2型糖尿病治療における腎機能を考慮したトラゼンタ®の位置づけ

サイトへ公開: 2022年04月27日 (水)

金﨑 啓造 先生(島根大学医学部 内科学講座 内科学第一 教授)

金﨑先生お写真

腎機能の低下は低血糖リスクや心血管イベントリスクの増加と関連することが知られています。2型糖尿病治療における腎機能を考慮したトラゼンタ®の位置づけを島根大学医学部 内科学講座 内科学第一 教授の金﨑 啓造 先生にご解説いただきます。ぜひご覧ください。

はじめに-日本の透析療法の現況からみる糖尿病治療の課題

糖尿病の細小血管合併症である、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害は、糖尿病の三大合併症と呼ばれます。中でも、糖尿病性腎症は1998年以降日本の新規透析導入原疾患の第1位であり、2020年には1万5,000人を超える患者さんが糖尿病性腎症によって新規透析導入となっています1)
腎機能の低下は心血管イベントリスクの増加とも密接に関連することが明らかになっており、糖尿病性腎症に対する積極的な治療介入は糖尿病治療における大きな課題のひとつです2)

1. 糖尿病性腎臓病(DKD)の概念とDKD患者数の増加

糖尿病性腎症は、アルブミン尿を伴い、eGFRが徐々に低下する疾患です。しかし近年、糖尿病の治療や合併症管理の進歩、患者さんの高齢化などを背景として、顕性アルブミン尿を伴わずにeGFRが低下する非典型的な糖尿病関連腎症の患者さんが増加しています。米国では、1988~2014年の26年間で2型糖尿病患者さんのアルブミン尿有病率は減少したものの、eGFR低下例の割合は増加していることが報告されています3)。日本においても、2型糖尿病患者さんを対象に腎疾患の臨床症状の経年変化を検討した研究において、1996~2014年の期間でアルブミン尿を呈する患者さんの割合は減少した一方、eGFRが低下した患者さんの割合は増加していることが示されています(図14)
アルブミン尿陽性症例が腎予後不良ということは変わりませんが、加えて、アルブミン尿陰性症例についても注意が必要ということが言えます。
このような状況の変化を受け、欧米では、典型的な糖尿病性腎症に加え、非典型的な糖尿病関連腎疾患を包括的にとらえる概念としてDiabetic Kidney Disease(DKD)という用語が用いられるようになりました。日本においても糖尿病性腎臓病という訳語が当てられ、2017年10月には、日本腎臓学会、日本糖尿病学会が協力して取り組む“STOP-DKD宣言”が採択されています。

糖尿病腎臓病(DKD)の概念とDKD患者数の増加

2. 腎機能が低下した2型糖尿病患者におけるトラゼンタ®の有効性および安全性

腎機能の低下が進行すると、活性代謝物の排泄低下などによる低血糖リスクが高まることが知られています。2型糖尿病の薬物療法において、日本では低血糖が少なく、良好な血糖コントロールが得られるDPP-4阻害薬が多く用いられていますが5)、DPP-4阻害薬の一つであるトラゼンタ®は主に胆汁から未変化体で排泄されるため、腎機能の程度によらず1日1回1錠5mgの投与で治療を行うことが可能です(図26)7)
日本人2型糖尿病患者さんを対象として腎機能別にトラゼンタ®の有効性を検討した臨床試験では、腎機能の程度に関わらないHbA1c低下作用が示されています(図3、図48)。本試験における主な有害事象は消化管障害で、G1正常~G2軽度低下群の単独投与で2例、G3a軽度~中等度低下群の単独投与で1例、G3b中等度~G5末期腎不全群の単独投与で3例に認められました(図5)。投与中止に至った有害事象は全体で6例(2.8%)に発現し、めまい、胆嚢炎、肺炎、下痢、突然死、肺炎による死亡がそれぞれ1例ずつでした。死亡例は突然死1例、肺炎による死亡が1例でした。なお、重篤な有害事象については、論文中に記載がありませんでした。
このことからトラゼンタ®は幅広い腎機能ステージの患者さんの治療選択肢になる薬剤と考えています。

腎機能が低下した2型糖尿病患者におけるトラゼンタ<sup>®</sup>の有効性および安全性腎機能が低下した2型糖尿病患者におけるトラゼンタ<sup>®</sup>の有効性および安全性02腎機能が低下した2型糖尿病患者におけるトラゼンタ<sup>®</sup>の有効性および安全性0腎機能が低下した2型糖尿病患者におけるトラゼンタ<sup>®</sup>の有効性および安全性04

3. リナグリプチンの糖尿病腎への影響

DKDに限らず、進行性腎疾患において、腎の線維化と腎機能の低下は密接に関連しています。我々の研究チームでは糖尿病モデルマウスを用いた基礎研究において、リナグリプチンの糖尿病腎への影響を検討しました。その結果、リナグリプチンの投与により糖尿病腎の線維化に影響を与え、尿中アルブミン量が低下したことを報告しました(図69)

リナグリプチンの糖尿病腎への影響

おわりに

糖尿病治療の目標は、糖尿病であっても糖尿病でない人と変わらない生活の質(QOL)を保ち、糖尿病でない人と変わらない寿命を全うすることです。そのためには、血糖や体重、血圧などを良好にコントロールすることにより、糖尿病性腎症を含む合併症の発症や進行を予防することが重要です10)
ここでお示ししたようなエビデンスを考慮すると、トラゼンタ®は腎機能低下リスクの高い症例から腎機能が低下した症例まで幅広い2型糖尿病患者さんの治療を行う上で、有用な選択肢の一つと考えられます。

References

  1. 花房 規男 他, わが国の慢性透析療法の現況(2020年12月31日現在). 透析会誌2021; 54(12): 611-657.
  2. Ninomiya T, et al. J Am Soc Nephrol. 2009; 20: 1813-21.
  3. Afkarian M, et al. JAMA. 2016; 316: 602‒10.
  4. Kume S, et al. J Diabetes Investig. 2019; 10: 1032–40.
  5. Bouchi R, et al. J Diabetes Investig. 2022; 13: 280-291.
  6. トラゼンタ®錠インタビューフォーム.
  7. Blech S, et al. 社内資料 ヒトでの代謝物検討試験.
  8. Ito H, et al. Expert Opin Pharmacother. 2015; 16: 289-96.
  9. Kanasaki K, et al. Diabetes. 2014; 63: 2120-31.
  10. 日本糖尿病学会 編・著. 糖尿病治療ガイド2020-2021. 東京 : 文光堂; 2020.
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