COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版 改訂ポイントとその背景は? 第1回
![柴田 陽光 先生](/jp/sites/default/files/inline-images/thumbnail_780-408%20%281%29.jpg)
2022年5月に『COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版』のWeb版が発刊されました。
第1回である今回は、第6版作成委員会委員長の福島県立医科大学 柴田 陽光 先生に、第Ⅲ章「治療と管理」における改訂ポイントを中心に、COVID-19流行期のCOPD診療についてもご解説いただきます。
【まとめ】
- 『COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版』第Ⅲ章「治療と管理」における主な改訂点1)
- 管理目標の更新
- 安定期管理アルゴリズムの更新
- 吸入指導の項目の追加
- プライマリケア医、呼吸器専門医の役割の明確化
- 本版では、呼吸機能検査なしでCOPDを診断する『COVID-19流行期 日常診療におけるCOPDの作業診断と管理手順』(日本呼吸器学会)を掲載した
管理目標
本版では、禁煙と薬物治療が呼吸機能の低下を抑制するエビデンス等を反映し、COPDの管理目標に“疾患進行の抑制および健康寿命の延長”を追加しました。
また、全身併存症および肺合併症については、第5版ガイドラインでは“将来のリスクの低減”として、その予防・診断・治療が目標として定められていました。一方、本版では、全身併存症および肺合併症の診断・評価・治療は、“将来リスクの低減”に加え、“現状の改善”にもつながるものと位置付けました。
![管理目標](/jp/sites/default/files/inline-images/slide01_17.jpg)
安定期の管理―安定期COPD管理のアルゴリズムー
本版では、“安定期COPD管理のアルゴリズム”が大きく変わりました。
今回の改訂のポイントは次の2つです。
- 薬物療法のアルゴリズムを、患者全体を喘息病態非合併例と合併例に分けて記載
- 新たにLAMA/LABA/ICS配合薬、マクロライド系抗菌薬の位置付けを提示
上記のLAMA/LABA/ICS配合薬の位置付けについては、喘息病態合併例に加え、「頻回の増悪かつ末梢血好酸球増多例においてICSの追加併用を考慮する」としました2)。ただし、「喘息病態非合併患者で、ICSを追加した際の効果判定は重要」であり、「安易なICSの追加を避ける」と記載があります。また、「無効あるいは副作用発症患者は中止を検討する」として、“LAMA+LABA+ICS”から“LAMA+LABA”へとステップダウンの矢印が向いています。
![安定期の管理―安定期COPD管理のアルゴリズムー](/jp/sites/default/files/inline-images/slide02_%E6%9C%80%E7%B5%82%E7%89%88%E4%BF%AE%E6%AD%A3.jpg)
なお、LAMA/LABA併用療法の位置付けについても変更がありました。
これまでの第5版ガイドラインでは、「単剤で不十分な場合は、LAMA、LABA併用とする」3)とされていました。
本版では、単剤療法からのステップアップに加え、初期導入について言及しており、「症状が強い、あるいは、身体活動性が損なわれている場合には、初期導入としてのLAMA/LABA配合薬は許容される」と解説しています。また、“症状が強い”の基準として、具体的に「mMRC呼吸困難スケール2グレード以上またはCAT20点以上」と示しました。
![安定期の管理―安定期COPD管理のアルゴリズムー02](/jp/sites/default/files/inline-images/slide03_16.jpg)
安定期の管理―吸入指導―
本版では、吸入療法はCOPD管理の根幹をなすという考えのもと、薬物療法に“吸入指導”の項目を新たに追加しました。
本項では、吸入療法をより効率的に行うために、患者に適した吸入デバイスを選択することや、吸入手技やアドヒアランスに対する患者教育の重要性について言及しています。また、pMDI製剤、SMI製剤、DPI製剤の各デバイスの特性や吸入指導の実際なども記載しました。
![安定期の管理―吸入指導―](/jp/sites/default/files/inline-images/slide04_14.jpg)
COPDの病診連携―プライマリケア医、呼吸器専門医の役割―4)
病診連携は、COPD診療の質向上の基軸です。今回の改訂では、病診連携におけるプライマリケア医および呼吸器専門医の役割についてより詳しく解説することで、COPDの早期発見および診断率が向上し、連携が円滑になるよう配慮しました。
新興感染症流行とCOPD5)
本版では、COVID-19の流行期において、COPD患者の感染予防対策やPCR検査、感染した場合のCOPD治療やリハビリテーションなどについて、どのように行っていくべきかを示しました。
また、これまでCOPDの確定診断には呼吸機能検査を必須としていましたが、COVID-19流行期は多くの医療施設において呼吸機能検査の実施が困難な状況になっています。そのため、本版では、「地域におけるCOVID-19罹患率が高いときには、呼吸機能検査は緊急性・必要性が高い場合を除き、その実施を最小限とする」とし、呼吸機能検査なしでCOPDを診断する『COVID-19流行期 日常診療におけるCOPDの作業診断と管理手順』(日本呼吸器学会)を掲載しました。
![新興感染症流行とCOPD](/jp/sites/default/files/inline-images/slide05_14.jpg)
今回は、2022年5月にWeb版が発刊された『COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版』の中から、第Ⅲ章「治療と管理」の改訂ポイントとCOVID-19流行期のCOPD診療について解説しました。ご紹介した内容が、先生方の日常診療の指針として役立てば幸いです。
【引用】
- 日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会 編: COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版. 2022, p.XI-XII.
- 日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会 編: COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版. 2022, p.96.
- 日本呼吸器学会COPDガイドライン第5版作成委員会 編: COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第5版. 2018, p88.
- 日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会 編: COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版. 2022, p.168-173.
- 日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会 編: COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版. 2022, p.264-266.