治療支援のカギは患者さんの自信を引き出すこと

サイトへ公開: 2022年05月30日 (月)

薬剤師の在り方が見直されている中、かかりつけ薬剤師として、処方箋調剤にとどまらず、健康相談などの取り組みにも期待が高まっています。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者さんへの治療支援を考える今回は、医師にセルフマネジメントの重要性を、理学療法士に治療における「声掛け」のコツやポイントなどを解説いただきました。

開催年月日:2022年3月31日  開催地:霧ヶ丘つだ病院( 福岡県北九州市)

津田 徹 先生

Doctor
津田 徹 先生
医療法人社団恵友会 霧ヶ丘つだ病院
理事長・院長
患者さんがセルフマネジメントに取り組めるサポートが重要

― COPD治療における患者さんへのセルフマネジメントの有用性について、教えてください。
セルフマネジメントとは、患者さんが病気を理解し、病気を悪化させないように禁煙したり、呼吸リハビリテーションに取り組んだりして、日常の行動を変化させること(行動変容)です。患者さんがセルフマネジメントに取り組むと、予後が良くなるといわれています
COPDの患者さんは、自分がタバコを吸って病気になってしまったから、自分で病気をコントロールすることを諦めている方が多くいらっしゃいます。このような患者さんが、セルフマネジメントに取り組むことにより、息苦しさが減るなどの成功体験をされると、自分で病気をコントロールできると自信(自己効力感)を持ちます。その結果、行動変容につながります。
例えば、COPDの患者さんは、息切れによる死への恐怖や将来への不安を感じており、その不安により息切れがさらに強まります。まず息切れの原因や対処法を知ることで、不安や不安による息苦しさが減ります。また、吸入薬の正しい吸入の方法についても理解すれば、息切れが減り、増悪の回数も少なくなります。このようなことを実感すると、病気がコントロールできているという自己効力感につながります。

日本呼吸器学会・日本呼吸ケア・リハビリテーション学会合同 非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針2021作成委員会(編). 非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針2021. 東京: メディカルレビュー社; 2021.

― COPDの患者さんは、セルフマネジメントの考え方を、いつ、どのように習得することが望ましいのでしょうか。
「習得する」ということは、本人が、呼吸法などを実際にやってみて、息苦しくなくなる、普通に動ける、ということを実感することだと思います。実感を持てるようになると、病気とうまく付き合っているという自己効力感が高まり、行動変容につながります。そのため、早ければ早い方がいいです。
遅くとも、息切れや身体活動性の低下が顕著になるCOPD病期分類のⅢ期までに専門医を受診し、呼吸リハビリテーションを受けて、セルフマネジメントに取り組んでほしいです。
COPD病期分類でⅣ期というのは、基本的に在宅酸素療法(HOT)となりますから、そのタイミングで呼吸リハビリテーションの介入は、やはり遅いと思います。以前は、HOTを導入する際に、教育入院を実施していました。最近は、一般のクリニックでも、容易に開始できるため、呼吸リハビリテーションをせずにHOTを導入していることが増えたように感じます。そのため、呼吸リハビリテーションを知らない患者さんもいるようです。
薬剤師さんにも、COPDの患者さんに呼吸リハビリテーションを受けているかを、服薬指導などで聞いてもらえると助かります。特に、体重が減少し始めたら病気が悪化しやすいので、その時点で呼吸リハビリテーションは絶対に受けてほしいです。

― COPDの患者さんのアクションプランを定期的に見直すことに対して、薬剤師はどのようなサポートができますでしょうか。
薬剤師さんは、服薬のアクションプランについて中心となっていただけるのがよいと思います。
例えば、増悪した際の服薬のタイミングが挙げられます。最近、プライマリ・ケアの先生は抗菌薬の使用を抑える傾向にありますが、COPDの患者さんは呼吸器感染によりCOPDが増悪します。そのため、COPDの患者さんで黄色い膿性痰や発熱がみられる場合は、早めに抗菌薬を使用してほしいです。薬剤師さんにも、患者さんの様子に気を付けていただけるとよいと思います。特に、医師が一般的な患者さんと同様の対応を、COPDの患者さんにしていないか、確認していただければと思います。
もっと言えば、薬剤師さんが中心になって医師とコミュニケーションをとりながら、増悪期のアクションプランを作成していただけるとよいのではないでしょうか。

津田 徹 先生 02

― COPD治療における多職種連携のメリットについてお聞かせください。
COPDの患者さんは、長期にわたり病気と向き合っていかなければなりません。そのため、多職種で様々な角度から患者さんにアプローチしていくことが、やはり重要です。薬剤師さんには薬のプロフェッショナルとして、患者さんに関わっていただけるとよいと思います。
例えば、吸入薬などの服薬のフォローアップは大切だと思います。薬が末梢気道まで届くように、ゆっくり深く吸入できているか、正しく吸入できているか、を確認してほしいです。また、先ほど述べたように体重が減少してきたら、増悪による入院が多くなるので、患者さんの体重には注意していただければと思います。
チームに関わる1人ひとりが専門的な勉強をする、例えば「大学院に通う」「論文の勉強会をする」などにより、論理的な思考ができるようになります。その結果、チーム全体のレベルが上がり、患者さんに対する説明や対処法が良くなり、患者さんから信頼されるようになれば理想的です。
COPDは、患者さんが年齢のせいだと思い、息切れなどの症状に気が付かないで悪化することが多い疾患です。服薬指導の際は、積極的な声掛けをして、確認していただければと思います()。

