診療ナビゲーターが伝える、より効率的なCOPDの全身管理

サイトへ公開: 2021年10月22日 (金)

2021年6月7日(月)18:00~18:45開催 COPD Virtual Lecture記録集
松永 和人 先生(山口大学大学院医学系研究科 呼吸器・感染症内科学講座 教授)

COPD Virtual Lecture記録集 松永 和人 先生

2021年6月7日に行われたCOPD Virtual Lectureの内容をダイジェストでご紹介します。
今回は、COPD診療についてより効率的な全身管理を適えるためのポイントを「診断と初回治療」、「フォローアップの評価」、「併存疾患の評価」の3つのパートに分けて解説します。

1. 診断と初回治療

COVID-19流行期におけるCOPD診断
COPDの確定診断は通常、スパイロメトリーを用いて行います。一方、COVID-19流行期では、スパイロメトリーを行うことが難しい施設も増えているのではないかと考えられます。
このような状況下において、2021年1月に日本呼吸器学会の閉塞性肺疾患学術部会は『COVID-19流行期日常診療におけるCOPDの作業診断と管理手順』1)を提案しています。

COVID-19流行期におけるCOPD診断

初回治療開始時における薬剤選択の基準
COPDと診断後、初回治療を開始するにあたり、LAMA単剤とLAMA/LABAのどちらで治療を開始すべきか悩まれる先生も多いのではないでしょうか。
私は、薬剤選択の際、「mMRC質問票」の息切れスケールを参考にしています。このスケールは一般臨床で使いやすい基準のひとつです。
このmMRC質問票について、われわれが行った日本の専門施設に通院中のCOPD患者さん1,168名を対象にしたCAP studyの結果をご紹介します2)。本調査で、息切れレベルと気流閉塞の関連を調査した結果、息切れレベルが進行するに伴い、%FEV1がおよそ10%ずつ低下していました。なお、mMRC 2は%FEV1が55%となりますので、「mMRC 2でもかなり呼吸機能は落ちているな」と考えることができます。
ここで重要なポイントは、mMRC 2以上の息切れがあれば、95%ぐらいの方は中等症以上の気流閉塞があるということです。日常臨床で、呼吸機能検査が難しい場合でも、mMRC 2以上、つまり平地歩行で息切れを感じるのであれば、中等症以上の気流閉塞があると想起してください。

初回治療開始時における薬剤選択の基準

日本人未治療COPD患者に対するLAMA単剤とLAMA/LABA配合剤の比較:SCOPE試験
ここで、佐賀大学の髙橋先生らのグループが未治療の日本人COPD患者さんを対象に実施したSCOPE試験の結果をご紹介します3)。本試験では、FEV1と息切れ(TDIスコア)について、LAMA/LABA配合剤スピオルト®とLAMA単剤スピリーバ®の有効性を比較しました。

日本人未治療COPD患者に対するLAMA単剤とLAMA/LABA配合剤の比較:SCOPE試験

主要評価項目である12週後のFEV1のベースラインからの変化量は、スピリーバ®と比較してスピオルト®で有意な改善が検証されました。また、スピオルト®はスピリーバ®と比較して息切れ(TDIスコア)においても有意に改善しました。

日本人未治療COPD患者に対するLAMA単剤とLAMA/LABA配合剤の比較:SCOPE試験02

有害事象はスピリーバ®群37例中9例(24.3%)、スピオルト®群37例中11例(29.7%)に発現しました。主なものは上気道感染2例(5.4%)、1例(2.7%)、咳嗽2例(5.4%)、4例(10.8%)などでした。治療薬による有害事象は4例(10.8%)、3例(8.1%)に発現しました。
また、本試験において、重篤な有害事象は両群ともに認められず、投与中止例および死亡例については論文中に記載がありませんでした。

日本人未治療COPD患者に対するLAMA単剤とLAMA/LABA配合剤の比較:SCOPE試験03

SCOPE試験の対象は、GOLD2の中等症患者さんが84%を占めていました。このような中等症が多くを占める集団において、スピオルト®の有効性が確認されたことからも、初回治療開始時にはmMRC質問票を実施し、2以上であればLAMA/LABAで治療を開始することをご検討いただきたいと考えます。

2. フォローアップの評価

COPD患者の生命予後と臨床指標の関連
続いて、治療開始後のフォローアップの期間に私たち医師が考慮すべき生命予後とリスク管理について、解説していきたいと思います。
まず、生命予後には、COPDの数ある臨床指標のうち、どのパラメータが関連しているのでしょうか。
ドイツの生命予後とCOPDの臨床指標の関連を検討した報告では、日常活動レベル、1日の総歩数といった身体活動性が生命予後に関するリスクファクターであることが示されました。

