J-DREAMSデータにみる 日本人の2型糖尿病のある方の疫学的特徴

サイトへ公開: 2023年04月27日 (木)

大杉 満 先生

糖尿病はさまざまな合併症や併発症のリスクを高める疾患であり、糖尿病治療を行う上では合併症の有無を含む臨床プロファイルを考慮した治療選択が重要となります。そこで疫学研究からみた日本人の2型糖尿病のある方の特徴について国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター長の大杉 満 先生にご解説いただきます。ぜひご覧ください。

1. J-DREAMSとは-

J-DREAMS(診療録直結型全国糖尿病データベース事業)は、国立国際医療研究センターと日本糖尿病学会の共同事業として2014年にスタートした大規模データベース事業であり、参加する各医療機関で用いられている種々の電子カルテ上にある糖尿病のある方の診療データを匿名化したのち、国立国際医療研究センターのサーバーに収集します1)。2022年12月時点で全国70施設が参加しており、約9万人の症例登録がなされています。J-DREAMSにより、今後、わが国の糖尿病治療の状況と合併症の関係が明らかとなり、患者さんごとに最適化された個別化医療の提供が可能になると期待されています。

2. 日本人の2型糖尿病のある方における併存疾患/合併症の有病率

日本糖尿病学会が刊行する糖尿病治療の手引きでは、2型糖尿病のある方の合併症の有無を含む臨床プロファイルを考慮した治療選択の重要性が記されています2)
J-DREAMSのデータを用いて、2017年4月から2019年3月までに登録された日本人の2型糖尿病のある方10,151例を対象に、併存疾患/合併症の有病率を検討した後ろ向き研究が実施されました。その結果、日本人の2型糖尿病のある方では、慢性腎臓病や心血管疾患を含む合併症の有病率が高く、罹病期間とともに有病率が増加する傾向が示されています。さらに、本結果では高血圧および脂質異常症を併存する日本人の2型糖尿病のある方が多いことも報告されています(図1)3)

 日本人の2型糖尿病のある方における併存疾患/合併症の有病率

3. 2型糖尿病における合併症予防を見据えた薬物選択

糖尿病における高血糖状態が続くことで合併症のリスクが高まることが知られており、早期からの治療介入が重要です。血糖管理が上手くいかない場合には適切なタイミングで治療強化が求められます。そのため、糖尿病の薬物療法では将来の腎症や心血管イベント等の合併症予防を見据えた薬物選択が必要となります。
日本人2型糖尿病患者を対象として腎機能別にDPP-4阻害薬トラゼンタ®(リナグリプチン)の有効性を検討した臨床試験では、腎機能の程度に関わらず0.8から1.0%のHbA1c低下作用が検証されています(図2、図34)。本試験における主な有害事象は消化管障害で、G1正常~G2軽度低下群の単独投与で2例、G3a軽度~中等度低下群の単独投与で1例、G3b中等度~G5末期腎不全群の単独投与で3例に認められました(図4)。投与中止に至った有害事象は全体で6例(2.8%)に発現し、めまい、胆嚢炎、肺炎、下痢、突然死、肺炎による死亡がそれぞれ1例ずつでした。死亡例は突然死1例、肺炎による死亡が1例でした。なお、重篤な有害事象については、論文中に記載がありませんでした。
また、トラゼンタ®とSGLT2阻害薬ジャディアンス®(エンパグリフロジン)の配合剤であるトラディアンス®配合錠があります。国内臨床試験において、トラゼンタ®5mg単剤による治療で血糖コントロール不十分な日本人2型糖尿病患者を対象としたトラゼンタ®からの切り替え試験(1275.19試験)が実施されています(図55)6)。主要評価項目である投与24週後におけるHbA1cのベースラインからの調整平均変化量は、トラゼンタ®5mg+プラセボ群 +0.21%、トラディアンス®配合錠AP(リナグリプチン5mg/エンパグリフロジン10mg)群 -0.93%で、トラディアンス®配合錠AP群のトラゼンタ®5mg+プラセボ群に対する差は-1.14%であり、HbA1cの有意な低下が検証されました(95%CI:-1.36~-0.91%、p<0.0001、MMRM)(図6)。52週間投与における副作用発現割合は、トラディアンス®配合錠AP・BP(リナグリプチン5mg/エンパグリフロジン25mg)全投与群で20.3%(37/182例)、トラゼンタ®5mg+プラセボ追加投与全投与群で7.5%(7/93例)でした。主な副作用は、トラディアンス®配合錠AP・BP全投与群では血中ケトン体増加4.4%(8/182例)等であり、トラゼンタ®5mg+プラセボ追加投与全投与群では無症候性細菌尿3.2%(3/93例)等でした。投与中止に至った副作用として、トラディアンス®配合錠AP群では発疹および頻尿いずれも0.5%(1/182例)、トラゼンタ®5mg+プラセボ追加投与群では低血糖1.1%(1/93例)が認められました。重篤な副作用として、トラディアンス®配合錠BP群で2例(副腎新生物、および肺の悪性新生物)、およびトラディアンス®配合錠AP群で1例(脳出血)が認められ、このうちトラディアンス®配合錠AP群で発現した脳出血の重症度は高度で、死亡に至りました(図65)6)
トラディアンス®配合錠により、糖尿病がある方の血糖管理状態に合わせて、トラゼンタ®から用法を変えることなく治療強化が可能です(図7)。また、トラディアンス®配合錠に含まれるトラゼンタ®とジャディアンス®には心血管イベントへの影響を検討したCARMELINA試験ならびにEMPA-REG OUTCOME試験などが報告されています(図8)。

2型糖尿病における合併症予防を見据えた薬物選択2型糖尿病における合併症予防を見据えた薬物選択022型糖尿病における合併症予防を見据えた薬物選択032型糖尿病における合併症予防を見据えた薬物選択042型糖尿病における合併症予防を見据えた薬物選択052型糖尿病における合併症予防を見据えた薬物選択062型糖尿病における合併症予防を見据えた薬物選択07

4. まとめ

2型糖尿病治療においては、血糖や体重、血圧などのリスク因子を包括的に良好に保つことにより、合併症の発症・悪化を予防することが重要です。また、糖尿病治療の目標は、合併症の発症・悪化を防ぎ、糖尿病であっても糖尿病でない人と変わらない寿命とQOLを達成することとされています2)。将来の合併症予防を見据えた糖尿病治療を考える上で、配合剤を有するトラゼンタ®は有用な選択肢の一つになると考えます。

References

  1. Sugiyama T, et al. Diabetol Int. 2017; 8: 375-82.
  2. 日本糖尿病学会 編・著. 糖尿病治療ガイド2022-2023. 東京: 文光堂; 2022.
  3. Ohsugi M, et al. Diabetes Res Clin Pract. 2021; 178: 108845.
    (著者に日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社・日本イーライリリー株式会社より講演料を受領している者が含まれる。)
  4. Ito H, et al. Expert Opin Pharmacother. 2015; 16: 289-96.
    (著者に日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社・日本イーライリリー株式会社より講演料を受領している者が含まれる。)
  5. 須崎恵子 ほか:社内資料 エンパグリフロジン/リナグリプチン配合剤国内第Ⅲ相比較・検証試験.(承認時評価資料)
  6. Kawamori R, et al. Diabetes Obes Metab. 2018; 20: 2200-9.
    (本試験はベーリンガーインゲルハイム社・イーライリリー社の支援により行われました。)

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