COPD治療における多職種連携のメリットについてお聞かせください。

津田 徹 先生 監修

池内 智之 先生× 森 駿一朗 先生× 津田 徹 先生

Doctor & Physiotherapist
池内 智之 先生
(医療法人社団恵友会 霧ヶ丘つだ病院 3学会合同呼吸療法認定士
/認定理学療法士(呼吸))
× 森 駿一朗 先生(医療法人社団恵友会 霧ヶ丘つだ病院 理学療法士)
× 津田 徹 先生

治療の成果をデータや言葉で伝える「声掛け」を実践

― 最初に、COPD患者さんからどのような声や相談、質問があるのか教えていただけますか。
池内先生:息切れに対する不安の声をよく聞きます。患者さんはCOPDの症状について「地上で溺れているようだ」と表現されることもあり、息苦しくて動けないことに対する不安や恐怖を的確に表していると思います。また、体を動かすことが難しい患者さんからは、肺のリハビリテーションなのに、なぜ筋力トレーニングをするのか疑問の声もよく耳にします。患者さんにしてみれば、筋力トレーニングは矛盾しているように感じるのかもしれません。そのような患者さんには「肺は元通りに戻りませんが、いまある筋肉を活かすことで、息苦しさを軽減することができるのですよ」などと、肺の病気の治療で筋力トレーニングを行う理由から説明しています。
森先生:息苦しさの原因は、身体を動かさなくなったことによる筋力の低下や、食事量の減少による栄養状態の悪化など、複数あります。また、必要以上の不安な気持ちも、呼吸困難感を増強させると言われています。しかし、息苦しさの原因を酸素がうまく吸入できていないからだと思われている患者さんも多く、症状が改善している他の患者さんを見て「自分はこれだけ酸素を吸入しているのになぜ改善しないのか」という質問や相談もあります。酸素吸入で息切れが改善しない場合は、息の吐き残りがあると考えられます。そこで呼吸リハビリテーションの一環として、口すぼめ呼吸で深呼吸する方法を一緒に行ったりしています。

― 患者さんを指導する際に、心掛けていることやポイントがあればご紹介いただけますか。
池内先生:イラストや動画など、視覚的に理解しやすい資材で説明することを心掛けています。実際に文章だけだと理解できない患者さんでも、イラストがあると理解できることが少なくありません。また、呼吸法などを指導する際、言葉ではなかなか伝わらないことも、動画を見てもらうと理解してもらえることが多くあります。COPDの患者さんは高齢の方が多いため、イラストや動画を多用して分かりやすく説明することが大切です。
森先生:COPDの患者さんには、認知症や高血圧症など併存疾患のある人が多くいます。そこで、例えば高血圧症を併存する患者さんには、ご自身で血圧を測ってもらい、数値を把握してもらっています。運動をしていない平常時でも血圧が高い患者さんであれば、運動療法で注意すべきことが出てきます。そのような患者さんには、ご自身の血圧の把握を通して、身体の状態への意識を高め、全体的な自己管理につなげてもらうことを心掛けています。実際、ご自宅で血圧を測るのが難しい患者さんが多いのですが、外来受診などで血圧を測ったら手帳にメモしてもらうなど、ご自身で血圧を把握することが大切だと伝えています。
指導する際は、患者さんの理解度を確認しながら伝えるようにしています。運動療法では、日常動作を分解して、息苦しくない動作を一緒に行うようにして、息苦しさが減ることを実感してもらいます。また、運動や入浴を行う前に、息苦しさを減らすために吸入薬を吸入してもらうこともあります。
津田先生:COPDの患者さんは少し動いただけで息切れしてしまうために「息が切れてしまう前に行動してしまおう」と急いで動かれる方が少なくありません。休憩を挟みながら、ゆっくり行動するのがよいのですが、患者さんは息切れして動けなくなることが怖いのです。そのような場合、ある特定の場所を目的地として「目的地まで○メートルだから、ここまで歩いて、ここで○分休憩して…」といった行動計画を理学療法士さんと作成すると効果的です。行動計画に沿って動くことで、息切れせずに行動できる方法を習得してもらうようにしています。;

