日本呼吸器学会プロジェクト「木洩れ陽 COMORE-By2032」第2回

サイトへ公開: 2024年01月30日 (火)

“診断率向上と適切な治療介入”におけるプライマリケア医の役割とは

本シリーズでは、全2回にわたり一般社団法人 日本呼吸器学会 閉塞性肺疾患学術部会の室 繁郎 先生より、“COPD死亡率減少”を目指す日本呼吸器学会のプロジェクト、「木洩れ陽 COMORE-By2032」についてお話しいただきます。今回は、本プロジェクトの概要を踏まえたCOPD診断率向上と適切な治療介入、地域専門医や多職種との連携について伺いました。ぜひ、ご覧ください。

【まとめ】

  • プライマリケアの先生には、COPDの早期発見、および、その後の薬物治療・生活指導・併存疾患の管理による積極的な治療介入をお願いしたい
  • 紹介が必要な患者には、プライマリケアの先生からその理由を説明し、地域専門医への連携を促してほしい
  • 薬剤師との連携では、吸入指導を依頼して終了ではなく双方向の連携が重要である
  • スピオルト®は、未治療の日本人COPD患者における呼吸機能および身体活動性について検討されている

令和5年5月31日に厚生労働省から「健康日本21(第三次)」を推進する上での基本方針が公表され、COPDでは死亡率減少が目標とされました1。日本呼吸器学会では、この目標を達成するためのプロジェクトとして、Project for COPD MOrtality REduction BY 2032(COMORE-By2032、日本呼吸器学会COPD死亡率減少プロジェクト・通称 木洩れ陽2032)を立ち上げました2。 
本コンテンツでは、このプロジェクトの目的である“COPDの死亡率減少”を実現するために重要となる、診断率向上や適切な治療介入、診療連携のポイントについて、一般社団法人 日本呼吸器学会 閉塞性肺疾患学術部会の室 繁郎 先生(奈良県立医科大学 呼吸器内科学講座 教授)に伺いました。

COPD診断率の向上と適切な治療介入 ~プライマリケア医の役割とは~

「木洩れ陽 COMORE-By2032」では、死亡率減少までのプロセスを、「早期受診の促進」と「診断率の向上と適切な治療介入」の大きく2ステップに分けて提示しました(図1)。 
ここでは、プライマリケアの先生方に向けて、死亡率減少を達成する上での診断、適切な治療介入のポイントをご紹介します。

図1

COPDの診断率向上の観点から

COPDは多くの未診断患者さんが潜在しているといわれる中で3、プライマリケアの先生方には、やはり早期発見をお願いしたいと思っております。 
たとえば、「痰が絡みやすい」、「風邪をひきやすい」、「風邪をひくと症状が強い」などの所見があり、現在あるいは過去に喫煙習慣があったような方であれば、ぜひCOPDの可能性を疑っていただき、診断に進めていただきたいと思います。 
また、COPDの確定診断のためには、呼吸機能検査を行っていただくことをぜひお願いしたいと思います。ただし、ご施設での実施が難しい場合もあると思います。そのようなときに活用できるものとして、日本呼吸器学会がコロナ禍に発表した『COVID-19流行期日常診療における慢性閉塞性肺疾患(COPD)の作業診断と管理手順』4があります。呼吸機能検査なしに、問診票等による診断手順が示されていますので、まずはこうしたものを利用していただきつつ、適切なタイミングにて専門医に紹介していただきたいと考えております。

適切な治療介入の観点から

COPDの治療介入にはさまざまな側面があり、薬物治療はもちろんのこと、基本対策となる禁煙、そして運動、栄養管理など、いわゆる全般的な生活指導が必要です。また、COPDの患者さんは、糖尿病や心血管疾患などの併存症を有している場合があります5。プライマリケアの先生方には、このような生活指導や併存疾患の管理を含めたご対応をお願いしたいと考えております。 
また、吸入療法を中心とした薬物治療においては、単剤療法だけでなく、LAMA/LABAやLAMA/LABA/ICSも選択肢に入れていただき、ガイドラインに沿って重症度に合わせた吸入薬の使い分けをお願いしたいと思います。

地域の呼吸器専門医との連携

プライマリケアの先生方には、専門医へ紹介が必要な患者さんに対して、その具体的な理由をご説明いただきたいと思います。その際には、特に疾患に関する情報、検査や診断等を専門医に委ねなければいけない理由について事前に説明をいただければと思います。 
私たち専門医は受け手側のため、患者さんに来ていただかないことには治療介入することができません。そのため、先ほどのような内容を患者さんに共有していただき、地域専門医による治療介入に積極的につなげていければと考えています。

COPD治療における多職種連携 ~薬剤師との連携を中心に~

COPDでは、薬剤師さん、看護師さんのみならず、理学療法士さんによる身体活動性の向上・維持を目的とした包括的な呼吸リハビリテーションの実施、栄養士さんによる栄養指導など、多職種による介入が必要になる場合があります。 
その中で、特に薬剤師さんは、吸入指導を医師の代わりに担っていただくなど、診療に関与していただく部分が大きいと感じています。 
私は、医師から薬剤師さんへ吸入指導を依頼することで、いくつかのメリットがあると考えています。 
たとえば、限られた診療時間の中で、医師が本来行いたい疾患説明などの業務に時間を割けるということがあります。また、患者さんが医師には遠慮して言えなかった情報、たとえば「デバイスが扱いにくい」、「吸入すると咳が出てうまく吸えない」といったことを、薬剤師さんには伝えてくれることがあります。こうした情報が私たち医師にフィードバックされることで、より良い治療の選択につながると考えています。 
また、吸入薬に関する情報に限らず、患者さんが医師には伝えていなかったさまざまな情報を薬剤師さんにお話しされることがあります。たとえば、「実は風邪をひいていた」ということを、薬剤師さんを通して医師が知ることで、増悪を発見できることがあります。 
以上を踏まえ、患者さんにとってより良いCOPD診療を行うためには、吸入指導を薬剤師さんに依頼して終了ではなく、その後のフィードバックまで行うといった、双方向の連携が重要であると考えています。

