2023 GOLD レポートから考える、COPD 診療のこれから

サイトへ公開: 2023年05月10日 (水)

【第1回】これからのCOPD薬物治療

【第1回】これからのCOPD薬物治療 

これまでのGOLDレポートでは、COPD薬物治療の開始を考えるうえで、増悪頻度と症状の程度からCOPD患者をABCDの4つのグループに分類していました。
今回の改訂では、この4つのうち、増悪頻度の高い場合、具体的には、中等度の増悪歴が2回以上または入院を要する増悪歴が1回以上ある場合(従来のGROUP C・D)は、安定期の症状の程度(mMRC、CATスコア)にかかわらず、GROUP Eとして扱うことになりました。
従来のGROUP C、すなわち安定期に症状を伴わないが増悪を繰り返す、または、入院を要する増悪をきたす患者をグループ化する臨床的な価値は必ずしも大きくなく、増悪に焦点を当てたGROUP C・Dが統合されました。これは実際の臨床にもよく合致した変更と思います。

【まとめ】

  • COPDの初期評価と薬物治療開始のための患者評価ツールが、増悪に焦点を当てた「ABE評価ツール」の3分類に変更された
  • GROUP BおよびGROUP Eでは初期薬物治療の選択肢としてLABA+LAMA併用療法が位置付けられた
  • 吸入デバイスに関する内容が豊富になり、新たに「適切な吸入デバイスの選択のための基本原則」が提案された
【第1回】これからのCOPD薬物治療 02

初期薬物治療における薬剤の位置付け1

今回のレポートでは、初期薬物治療についても改訂がなされています。初期薬物治療の大きな変更点のひとつがLABA+LAMAの位置付けです。
増悪頻度が少なく症状の重いGROUP Bでは、これまで長時間作用型気管支拡張薬(LAMAまたはLABA)の単剤療法が初期治療として位置付けられていました3。しかし、今回の改訂により、LABA+LAMA併用療法が望ましい選択肢であるとされました。
新たな分類のGROUP Eにおいても、増悪抑制の観点から、LABA+LAMA併用療法が初期治療として好ましいと記述されています。また、LABA+LAMAにICSを追加した3剤併用療法を初期治療として考慮する目安もご覧のとおりに示されています。
なお、LABA+LAMAの位置付けについては、日本呼吸器学会による『COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版』においても、「症状が強い、あるいは、身体活動性が損なわれている場合には、初期導入としてのLAMA/LABA配合薬は許容される」4と解説されています。
また、増悪頻度が少なく症状の軽いGROUP Aでは、これまで短時間作用型または長時間作用型気管支拡張薬のいずれかが初期治療として位置付けられていました3。今回の改訂では、これに加え、入手可能で手ごろな価格であれば、息切れがときどきしか出現しない患者を除き、長時間作用型気管支拡張薬が好ましい選択であると記述されています。
さらに、使用する吸入デバイスについても言及があり、LABA+LAMAおよびLABA+LAMA+ICSの併用療法では、単一の吸入デバイスの方が、複数の吸入デバイスによる治療よりも利便性と効果が高い可能性があると記載されています。

初期薬物治療における薬剤の位置付け

吸入デバイスの選択1

本版では吸入デバイスに関する内容が豊富になり、新たに「適切な吸入デバイスの選択のための基本原則」が提案されています。
これらの項目の中で、「使用する吸入デバイスの種類を最小限にすべきである」「患者が吸入デバイスの操作を正しく行うことが可能かどうか評価する必要がある」などは、高齢者が治療薬を選択する際に大切なポイントであると考えます。
高齢者では、吸入デバイスの誤使用やアドヒアランスの低下がみられることが多くあります5。その背景として、「物を大切にする習慣」「視力の低下」「握力の低下」「前歯の欠損や義歯の使用」「理解と行動の不一致」といった高齢者ならではの特性があります5。また、最大吸気量が減少し、吸入力が低下している方もみられます。
COPD治療においては、こうした患者特性とさまざまな吸入デバイスの特徴を勘案したうえで、患者が適切に使用できる吸入デバイスを個々に選択していくことが重要であると考えます。

吸入デバイスの選択

【引用】

  1. Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease:Global Strategy for the Diagnosis, Management, and Prevention of Chronic Obstructive Pulmonary Disease (2023 REPORT).
  2. Venkatesan P.Lancet Respir Med. 2023;11(1):18.
  3. Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease:Global Strategy for the Diagnosis, Management, and Prevention of Chronic Obstructive Pulmonary Disease (2022 REPORT).
  4. 日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会 編: COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版. 2022, p97.
  5. 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会/日本呼吸理学療法学会/日本呼吸器学会:呼吸器疾患患者のセルフマネジメント支援マニュアル,2022.
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