池内 智之 先生

池内 智之 先生

― COPDの患者さんのモチベーションを高めるために、「声掛け」などは意識されていますか。
池内先生:呼吸リハビリテーションの効果が現れていることを、数値化されたデータで示しながら「きちんとできていますよ」と声を掛けてあげることが大切だと思っています。例えば、息苦しさは入院時と退院時で変わっていない患者さんでも、6分間歩行試験で歩けた距離が伸びていたり、酸素飽和度(SpO2)も低下していなかったりして、患者さんは自覚できていなくても、数値にはしっかり現れていることがあります。それを言葉で伝えてあげると、患者さんは喜びますし、これからも続けていこうと思ってくれます。そのような声掛けを通して、成功体験につなげてあげることが大切です。
津田先生:「正しく治療できている」「成果が出ている」ということに気付いていない患者さんが多く、そのことを医療従事者が言葉にして客観的に表現してあげることで、患者さんは初めて理解できるという場合が少なくありません。調剤薬局なら、服薬状況の評価以外に、体重がBMI20以上に維持できているか、COPDアセスメントテスト(CAT)が改善傾向かなども評価してあげるとよいと思います。できていることや、良くなっていることを自覚してもらい、成功体験を重ねるサポートをしてあげることが重要です。

森 駿一朗 先生

森 駿一朗 先生

― 最後に、他職種との連携で重要視されている点や今後の目標をお聞かせください。
池内先生:患者さんの息苦しさの原因を探っていく過程で、吸入薬の服薬状況に疑問を感じることがあります。そのため、患者さんの服薬状況を把握している薬剤師との情報共有が、大切です。また、運動療法にあたり、患者さんの食事量や体重の変化を理解していることも重要ですので、栄養士との連携も多くあります。我々は比較的、患者さんと接する時間が長く、リハビリテーション以外の質問や相談事も多く受けますので、それを医師や看護師、薬剤師に伝える「つなぎ役」であることも意識しています。
森先生:入院中は看護師などの指導によって吸入薬をきちんと服用できていたのが、退院して外来通院になった途端、できなくなってしまう患者さんも少なくありません。こちらから地域の薬剤師と情報を共有することもありますが、我々も患者さんのお薬手帳を確認することがあるので、そこに吸入薬の残量や?秒量の記載があると、患者さんの状態の把握に役立ちます。COPDの治療には呼吸リハビリテーションと吸入薬の両方が大切ですので、これからも薬剤師との連携に積極的に取り組んでいきたいと考えています。

Key points for communication 
服薬指導中に気を付けたい患者さんの反応

服薬指導では、処方薬の適切な使用法や副作用情報などを提供するために色々な工夫をしていると思います。
お薬手帳や薬剤情報提供文書の活用はもちろんのこと、製薬企業が制作する指導箋や、薬局で独自に作成した資料等を使って説明することも多いでしょう。
その際、気を付けたいのが、指導を受けている患者さんの反応です。
薬剤師の説明を聞いている患者さんが、興味を持って聞いているか、理解しているか、などに配慮しながら指導を進める観察力が欠かせません。患者さんの表情や呼吸、声のテンポ、間合い等に注意を払い、心理的な変化を見逃さないことが大切です()。

村尾 孝子 先生

Pharmacist
村尾 孝子 先生
株式会社スマイル・ガーデン 代表取締役
薬剤師
医療接遇コミュニケーションコンサルタント

指導中、患者さんが他のことに気を取られて説明をきちんと聞いていないような場合、そわそわと落ち着きがない様子や、視線が定まらず上の空という様子が見て取れます。高齢の患者さんであれば「はいはい」と繰り返し調子の良い返事をする場合も要注意。専門用語や説明の言葉が難しくて理解できない、うまく聞き取れない、一度にたくさんの説明を受けて覚えられない、細かい文字を読むのが面倒、等々の理由で、ただ聞いているだけ、分かった振りをしている、という場合も少なくありません。そこで、指導の際は一方的に説明するのではなく、常に患者さんの反応に気を配り、状況に応じて指導内容や声掛けを柔軟に変えましょう。説明を聞いていない素振りが見られたら「こちらにとても大切なことが書いてありますので、お帰りになったら必ず読み返してくださいね」と念を押します。説明の途中で、処方薬や指導箋をさっさと手持ちのバッグに仕舞おうとすれば、急いでいて聞いていないかもしれないので「分からないことがあれば、いつでも相談してください」とひと声掛けるなど、プラスアルファの言葉を忘れないことが大切です。
製薬企業の指導箋や薬局独自の資料を使う場合もひと工夫しましょう。指導箋等はイラストや写真が豊富でわかりやすく、説明の時間を短縮できるため大変有用ですが、情報量が多すぎて、読むのが面倒と感じる患者さんが少なくありません。そこで、なぜ読んでほしいのか、どこが一番大切なのか、といった個々の患者さんに向けたメッセージを伝えるひと手間が有効です。読んでもらいたい箇所にマーカーや付箋を付けて「お忙しいようでしたら、ここだけはしっかり目を通してください」といったように伝えると、患者さんの意識に残りやすくなります。
服薬指導は1回説明したら終わりというものではありません。大切なのは、患者さんが正しく理解して服薬できるかどうかです。薬剤師の説明が一方通行にならないよう、患者さんが何を求めているか、どのようなことを知りたいと思っているのかにフォーカスして、患者さんの様子を観察しましょう。状況に応じて、説明の言葉や資材を変えたり、説明時の表情や仕草、声のトーンにも気を配るなどアプローチの方法を工夫して、患者さんが理解するまで何度でも繰り返し、安心して服薬できるようサポートしてほしいと思います。

村尾 孝子 先生 監修

村尾 孝子 先生 監修

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