最後に、日本呼吸器学会として「木洩れ陽 COMORE-By2032」にかける思いを伺いました

COPDは「健康日本21(第二次)」において、がん、循環器疾患、糖尿病と並び、対策を必要とする主要な生活習慣病と位置付けられました6。このことは非常に嬉しく思いますが、ほかの疾患と比べると、COPDはまだまだ注目を浴びていない疾患であると感じています。 
実際、第二次におけるCOPDの認知度向上という目標は未達でした7。さらに、第二次の最終評価報告書にて、自治体を対象に今後重点的に取り組みたい領域についてアンケート調査を行った結果が掲載されています。ご覧のとおり、がん、循環器疾患、糖尿病ではそれぞれ3~6割の自治体が取り組みたいと回答していたのに対し、COPDに取り組みたいと回答した自治体は都道府県で2.1%、市区町村で0.9%でした(図2)。

図2

こうした現状を、私たちは打破したいという思いがあります。そこで、COPDにまずは木洩れ陽が差し込み、いずれは太陽の光が燦々と降り注ぐような領域にしたいという期待を込めて、「Project for COPD MOrtality REduction BY 2032」の頭文字を取って「COMORE-By2032」、通称:木洩れ陽2032と命名しました。 
ぜひ、このプロジェクト名を多くの方に覚えていただき、今後の私たちの活動に関心を向けていただくことで、呼吸器専門医だけでなく、非専門医、自治体、薬剤師等々、ステークホルダーが一丸となってCOPD患者さんの健康寿命の延伸と死亡率減少を目指していきたいと考えています。


スピオルト®データ

未治療の日本人COPD患者さんにおける呼吸機能および身体活動性について検討されているスピオルト® 
身体活動性は、COPDの最も重要な予後規定因子である8として近年着目されています。 
スピオルト®は、未治療の日本人COPD患者さんを対象に、呼吸機能と身体活動性の観点から有効性を評価したSCOPE®試験が行われています。 
本試験では、未治療の日本人COPD患者さんにスピオルト®またはスピリーバ®のいずれかを1日1回12週間吸入投与しました。

主要評価項目である12週間後のFEV1のベースラインからの変化量は、スピオルト®群242.8mL、スピリーバ®群104.1mLであり、スピオルト®群で有意な改善が検証されました。

また、息切れの指標であるTDIスコアは、12週間後においてスピオルト®群2.4、スピリーバ®群1.5であり、スピオルト®群で有意な改善を示しました。

12週間後の身体活動性のベースラインからの変化量を、強度別に検討した結果はご覧のとおりです。 
近年、COPDの身体活動性においてセデンタリー行動(臥位や座位などの静的な行動)が注目されています。本試験において、セデンタリー行動に相当する1.0~1.5METsの1日における平均変化量は、スピリーバ®群-4.6分に対し、スピオルト®群-38.7分であり、平均群間差は34.1分でした。一方、2.0METs/日以上、3.0METs/日以上の平均変化量の平均群間差は、それぞれ2.5分、2.7分でした。

有害事象はスピリーバ®群37例中9例(24.3%)、スピオルト®群37例中11例(29.7%)に発現しました。 
主なものは上気道感染2例(5.4%)、1例(2.7%)、咳嗽2例(5.4%)、4例(10.8%)などでした。治療薬による有害事象は4例(10.8%)、3例(8.1%)に発現しました。 
なお、本試験において、重篤な有害事象は両群ともに認められず、投与中止例および死亡例については論文中に記載がありませんでした。

今回ご紹介した内容を先生方の日常診療の参考としてお役立ていただければ幸いです。

【引用】

  1. 厚生労働省:「健康日本21(第三次)」を推進する上での基本方針を公表します
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33414.html (2023年10月閲覧)
  2. 日本呼吸器学会:健康日本21(第三次)日本呼吸器学会プロジェクト「木洩れ陽 COMORE-By2032」
    https://www.jrs.or.jp/kenkou21/(2023年10月閲覧)
  3. 日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会 編:COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版. 2022, p.14.
  4. 日本呼吸器学会:COVID-19流行期日常診療における慢性閉塞性肺疾患(COPD)の作業診断と管理手順
    https://www.jrs.or.jp/covid19/assemblies/old/20210108191206.html(2023年10月閲覧)
  5. 日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会 編:COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版. 2022, p.35.
  6. 日本呼吸器学会:健康日本21(第三次)「COPD死亡率減少」に向けた呼吸器学会からの提言
    https://www.jrs.or.jp/kenkou21/old/20230531000000.html (2023年10月閲覧)
  7. 厚生労働省:最終評価報告書 第3章(I~II4)
    https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000998790.pdf(2023年10月閲覧)
  8. Waschki B, et al.Chest.2011;140(2):331-342.
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