Effisayil™ 1試験~アジア人部分集団解析の患者背景~

サイトへ公開: 2023年10月30日 (月)

今福先生

監修:今福 信一 先生 
福岡大学医学部 皮膚科学教室 教授

◆はじめに

EffisayilTM 1試験は、日本を含む世界12ヵ国(37施設)から登録された中等度から重度の急性症状*1が認められる膿疱性乾癬(GPP)患者を対象に行われた初めての国際共同第Ⅱ相二重盲検比較試験です。この臨床試験により、ヒト化抗ヒトIL-36受容体モノクローナル抗体製剤スペビゴ®の有効性、安全性が検討されました1, 2
本コンテンツでは、EffisayilTM 1試験の解析計画で事前に規定された日本人を含むアジア人部分集団解析3の患者背景について解説します。

*1 EffisayilTM 1試験における中等度から重度のGPP急性症状の定義:
・GPPGA合計スコア3(中等度)以上、および /・新たな膿疱の存在(膿疱の新規形成または増悪)、および /・GPPGA膿疱サブスコア2(軽度)以上、および /・体表面積(BSA)の5%以上に及ぶ紅斑に膿疱を有する
[参考]GPPGAでは、すべての病変に対して各構成要素を評価し、各構成要素の重症度は5段階尺度で評価されます(図1)。GPPGA合計スコアは、すべてのGPP病変の膿疱、紅斑、鱗屑/痂皮を0(消失)~4(重度)で評価し、各構成要素のスコア(サブスコア)の平均値[(膿疱サブスコア+紅斑サブスコア+鱗屑/痂皮サブスコア)÷3]から算出します。

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◆EffisayilTM 1の試験に登録された患者の背景

EffisayilTM 1試験の試験概要は表1に示す通りです1,2

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EffisayilTM 1試験の全体解析対象53例のうち、アジア人部分集団解析の対象は日本人2例を含む29例で、スぺビゴ®900 mgを単回静脈内投与するスペビゴ群16例、プラセボ群13例に無作為に割り付けられました(図2)。

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登録患者のスクリーニング時のGPPの診断は、European Rare and Severe Psoriasis Expert Network(ERASPEN、欧州の希少で重度の乾癬専門家ネットワーク)が定めるコンセンサス診断基準に基づいて行われました。ERASPENの基準では、GPPの診断にあたって全身の炎症症状の有無は問われていないため、EffisayilTM 1試験では皮膚症状によって患者登録が選択されました。なお、日本から参加した2例の患者は、ERASPEN診断基準に加えて、日本皮膚科学会「膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン」4の診断基準に基づいて、GPPの既往の有無を確認しています。

◆GPPの疫学におけるアジア人の特徴とEffisayilTM 1試験に登録された患者のベースライン特性

1)アジア人GPP患者の疫学的特徴

アジアでは、欧州よりもGPPの有病率が約5倍高いとされています(ただし、近年の電子データベースに基づく研究では、アジアと欧州は同程度の有病率である可能性も報告されています)3
アジア人のGPP患者においては、IL-36RaをコードするIL36RN遺伝子変異を有する割合が高い(46.8~81.8%)ことが複数の研究で報告されています3
これらのアジア人の特徴がスペビゴ®の効果や安全性に影響するのか、日本でGPP診療にあたる医師にとっては興味深い結果であると考えられます。

2)EffisayilTM 1試験アジア人部分集団解析のベースライン特性

EffisayilTM 1試験に登録された患者(アジア人、非アジア人、全体集団)のベースライン特性は、表2表3の通りでした。
アジア人においてもIL36RN遺伝子変異がある患者/ない患者をはじめとして、乾癬の罹患(過去・現在)のある患者/ない患者、尋常性乾癬のある患者/ない患者、GPPGA合計スコア中等度~重度、GPPGA膿疱サブスコア軽度~重度などさまざまなベースライン特性を有する患者を対象にスペビゴ®が投与されたデータを得ることができました(表2)。
なお、全体集団においては、主要評価項目、重要な副次評価項目、副次評価項目は、IL36RN遺伝子変異の有無別にサブグループ解析が行われていますが、IL36RN遺伝子変異の有無はスペビゴ®の有効性には影響しないとの結果が示されています2

