座談会「災害時の糖尿病診療を改めて考える」第1回:「災害に備える」

サイトへ公開: 2023年09月28日 (木)
第1回:「災害に備える」

ご出席者(左から):
佐藤 譲 先生(東北医科薬科大学 若林病院 名誉病院長)<司会>
安西 慶三 先生(佐賀大学医学部肝臓・糖尿病・内分泌内科 教授)
児玉 慎二郎 先生(東北大学大学院 医学系研究科 糖尿病代謝内科学分野 助教)
秋吉 明⼦ 先生(熊本⾚⼗字病院 薬剤部)
阿部 恵美子 先生(元 女川町地域医療センター 看護部)

未曾有の災害といわれた東日本大震災から12年。その後も、熊本・北海道等の震災被害、また、台風や大雨による被害、火山活動に関する被害など、多岐にわたる災害が毎年のように全国で発生しています。このような背景から、2022年10月に、日本糖尿病協会から災害が発生する前後に役立つ糖尿病連携手帳挟み込み型リーフレットが発行されました。
将来起こりうる災害に備えていただくために必要なこととは―。災害を経験した地域の医師・メディカルスタッフの先生方と災害時の糖尿病診療について改めて考えます。
座談会の模様を全3回にわたってご紹介します。

第1回:災害に備える
第2回:避難中の生活サポート(2023年10月公開予定)
第3回:避難中の服薬サポート(2023年11月公開予定)

●糖尿病連携手帳挟み込み型 防災リーフレット作成の背景

佐藤 東日本大震災から丸12年経ちましたが、日本ではその後も、大地震、台風や水害など多くの災害が発生しています。また、政府の中央防災会議が、科学的に想定される最大クラスの南海トラフ地震が発生した際の被害想定を行うなど、巨大地震発生の切迫性も高まっているとされています。

こうしたことを背景に、日本糖尿病協会では、2022年10月、糖尿病のある方に防災意識を高めていただくことを目的として、災害が発生する前と後の両方で役立ててもらうためのリーフレットを制作しました。糖尿病のある方が災害から身を守るために必要不可欠な情報をA4サイズ1枚にコンパクトにまとめ、四つ折りにして糖尿病連携手帳に挟み込んで携帯できるようにしています(図1)1)

図1 日本糖尿病協会 糖尿病連携手帳挟み込み型 防災リーフレット

図1 日本糖尿病協会 糖尿病連携手帳挟み込み型 防災リーフレット

 

表面は、「災害に備える」をテーマに、薬剤などの非常時携行品リスト、薬剤の名称、避難所情報、地域の災害拠点病院の連絡先などを記入できるようにしたほか、災害時の心得として、食事や水分補給が重要であること、経口薬・インスリンは状況に応じて調整してよいこと、災害時には厳格な血糖管理、血糖マネジメントが難しくなるので少し高めの空腹時血糖値150~200mg/dL程度で構わないことなどを記載しています。また裏面には、「避難生活を乗り切る」をテーマに、食事と運動のワンポイントアドバイスをイラスト入りで紹介しています。

災害はいつやってくるか予想がつかないものです。多くの患者さんに普段から糖尿病連携手帳とともに携帯していただき、繰り返し目を通すことにより、災害を乗り越える力を身につけていただきたいと考えています。

ただ、このリーフレットは、インターネットでダウンロードして自分の手帳に挟み込んでいただく必要があるため、患者さんにとっては少し手間がかかってしまう面もあると感じています。

児玉 防災リーフレットなど災害に備えて役立ててほしい資料は、必ず外来で患者さんにお渡しするようにしています。そのうえで、いわゆる災害袋にも必要なお薬をストックしておくように、たとえば、インスリンであれば1本は針とセットで入れておくようにお伝えしています。

佐藤 ありがとうございます。日頃から災害に備えた打ち合わせをしておいていただくことは、非常に大切ですね。緊急時や災害時に、どのように経口薬・インスリンを調整したらよいかについても、普段から主治医に相談しておいていただけるとよいのではないかと思います。

●医療者チームの備え DiaMAT

佐藤 安西先生は、日本糖尿病学会と日本糖尿病協会の災害時の支援に関する活動として、糖尿病医療支援チーム(Diabetes Medical Assistance Team:DiaMAT)の設立にご尽力されていますね。

安西 もともとは2004年の新潟県中越地震、それから2011年の東日本大震災後に、災害に強い糖尿病医療システムの構築を目指した活動が必要だという声があがり、2014年に刊行された「糖尿病医療者のための災害時糖尿病診療マニュアル」(編著:日本糖尿病学会)でDiaMATが提唱されました。

