Essential for Health Care Providers 第12回

サイトへ公開: 2023年02月28日 (火)

【第2回】管理目標を見据えたCOPD診療
― 安定期COPD管理のアルゴリズムに沿った薬物療法 ―

【第2回】管理目標を見据えたCOPD診療  ― 安定期COPD管理のアルゴリズムに沿った薬物療法 ―

2022年6月に『COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版』が発刊されました。本コンテンツでは、第6版作成委員会 主任編集委員の東北大学病院 杉浦 久敏 先生に、第6版の改訂ポイントのひとつである“安定期COPD管理のアルゴリズム”をもとに、COPD薬物療法のポイントについてご解説いただきました。ぜひ、ご覧ください。

【まとめ】

  • ガイドライン第6版では安定期COPD管理のアルゴリズムを、患者全体を喘息病態非合併例と合併例(ACO)に分けて記載し、新たにLAMA/LABA/ICS配合薬およびマクロライド系抗菌薬の位置付けを提示した
  • COPDは好中球性の気道炎症を特徴とし、タバコ煙が最大のリスク因子であるが、近年では小児期における肺の低成長もCOPD発症に関与していることが報告されている
  • 実臨床でCOPDを判断するポイントは、喫煙歴がある40歳以上の患者さん
  • 本邦の研究では、COPD患者さんの25.5%、喘息患者さんの27.1%がACOを有することが報告されており、それぞれの病態に合った治療を行っていくことが重要
  • 専門医のみならず、かかりつけ医の先生方にもぜひCOPD・喘息・ACOという病態の特徴を認識していただき、ガイドラインに沿った適切なCOPD薬物療法を行っていただきたい

Q. ガイドライン第6版における安定期COPD管理のアルゴリズムの改訂ポイントは?

ガイドライン第6版では、患者全体を喘息病態非合併例と合併例(ACO)に分けて記載しました。さらに、新たにLAMA/LABA/ICS配合薬およびマクロライド系抗菌薬の位置付けを提示しました1)

Q. COPDの病態の特徴とリスク因子は?

本アルゴリズムに沿ったCOPD薬物療法のポイントを理解するうえで、まずはCOPDの病態の特徴について解説します。
COPDは、好中球性の気道炎症を特徴とします。また、末梢気道の狭窄と肺気腫といった病理学的変化を伴い、基本的には非可逆性の気流閉塞を特徴とする疾患です。一方、喘息は、主に2型炎症を基調とする好酸球性の気道炎症を特徴とし、変動性・可逆性の気流閉塞がみられる疾患です。
COPD最大のリスク因子はタバコ煙であること2はご存じかと思いますが、近年では、肺の低成長もCOPD発症に関与しているといわれています3。肺の低成長自体の詳しい機序はまだ明らかになっていませんが、小児喘息や妊娠中の母親の喫煙、小児期の重篤な呼吸器感染症などが肺の成長障害を招き、COPDのリスクとなることが報告されています3

Q. COPDの病態の特徴とリスク因子は?

Q. 実臨床においてCOPDを判断するポイントは?

低成長などの非喫煙関連リスク因子への注目も高まってきていますが3、現状、実臨床においてCOPDを判断するポイントはシンプルで、喫煙歴がある40歳以上の患者さんです。また、COPDの代表的な症状は息切れであり、その他には咳、痰、重症例になると喘鳴がみられることがあります。一方、喘息を判断するポイントは、症状の変動性や発症の時期、年齢、家族歴、アレルギー歴などです。
COPDの特徴のみの場合にはCOPD単独、喘息の特徴のみの場合は喘息(リモデリングのある)と診断します。40歳以上で、気管支拡張薬吸入後の1秒率<70%であることに加え、COPDの特徴と喘息の特徴を有する場合、ACO(喘息とCOPDのオーバーラップ)と診断します。ACOでは、その臨床的特徴として、COPD単独の患者さんと比べて症状が不安定で増悪の頻度が高いといわれています4
本邦の研究によると、COPD患者さんの25.5%、喘息患者さんの27.1%がACOを有することが報告されており5,6、それぞれの病態に合った治療を行っていくことが重要です。

実臨床においてCOPDを判断するポイントは? 

Q. 安定期COPD管理のアルゴリズムから見たCOPD薬物療法のポイントは?

ガイドライン第6版に示されている安定期COPD管理のアルゴリズムに沿って、喘息病態非合併例と合併例(ACO)それぞれの薬物療法のポイントをご紹介します。

安定期COPD管理のアルゴリズムから見たCOPD薬物療法のポイントは?