全体集団、アジア人、非アジア人の平均年齢は、それぞれ43.0歳、42.6歳、43.5歳、体重はそれぞれ72.0kg、66.3kg、78.99kg、BMIはそれぞれ27.0kg/m2、26.0 kg/m2、28.21 kg/m2でした(表2)。アジア人は欧米人に比べてBMIが低いことが多いため5、このような患者背景となったことが考えられます。

乾癬の罹患については、乾癬の罹患(過去・現在)のある患者は、全体集団、アジア人、非アジア人の順に38人(71.2%)、22人(75.9%)、16人(66.7%)、尋常性乾癬のある患者はそれぞれ9人(17.0%)、6 人(20.7%)、3 人(12.5%)(表2)でした。

また、GPPの重症度の各指標をみると、全体集団、アジア人、非アジア人の順で、GPPGA(Generalized Pustular Psoriasis Physician Global Assessment)*2合計スコア3が81.1%、82.8%、79.2%、4が18.9%、17.2%、20.8%、GPPASI*3合計スコア中央値(Q1、Q3)は27.2(15.4、 36.1)、19.4(14.3、32.1)、30.6(19.2、36.2)、JDA-GPPSI*4 重症度スコア中央値(Q1、 Q3)は8.0(6.0, 10.0)、7.0(5.0、9.5)、9.0(8.0、10.0)でした(表2)。

*2 GPPGA:膿疱性乾癬に対する医師による全般的評価
*3 GPPASI:汎発性膿疱性乾癬面積重症度指数。乾癬の重症度と面積の指標として確立されているPASI(Psoriasis Area and Severity Index)をGPP用に適合させたもの。GPPASI病変の状態を0~72でスコア化している。GPPASI 75は、GPPASIスコアがベースラインから75%以上改善したことを表す。
*4 JDA-GPPSI:Japanese Dermatological Association - Generalized Pustular Psoriasis Severity Index。日本皮膚科学会のGPP重症度指数。

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また、表3にはCRP値、白血球数、好中球数などのベースライン値が示されていますが、日本皮膚科学会「膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン」では、膿疱性乾癬(汎発型)診断の参考項目(重症度判定および合併症検索に必要な臨床検査所見)として、白血球増多、CRP 陽性などが挙げられています4。膿疱性乾癬(汎発型)の診断においては、臨床・病理組織検査を除いて疾患特異性の高い検査項目がないとされており、これらの検査は病態、重症度や合併症を判定するための重要な検査項目となっています4

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◆おわりに

EffisyailTM 1試験は、GPPの患者さんにおけるスぺビゴ®の有効性と安全性を検討した試験であり、アジア人部分集団の解析も行われました3。EffisyailTM 1試験の結果については、論文2, 3または別コンテンツをご参照ください。
今回は、そのEffisyailTM 1試験に登録されたGPP患者の背景をアジア人部分集団と全体集団の違いにフォーカスしてお示ししました。本試験では、アジア人部分集団と全体集団で統計的な処理がされていない等のlimitationはありますが、それでも、アジア人のGPP患者の背景やアジア人とアジア人以外のGPP患者の違いを知るための情報として、有益と考えます。
GPPは急性症状を繰り返すことが特徴であり、診断時、再発時を問わず、迅速かつ適切な治療が重要となりますが、GPP診療を行う際に、EffisayilTM 1試験のアジア人部分集団解析は有用なデータの1つとなると考えられます。

References

  1. 社内資料:中等度から重度の急性期症状が認められる膿疱性乾癬(汎発型)(GPP)患者を対象とした国際共同第Ⅱ相二重盲検比較試験(Effisayil-(CTD 2.7.6.3.2)[承認時評価資料]
  2. Bachelez H, et al. N Engl J Med. 2021; 385(26): 2431-2440.
    本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。本論文の著者にベーリンガーインゲルハイム社の社員が含まれています。
  3. Morita A, et al. J Dermatol. 2023; 50(2): 183-194.
    本研究はベーリンガーインゲルハイム社の支援により実施されました。本論文の著者にベーリンガーインゲルハイム社の社員が含まれています。
  4. 日本皮膚科学会膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン作成委員会. 膿疱性乾癬(汎発型)診療ガイドライン2014年度版. 日皮会誌. 2015; 125(12): 2211-2257.
  5. NCD Risk Factor Collaboration (NCD-RisC). Lancet. 2017; 390(10113): 2627-2642.
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