会膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン作成委員会.日皮会誌. 2015; 125: 2211-57.
  2. Griffiths CEM. et al. Lancet. 2021; 397: 1301-15.
  3. Samotij D. et al. Int J Mol Sci. 2021; 22: 9048.
  4. Schön M, et al. Front Immunol. 2018; 9: 1323.
  5. Marrakchi S. et al. Am J Clin Dermatol. 2022; 23(Suppl 1): 13-9.
  6. Johnston A. et al. J Allergy Clin Immunol. 2017; 140: 109-20.
  7. Queen D. et al. Front Cell Dev Biol. 2019; 7: 317.
  8. Marrakchi S. et al. Am J Clin Dermatol. 2022; 23(Suppl 1): 13-19.
  9. Sugiura K. Dermatol Ther (Heidelb). 2022; 12: 315-328. 
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