糖尿病のような慢性疾患については、これまで災害時の体調管理などに関する支援が十分ではない面がありましたが、慢性疾患の薬剤や食事、通院などの課題を1つずつ解決していくことが被災地の医療にとって非常に重要であるという認識が高まっています。

佐藤 組織としては、どのような体制を予定されているのでしょうか。

安西 災害時には多くの救護班が現地入りするため、効果的な活動を行うためには、災害対策本部からの指示を直接受けて動ける体制が必要です(図2)。

安西 災害時には多くの救護班が現地入りするため、効果的な活動を行うためには、災害対策本部からの指示を直接受けて動ける体制が必要です(図2)。

災害対策では都道府県単位の組織が必要だと考えていますので、日本糖尿病学会では糖尿病対策推進会議など、日本糖尿病協会では都道府県支部などを軸に、日本糖尿病療養指導士(CDEJ)や地域糖尿病療養指導士(CDEL)の組織なども連携した組織化を検討しています。

佐藤 組織化に向けた準備が着々と進められているようですね。現場の先生方からは、どのような期待が寄せられていますか。

安西 日本糖尿病協会九州支部会員に対して行った災害の備えに関するアンケート調査では、DiaMATについて必要だという回答が約9割を占め、糖尿病のある方に対する災害教育が強化されることや災害発生時にも糖尿病治療薬が安定して供給されることなどを期待する声が多くありました。あらためて、DiaMATの取り組みを先進事例として、他の領域にも横展開できるようなスキームの構築を進めていかなくてはならないという思いを強くしています。

●糖尿病のある方の災害の備えにおける課題とは

佐藤 糖尿病のある方の災害の備えとしては、どのようなことが課題となるでしょうか。

児玉 われわれが東日本大震災で避難所を巡回した際、お薬手帳がないために日頃服用している薬剤を患者さんが把握できていなかったということがありました。患者さんもお薬手帳の重要性を再認識されたようで、東日本大震災後に行った調査では、お薬手帳を常に携帯しようと思っているという方(「すでにしている」「すぐにしようと思っている」「いつかはしようと思っている」と回答した人の合計)は、8割以上にのぼりました(図3)2)

糖尿病のある方の災害の備えにおける課題とは

いまはお薬手帳の内容を管理できる端末用アプリなどもありますし、処方薬が変わったときだけお薬手帳の最新のページを写真で撮って記録しておくことも有用かと思いますので、そうしたツールや手段を患者さんに積極的にお伝えしています。

佐藤 最近は二次元コード付きの処方箋もあり、スマートフォンに処方薬を記録しておくことも可能ですよね。そうした利用も、今後広まるといいなと感じています。薬剤の管理について、秋吉先生はどのようにお考えですか。

秋吉 2016年の熊本地震のとき、家族全員の薬剤を全部1つの袋にまとめて持ち出していた患者さんがいらっしゃいました。家族と自分の薬剤が混ざっていため、誤って家族の糖尿病薬を服用してしまったというお話を聞きましたので、家族の薬剤を1つにまとめるときは、きちんと個人ごとに区別したうえでまとめるようにアドバイスしています。

佐藤 確かに、薬剤を個人別にしっかり区別しておいていただくことも必要ですね。阿部先生は、災害への備えとして、看護師のお立場から、患者さんにどのようなお話をされていますか。

阿部 当センターの糖尿病教室では年に1回、災害や震災について備えることをテーマにした勉強会を行っています。患者さんやご家族の方は、糖尿病という大きなくくりで考えていらっしゃることも多いので、1型なのか2型なのか、どのような薬物療法を行っているのかなど、ご自身の状態について正しく把握しておいていただくよう促しています。

佐藤 特に災害時に救急支援で他地域の医師が現場に入ったときは、患者さんからインスリンがほしいと言われてもどの種類のインスリンなのか、経口薬についてもどのような経口薬が必要なのかがわからないことが多いですよね。

阿部 東日本大震災の際は、お薬手帳などが津波によって流されてしまって手元にないという患者さんが多かったので、インスリンの容器の色や注射回数などを聞き取って対応したこともありました。また、経口薬についても、薬剤名がわからなくても副作用などの特徴を患者さんが覚えているとどの薬剤かを推測することも可能になりますので、ご自身が使用している薬剤の特徴を知っておいていただくことも大切かと思います。

佐藤 災害時には3日間自力で生きる“患者力”が大切とも言われていますが、そのような患者力を養っていただくことも重要です。

阿部 糖尿病教室では、低血糖の対処法やシックデイルール、フットケア、感染症対策などの重要性をお伝えしていますが、災害時に「あのときのこの話が役に立った」と話してくださる患者さんがたくさんいて、糖尿病教室でいろいろお話ししてよかったなと思いました。