COPDの薬物療法は、病態および重症度に合わせて治療を実施します。COPDの重症度は、ガイドラインに記載されているとおり、「FEV1低下の程度のみならず、運動耐容能や身体活動性の障害程度、さらに息切れの強度、QOLの程度や増悪の頻度と重症度を加味して総合的に判断」7します。
ACOの場合は、ガイドラインにて「COPDに対しては、ICSはLABDs※と併用する。ICSは、重症度にかかわらず、喘息あるいは喘息様病態合併患者(ACO)には追加する」8とされているように、初回からICSと長時間作用性気管支拡張薬を併用して治療を行います。言い換えると、ICS単独、あるいは長時間作用性気管支拡張薬単独では治療をしないということです。
喘息病態非合併例の場合は、ご覧のとおり、長時間作用性気管支拡張薬のLAMA(あるいはLABA)から開始します。それぞれの単独療法で増悪や症状のコントロールが得られない場合には、LAMA+LABA併用療法(LAMA/LABA配合薬)に変更するという流れです。さらに、今回の改訂では、LAMA+LABAを使用しても「頻回の増悪かつ末梢血好酸球増多」がみられる患者さんに対しては、LAMA+LABA+ICSの3剤併用療法(LAMA/LABA/ICS配合薬)を位置付けています。このように、喘息病態非合併例では、基本的には症状や増悪頻度などを考慮して治療をステップアップしていくという考え方です。一方で、最終的にICSを追加した際の3剤併用療法においては、「無効あるいは副作用発症患者は中止を検討する」として、LAMA+LABA併用療法へのステップダウンの矢印が示されています。
COPD患者さんに対し、病態および重症度に合わせた薬物療法を行うことで、COPDの管理目標9としても掲げられている患者さんの現在の症状の改善、および将来リスクの低減につながると考えられます。専門医のみならず、COPD患者さんの大部分を診療されている非専門医の先生方にも、ぜひ、COPD・喘息・ACOという病態の特徴を認識し、ガイドラインに沿った適切な薬物療法を行っていただければと思います。

Q. 先生のCOPD薬物療法におけるLAMA/LABA配合薬スピオルト®の位置付けは?

スピオルト®は、中等症以上のCOPD患者さんの薬物療法における、有用な選択肢のひとつと考えています。
私は、COPD治療薬に対して気管支拡張作用とその持続性を重要視しており、その両方において、スピオルト®は選択肢になり得ます。加えて、スピオルト®は日本人患者さんを含む臨床試験において、症状やQOL、増悪、運動耐容能、身体活動性への影響について検討を重ねています。これらのエビデンスは、COPD診療を行うわれわれ医師にとって、薬剤を処方するうえで参考になるものと考えています。

先生のCOPD薬物療法におけるLAMA/LABA配合薬スピオルト®の位置付けは?

日本人COPD患者さんにおける呼吸機能および運動耐容能について検討されているスピオルト®

スピオルト®は、日本人COPD患者さんを対象に、呼吸機能や運動耐容能などを検討したVESUTO試験が行われています。
対象は、40歳以上で、GOLD病期分類Ⅱ~Ⅳの中等症以上のCOPD患者さん184例でした。
スピオルト®またはスピリーバ®のいずれかを、1日1回、6週間にわたって吸入投与しました。

日本人COPD患者さんにおける呼吸機能および運動耐容能について検討されているスピオルト®

主要評価項目である6週間後における治験薬投与60分後の最大吸気量は、スピオルト®群1.990L、スピリーバ®群1.875Lであり、スピオルト®群はスピリーバ®群に対し有意な最大吸気量の増加が検証されました。

日本人COPD患者さんにおける呼吸機能および運動耐容能について検討されているスピオルト®

こちらは副次評価項目である、その他の呼吸機能の結果です。
6週間後における治験薬投与30分後のFVCは、群間差163mL、投与30分後のFEV1は群間差105mLと、スピオルト®群はスピリーバ®群に対し有意なFVCおよびFEV1の改善を示しました。

日本人COPD患者さんにおける呼吸機能および運動耐容能について検討されているスピオルト®03

こちらは副次評価項目である、投与6週間後の6分間歩行試験の結果です。
運動耐容能の指標である6分間歩行距離は、両群間で有意差は認められなかったものの、スピオルト®群で311.5m、スピリーバ®群で307.4mでした。

日本人COPD患者さんにおける呼吸機能および運動耐容能について検討されているスピオルト®04

有害事象は、スピオルト®群180例のうち68例(37.8%)、スピリーバ®群182例のうち63例(34.6%)に認められました。そのうち、副作用(医師の判定による)は、それぞれ6例(3.3%)及び8例(4.4%)でした。
主な有害事象は、スピオルト®群、スピリーバ®群でウイルス性上気道感染がそれぞれ18例(10.0%)及び11例(6.0%)、COPDが9例(5.0%)及び9例(4.9%)、気管支炎が3例(1.7%)及び3例(1.6%)などでした。
重篤な副作用の報告はありませんでした。
投与中止に至った有害事象は、スピオルト®群1例(0.6%)、スピリーバ®群3例(1.6%)でした。なお、投与中止例の詳細および死亡例については、論文等に記載がありませんでした。

日本人COPD患者さんにおける呼吸機能および運動耐容能について検討されているスピオルト®05

COPDの管理目標を見据えた薬物治療において、日本人COPD患者さんの呼吸機能および運動耐容能などについて検討されているスピオルト®をぜひお役立てください。

【引用】

※LABDs:長時間作用性気管支拡張薬

  1. 日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会 編: COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版. 2022, p.97.
  2. 日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会 編: COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版. 2022, p.19-22.
  3. Yang IA,et al.Lancet Respir Med. 2022;10(5):497-511. 著者にベーリンガーインゲルハイム社より謝金/講演料を受領した者が含まれる。
  4. 市川 朋宏,杉浦 久敏.臨牀と研究.2021;98(9):1082-1090.
  5. Hashimoto S,et al.Adv Ther. 2021; 38(2): 1168-1184.
  6. Harada T,et al.Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2015; 10: 595-602.
  7. 日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会 編: COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版. 2022, p.96.
  8. 日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会 編: COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版. 2022, p.98.
  9. 日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会 編: COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版. 2022, p.92.
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