COPD患者の生命予後と臨床指標の関連

mMRC質問票の課題
しかし、日常診療において、患者さんの身体活動性の低下を捉えることは、それほど容易ではありません。
こちらは、三軸加速度計を用いて、安定期COPDの患者さん98名を対象に身体活動性を調査した結果です4)。1日あたりの活動量が1.5METs・hour以下の場合に身体活動性低下と判定しています。
その結果、全体の約60%の患者さんにおいて、身体活動性が低下していることが分かりました。次にmMRCグレード別に身体活動性が低下している割合をみると、mMRCグレード2以上では、80%前後の患者さんで活動性が低下していました。一方、mMRCグレード0もしくは1というあまり息切れを感じていない患者さんでも、約半数の方で身体活動性が低下していました。
しかしながら、mMRC息切れスケールは、0と1、2と3は症状が類似しており、厳格に層別化して身体活動性低下のリスクを見極めるのは難しいのではないかと考えられました。

mMRC質問票の課題

フレイル合併評価におけるPROMs-D質問票の有用性
そこでわれわれは、簡単な問診票で患者さんの身体活動性の低下を捉えることができないかと考え、PROMs-D(patient-reported outcome measures for dyspnea)質問票を作成しました5)。本質問票は2つのパートに分かれています。
1つ目のパートはmMRCのように「運動負荷による活動制限を評価する呼吸困難スケール」です。こちらでは「呼吸困難のために同年代の人よりもゆっくり歩く」、つまりmMRCグレード2のレベルである平地歩行の息切れに1点、そして「呼吸困難のために自分で外出することができない」、つまりmMRCグレード4の通院に支障が出るレベルに2点を付与しました。
2つ目のパートは、「行動回避による活動制限を評価する呼吸困難スケール」です。患者さんは歩行や運動をすると息切れがおこりますので、行動回避をしてしまいます。そのような行動回避によって潜伏してしまう恐れのある息切れ症状を捉えるために、「呼吸困難のために着替えや入浴を面倒だと感じる」に1点、そして「呼吸困難のために必要な時以外は着替えたり入浴したりしない」という訴えに2点を付与しました。
このようにPROMs-Dという、スコアを0から4点までの5段階に分けるような新たな呼吸困難評価システムを考案しました。

フレイル合併評価におけるPROMs-D質問票の有用性

そして、このPROMs-D質問票を用い、COPD患者さんにおけるフレイル合併の診断について検討を行いました。その結果、本質問票がフレイル合併リスクの評価に有用である可能性が示されました5)。図から明らかなように、PROMs-Dスコアが3点以上であれば、患者さんは100%フレイルであることが分かりました。
一方、PROMs-Dのスコアが0点や1点の場合では、黄色で示しているプレフレイルの患者さんの割合が高くなっていました。

フレイル合併評価におけるPROMs-D質問票の有用性02

以上のことから、COPD治療において薬剤選択をする際には、身体活動性を指標とした臨床試験が実施されているか否かも重視するべきであると考えます。

3. 併存疾患の評価

COPD全身管理を適える3ステップパラレルアプローチ
最後に、併存疾患の評価について解説します。
気管支拡張薬で治療していても、増悪や息切れが残る患者さんは、ご覧のような合併疾患を有する場合があります。そこでわれわれは、COPDのより効率的な全身管理として「3ステップパラレルアプローチ」6)を提唱しています。本アルゴリズムでは、「COPD患者に共通する臨床的特徴」と「併存疾患を有する患者に特異的な臨床的特徴」の2つを並行して評価します。COPD患者さんに共通する息切れや増悪といった通常の臨床的特徴に対するアプローチだけでなく、喘息の特徴、慢性気管支炎、慢性心不全などCOPDに併存しやすい病態に特異的な臨床的特徴についても、初期の段階でアセスメントし治療介入することが、残存する症状や増悪への対応として重要だと考えています。

COPD全身管理を適える3ステップパラレルアプローチ


COPDは、早期に診断して適正な治療を選択し、治療効果を定期的に評価することが重要です。
この治療効果は、息切れ症状だけでなく、身体活動性についても評価することが求められます。
身体活動性と生命予後は関連しているため、COPD治療において薬剤選択をする際には、身体活動性を指標とした臨床試験が実施されている薬剤の結果を参考にすることが重要であると考えます。

引用文献

  1. 日本呼吸器学会:COVID-19流行期日常診療における慢性閉塞性肺疾患(COPD)の作業診断と管理手順
    https://www.jrs.or.jp/modules/covid19/index.php?content_id=12(2021年6月閲覧)
  2. Matsunaga K,et al. Respir Investig. 2015 Mar; 53(2): 82-5.
  3. Takahashi K,et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2020; 15: 2115-2126.
    著者にベーリンガーインゲルハイム社より謝金/報酬を受領した者が含まれる。本試験はベーリンガーインゲルハイム社の支援により行われた。
  4. Hayata A,et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis., 2016 Sep; 11: 2203-2208.
  5. Oishi K, et al. J Clin Med. 2020 Nov; 9(11): 3580.
  6. Matsunaga K,et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2019; 14: 2229–2234.
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