安西 先ほどご紹介したアンケート調査では、災害対策を行っているかについて、被災経験の有無による差はありませんでしたが、災害教育の有無でみると、災害教育を受けたほうが災害対策を実施するということがわかっています。やはり私たち医療者が患者さんに災害教育をすることが非常に重要で、それも1回ではなく定期的に実施することが大事ではないかと考えています。

佐藤 糖尿病教室などで、患者さんに定期的に意識付けしていただくと効果的かもしれませんね。

●災害発生時における糖尿病管理の課題とは

佐藤 最後に、災害発生時の職種間の連携で大切なことや、連携における課題については、いかがでしょうか。

安西 まず大事なのは都道府県およびブロック単位での顔の見えるCDEやDiaMATのネットワークを構築しておくことだと思います。熊本地震では震災の前年度の糖尿病九州地方会でCDEミーティングを行っていました。そのため比較的スムーズに熊本の災害チームと連携が取れました。

災害時にはたくさんの医療・保健チームが現地入りしますので、情報を整理・分析して共有することが重要だと考えています。たとえば、保健所を拠点として救護活動を調整したり、災害医療コーディネーターと地域の医師やその他の医療者で情報共有を行ったりすることで、被災地に応じた課題を克服していくことが必要だと感じました。

佐藤 災害時にもチームとして医療を提供することが必要になりますが、そのためには地域でのネットワークづくりや情報共有が不可欠ですよね。秋吉先生は、熊本地震のご経験から、どのような課題があるとお考えですか。

秋吉 熊本地震のときに、それまで患者さんに具体的な説明をしてこなかった、知識が不足していたため説明できなかったなどの反省の声を聞きました。そのため、まずは医療者が災害への備えについて患者さんに正しく説明できるようになっておくことが必要だと感じています。
職種間の連携については、日頃から研修会等を通じて地域の医療者同士がつながりをもっておくことも必要だと思っています。

阿部 東日本大震災直後に、女川町では保健医療福祉調整会議を立ち上げました。これは医療機関だけではなく、避難所18カ所や仮設住宅の情報をまとめて話し合うための会議です。保健師や自衛隊員、仮設住宅を管理しているボランティアの方々にも加わっていただき、課題の抽出や情報共有を行っていました。当初は1日2回、その後は1日に1回の頻度で開催し、現在は、月に1回開催しています。

また、女川町では町の職員やボランティアが、地域に出向いて出前講座を開催しており、災害に関する情報だけではなく、糖尿病を含めた生活習慣病予防などについてもお話をしています。

佐藤 医療者だけではなく、地域のさまざまな立場の方が集まって定期的に情報共有することも大切かもしれません。災害発生時に生じるさまざまな課題を職種間でどのように共有するかというのは、非常に難しい問題でもありますし、今後も課題となるところかと思います。

●トラゼンタ®、ジャディアンス®、トラディアンス®の管理について

災害時においては平時とは異なり、薬剤についてさまざまな保管環境下で管理されることが想定されます。

トラゼンタ®錠 5 mg、ジャディアンス®錠 10mg、同25mg、トラディアンス®配合錠 AP、トラディアンス®配合錠 BPは、いずれも包装状態での貯法は室温での保存が可能です3-5)。また、有効期間は、トラゼンタ®錠 5 mgおよびジャディアンス®錠 10mg、同25mgは3年3)4)、トラディアンス®配合錠 AP、トラディアンス®配合錠 BPは36カ月5)で、いずれも取扱い上の注意は、特に設定されていません3-5)

各製剤の各種条件下における安定性は、表1~表3にお示しする通りです。

トラゼンタ®、ジャディアンス®、トラディアンス®の管理についてトラゼンタ®、ジャディアンス®、トラディアンス®の管理についてトラゼンタ®、ジャディアンス®、トラディアンス®の管理について

 

References

  1. 日本糖尿病協会ウェブサイト
    https://www.nittokyo.or.jp/uploads/files/disaster_leaf_note.pdf
  2. 日本糖尿病学会 東日本大震災から見た災害時の糖尿病医療体制構築のための調査研究委員会 編.東日本大震災から見た災害時の糖尿病医療体制構築のための調査研究 : アンケート調査結果報告書.2012.
  3. トラゼンタ®錠 5 mg インタビューフォーム
  4. ジャディアンス®錠 10mg、同25mg インタビューフォーム
  5. トラディアンス®配合錠 AP、トラディアンス®配合錠 BP インタビューフォーム
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